第139話、魔王、やっぱり前言撤回で我を通して、祝福の息吹を
俺はすぐさま集中力を高めて。
ダンジョン探索、あるいはそれに付随する戦いに意識を向ける。
「フェアリ、エルヴァ。回復【リカバー】と状態異常解除【ディクアリイ】魔法の準備を頼む」
「はいっ」
「了解です」
「ディーとスーイは各々であの赤い刃の対処をお願いする。他のみんなは後方にて待機」
「「「了解っ!」」」
魔物や魔精霊の言葉、あるいは歌であるからなのか。
俺には、シラユキたちが聞き感じ取っているものが、怨嗟の雑音のようにしか聞こえなかった。
故にもっともっと近づくべきだと、みんなにそう指示しながら更に一歩二歩と踏み出す。
「……オオオオォォォッッ」
すると、その枝葉から根から一転して青白けた死体の顔から、赤色の湿気た刃が矢継ぎ早に飛んでくる。
自身の進行方向以外のものはみんなに任せて、『ヴァレス・ソード』をひと振り、ふた振り。
それを蹴散らし霧散させつつ、さらに前へ。
みんなのサポートもあって、邪魔してくる枝葉根っこをかきわけ、大樹めいたその身体……幹があらわにになっているところまで辿り着くことができた。
それに触れれば、湿りきったしっとりした感触……ではなく。
ダンジョンマスターな俺にとってみれば馴染みのもので。
「チューさん。そう言えば思い出したよ。元々のダンジョンコア、他の子たちで言えば『獣型』って、
ダンジョンギミック、それこそコアらしい形、姿をとっていたよね」
「む。そうじゃな。動けず選べず、ただ待つのみじゃったところに主どのが来てくれたのじゃ。思えば、それは大きな幸運だったのかもしれぬなあ」
そう、この世界にやって来て、チューさんに触れたことですべてが。
このダンジョン三昧の日々が始まったのだ。
チューさんは俺が触れたことでダンジョンコアの姿からふところマスコットなテンジクネズミとしてそんな探索攻略の日々を支えてくれたわけだけど。
それは裏を返せばダンジョンマスターがダンジョンコアを、無意識にもそんな風にカスタマイズしたのだとも言えて。
同じ魔王、ダンジョンマスターであるラマヤンさんもそうだったのだろうか。
価値観がまるで違うから、と言ってしまえばそれまでなのかもしれないが。
何らかの意味やこだわりはあったのだろう。
でも今ラマヤンさんはここにはいないから。
その原因を作ってしまったのは俺な訳だから。
責任を、自分勝手ながらのやり方で取る必要があるはずで。
「コア、ダンジョンのギミックであるのならばまずはちょっと失礼して『ディセメ(識別解析)』のカードをぺたり、と」
当然、『ブレスネス(祝福息吹)』のかかったものではないものを。
今までならば『ディセメ』に『ブレスネス』の付与はあまり意味がないようにも思えたけど。
荒ぶってどのような結果になるか分からないから。
とりあえずはノーマル品を、などと思っていると。
攻撃されると思ったのか、オートで周り、近くにいるものに反撃してしまうのか。
今度は赤黒い棘のようなものが、識別したばかりの隙……ターン終わりにいくつも伸びて飛んでくる。
「……っ! 【ウォーター・シェル】っ!!」
「っ、アオイ! ナイスアシストだ!」
それがアオイによって生み出された粘着性の高い水の膜で受け止め絡め取られる中。
『ディセメ』のカードは問題なく樹皮めいた肌に吸い込まれていって……。
―――識別結果。
虚栄のラマヤン、魔王ナンバー7のダンジョンコア、『ノ・ノア』。
LP、瀕死(3~11を行ったり来たり)
SP、6666
状態:猛毒、麻痺、混乱、恐慌、暴走、魔物化、魔力吸収……
虚栄の代紋を確認しました。
カスタマイズ可能です。
カスタマイズしますか?
どうやら通常の『ディセメ』カードでも、しっかり必要な情報を得ることができたようで。
ノ・ノアさんの、過剰なほどに着飾られたものたちは。
俺がチューさんに色々な装備品や、『リヴァ(復活蘇生)』のカード等々を渡しているのと同じこと、なんだろう。
そして、カスタマイズができるということは、初期化できるということでもあるんだろう。
ノ・ノアさんとの契約、ダンジョンマスターとしての権利がこちらに移動しているからこそなのだろうが。
それを横からかっさらうような形で行使するのは、何かが違うような気がしていて。
「これで最後にするなんて、今までのことを考えると約束できないけれど。今一度『ブレスネス』つきのカードを使わせてもらいたいんだけど、いいかな。チューさん」
「みなまでいうでない。主どのの思うようにすればよいよ」
そんなチューさんの言葉に背中を押されるようにして。
改めて取り出したるは、ばりばり『ブレスネス』が付与されている、『(ヴァルーノ)万能得』の薬。
その間も、ラマヤンさんのダンジョンコア、ノ・ノアさんによる反射攻撃は苛烈を極めていたけど。
やっぱりみんなのサポートのおかげで。
問題なく、正しく大樹に水遣りでもするかのように。
『ヴァルーノ』の薬を蒔き与えることができて……。
(第140話につづく)
次回は、11月29日更新予定です。




