第144話、ダンジョンマスター、自分が好き勝手してるのに他がそうではないとは思えなくて
ピプルの扱う瞳術は、俺のスキルで言うところのブックによく似ていて。
その効果範囲もワンフロアを網羅するほどなのだが。
そこに『スルージブル』が加わったことで。
もれなく一階層を壁を飛び越えて周りの夥しい敵性に、波打つように影響を及ぼしていく。
「お、早速数が減り始めたぞ。よし、それじゃあ扉を開けるぞ!」
俺はマップの敵性を示す赤色円たちに大きな動きがあったのを確認すると。
すぐに、実際のところは特定のアイテムがなければ開かない仕様になっていたらしい扉を開け放つ。
「それでは、参ります!」
「むそーするよぉっ!」
「わたしは後方彼女……じゃなかった、入口にいてじゃんじゃん瞳術発動する」
その瞬間目に飛び込んできたのは。
やはりすべてがラマヤンさんの趣味、というわけばかりでもなかったのか。
もともとそう言う属性のモンスターたちであったのか。
マップのその殆どを占めている色合いとほとんど変わらない血みどろであった。
血肉と臓物を装備したひしめくモンスターたち。
一見するとどのような種のモンスターであるのかすら分からないものもいて。
ダンジョン外のフィールドと呼ぶべき場所、そのロケーションすら血肉骨で彩られ形作られている。
しかし、それに怯んだのは俺くらいのもので。
勇ましい声とともにディーとヴェノンが文字通り飛び出していく。
その時、これ幸いとばかりに『ヴァルーノ(万能得)』のキラキラも飛び出していってしまったが。
そんな二人を追い守るようにして世界を浄化して言っているのを目の当たりにしたことで、そのまま任せることにして。
そこからのディーとヴェノン、そしてピプルは。
正しく無双という表現が正しかったんだろう。
その見た目はともかくとして、もしかしたら統制された軍勢だったのかもしれないが。
開幕すぐのピプルの瞳術、【ダスロブラント(混乱凝視)】の発動に乗じて。
ディーの通常三回攻撃となる剣さばきと。
回転するように砲弾をばらまき道を切り開き、あっという間に血肉骨ばかりのモンスターたちとの間を詰めたヴェノンの爪の一撃は。
『ヴァルーノ』の煌きをまとって、みるみるうちに世界を変えていく。
だが、敵性を示す夥しい数の赤色円がマップから駆逐されていくのは、そう長くない時間だった。
視界をそめる赤色円がなくなったかと思ったのは一瞬のことで。
すぐさまウィンドウの画面外から、赤色円が補充されていく。
「ふむ、これはまだ出番があるね。それじゃあお次は【ブラインドス(視界潰膜)】の瞳術!」
間髪を置かず、ピプルが繰り出すのは。
シンプルに敵性の視界を奪うものだ。
具体的なその効果として敵性の攻撃が単調になる。
ダンジョンバトル的に言えば前方、進行方向にしか行動できなくなる、というもので。
その特性を当然知っているディーとヴェノンは。
共に中空を駆り、相手の背後を取るようにして立ち回っていく。
「うむ。ほれぼれするほど圧倒的だな。今のうちに一階層の見回り点検をしてしまうことにしよう」
「それはいいけどマスター、ダンジョンを作り直せるんだから、ほかに入口があるのならなくしちゃうってことでいいの?」
「ああ、あの様子だと本来の入口はひとつしかないんだろう。これからやるのは俺と同じダンジョンクリエイトができる魔王……ダンジョンマスター対策だな。数に限りはあるが、出来うる限り『サンクチュアリ(破魔聖域)』のカードやブックを配置しておこうと思ったのさ。アオイには他の魔王が入ってきそうなポイントを、勘でいいから示してほしいんだ」
「わかったー! がんばるぞー!」
そもそもが破壊不可の壁を壊して侵入してくるような存在なんていないと思いたいが。
己を鑑みてしまうとそんな展開も否定できない、ということでの措置である。
そこで、頼みの綱となるのが、マイダンジョン内にて鍛錬し、レベルアップしたことで。
特に幸運値が急上昇中のアオイである。
それなりにレアアイテムなのでカードとブックを合わせても十数枚しかない『サンクチュアリ』ではあるが。
今や幸運の象徴と化しているアオイの支持を仰げば、きっといい方向へと導いてくれるだろう。
(当然、そんなアオイには幸運値が更に上昇する『フェアブリッズ・ドロップ』と言う名のイヤリングを装備してもらっている)
そんな事を考えつつ、アオイについていくだけの簡単な作業をしながら前線にて縦横無尽に暴れまわっている三人に注意を向けていると。
何やら戦況に変化があったようで。
「むむ、『テリブラム(心神恐慌)』が、おそろしの瞳がきかないのが現れた。こうなったらわたしも出るよ」
減っても減ってもどこからともなく補充される膠着状態。
しかし、不自然に多くの赤色円が一気に減って。
その場に大きな赤黒い円が三つ四つ現れたことでしびれを切らせたというか。
自分の近距離で暴れ回りたかったらしいピプルが。
そんな事を言ってから。
ディーやヴェノンとも引けを取らない速さで戦場へと突っ込んでいくのが分かって……。
(第145話につづく)




