第134話、魔王、祝福の副次効果を大いに侮った結果、またやらかす
そんなわけで、事前に大分厄介そうなレイドボスっぽい存在がおわす事が分かってしまったので。
せっかくだから先制攻撃をしてしまおうと、早速とばかりに一枚のカードを取り出す。
「あ、ぎんいろスライムのカードだーっ!」
手始めの基本として、アオイがそう言ってわくわくしているように。
取り出したるは流線型のぎんいろスライムが、描かれた『ヴェロシアップ(倍速行動)』、『ブレスネス(祝福息吹)』つきのカード。
それを自身に貼り付けし、一ターンニ回行動ができるようにしておいて。
さらにもう一枚カードを取り出す。
「……あっ、今度は私~?」
『ヴェロシアップ』の効果ですぐに間延びしたシラユキの声が……って、それはいつものことだったか。
正しくお誂え向きに次に使うのは水場のフィールドをものともしない、確かに『獣型』形態のシラユキに似ていなくもない、海獣の描かれた、何気に初出しかも知れないカード、その名も『スルージブル(摺抜透過)』を、同じく自身に添付して準備完了。
すると、その魔力的なものに反応したのか、それまで全く動きを見せてはいなかった大きな斑に染まった赤色丸が移動を開始していて。
さすがとは思ったけれど、時既に遅し。
仮に、対象を引き寄せおびき寄せたり、逆に瞬間移動などのたぐいて急接近ができたのだとしても。
一ターン以上遅かったといえよう。
「まずは挨拶がわりの『イミルゼ(紫雷一撃)』のカード(もちろん『ブレスネス』つき)!」
改めて見れば『獣型』時代のもふかわなスーイが描かれているカードを、投擲。
「……わ、すり抜けてってる」
黄金色の荒ぶり爆ぜる光球となったそんなカードは。
『スルージブル』の効果を纏って一直線に斑色した赤丸へと向かっていく。
そして、そのままお互いを遮る壁に当たることなくすり抜けて。
あっという間に斑色赤丸へと接触。
何やら大きな音がしたかと思ったら、そんな赤丸が点滅し、少しばかり色が薄くなっているようにも見えたので、恐らく少なからずダメージが、こちらのスキルが通ったのだと判断。
そんな挨拶を終えたところで俺は、矢継ぎ早にカードを繰り出していく。
まずは『イレンバーク(封印呪縛)』のカード、初出。
先にあげた瞬間移動などの魔法やスキル、遠距離攻撃などを封じるカードを。
続けて、攻撃魔法系スキル『イミルゼ』の上位互換、同じく初出の『カムラムゾン(炎極礫砲)』。
『イミルゼ』のような足の速い雷ではなく、対空などにも効果を発揮する炎の礫砲を繰り出すもの。
さらに間髪を置かず『キーウォ(呪札咲先)』のカード。
前にも述べた通り、持ちカードの中で最も魔王らしい即死攻撃のスキルだが。
即死耐性のあるボスモンスターには、実はそのままダメージに変換されるというスグレモノで。
そして、最後の仕上げ前の『ダイソーダ(金縛留起)』。
対象を動けなくして、確実に当てたいスキル攻撃のための礎になってくれるもので。
「……よし、満を辞してっと」
改めて取り出したるは『ガルゲ・ボウ』+26。
言葉とともにつがえ放つ。
鮮血めいた靄をまとった矢(あくまでも俺自身のイメージ)は。
今までのカードたち、その跡を辿るように寸分違わず向かっていって……。
「何ぃっ!? は、外した!? 外れた、だとっ!?」
現在も絶賛装備中の『カムラルの腕輪』には、投擲アイテムなどが必中となる効果が付与されていたはずなのに。
などと思いつつも、改めてマイステータスを確認すると。
同時に目に入ったマップを目の当たりにしてぎょっとなる。
「あれっ!? レイドボスっぽい赤色丸が消えてるぅっ!?」
まさか、テイムを試みんとする前に弱らす的なセオリーを失敗して倒してしまったってのか!?
セーブしてないぞっ……じゃなかった、いやまさか!
レイドボス的モンスターなんだから、離脱したんじゃなければパワーアップか何かしてこちらのマップに映らなくなってしまっただけなのだろう。
それすなわち、いよいよもってこちらに攻勢をしかけてくる、その可能性を示唆していて。
みんなにボスがやってくるぞと伝えようとするも今更ながらに気づかされる、『ヴェロシアップ』の『ブレスネス』つきの効果効力。
どうも、いきなりーターン二回行動できるんじゃなくて。
初めはみんなの声が聞き取れたことから、だんだんと加速していっているらしい。
三人が三人こちらに向けて何やら訴えてきているのだけど、二回行動が三回行動になっていくくらい加速してしまっていた俺にその声は届いていなかった。
故にみんなにも『ヴェロシアップ』のカードをはっつけようとした、正にその瞬間であった。
―――虚栄のアクマ、ラマヤンを倒しました。
50000の経験値を獲得。
極ダンジョンマスターの代紋、『ナンバー007、虚栄』を手に入れました!
「あぁっ……」
どうやら俺は。
またしてもやらかしてしまったらしい。
レベルアップの祝福の音楽が流れる中。
一向に懲りることのない自分自身に頭を抱える羽目になってしまっていて……。
(第135話につづく)
次回は、10月26日更新予定です。




