第13話、ダンジョンマスター、間髪を置かず蚊帳の外へ追いやられる
「あ、ジエン戻ってきた」
『モンスターバッグ』からフェアリを連れて帰還すると、どこかホッとしたようなユウキの声がかかった。
ユウキには俺がフェアリ達に会いに行っている間、お風呂に入ってもらったり、着替えてもらったりしていた。
半ば俺の(ダンジョン)のせいではあるんだけど、永遠に続くともしれないダンジョンアタックのせいで、随分とひどいカッコをしていたからな。
あ、でもよく考えたら女の子の着替えなんてうちにないじゃないか。
そう思いユウキを見ると、案の定男物……いわゆる旅人の服スタイルでそこにいた。
ちゃっかりチューさんはユウキの頭の上に陣取っている。
湯上りでホカホカしてるし、そんなカッコじゃなきゃ色っぽさも滲み出るんだろうけど、
本人も嫌がりそうだし、これはこれでよかったのかもしれない。
「悪いな。着替え、俺のしかなかったろ」
「え? いや、そんなことないけど、オレが男物がいいって言ったんだし」
「何を言うかと思えば、ちゃんと用意しておったに決まっとるじゃろ。……まぁ、あまりお気に召してはくれぬようじゃったが」
「だ、だって、あんなの着れないよ」
かと思ったら、しっかりチューさんが用意してくれていたらしい。
チューさん自身もほかほかしているのを見るに、チューさんもお風呂を堪能してきたようで。
二人のやり取りを見るに、随分と仲良くなったらしい事がよくわかる。
……あれ、よく考えたらユウキの中身は男なんだよな。
チューさんは、のじゃロリっぽい声の感じだと女の子で……大丈夫なのか?
見た目の印象としては、女の子とマスコットだからセーフ?
チューさんおすすめの『あんなの』を思い出したのか、女の子にしか見えない仕草で赤くなってるユウキに混乱していると。
それまで後ろ手に隠れるようにしていたフェアリが、ほいっと前に出る。
「やぁ、はじめまして。ぼくはご主人の一番のしもべ、リカバースライムのフェアリだよ。仲良くしてくれると嬉しいな」
そして、表情変わらぬままにずいと近づき、じっと穴空くくらいユウキを見上げつつ自己紹介。
やけに一番のところだけ強調しているのは、チューさんへの牽制だろうか。
「よ、よろしく。ユウキ・クサノです」
触手との握手を促されるままに名乗るユウキ。
何だか出会った時の印象と比べると随分と大人しい気がしなくもないけど、チューさん何かしたんだろうか。
そう思い、ユウキの頭上にいるチューさんを見やると、触手で絡みつきそうな勢いでユウキを観察していた、フェアリの前にとてっと降り立ったではないか。
「ふむ。此度はフェアリか。話が拗れんでいいわい。おぬしの見立てでは……どうじゃ?」
「かわいい娘だね。桜の色の髪がとても綺麗だ。ご主人、こういう娘が好みなんだ」
傍から見ていても癒される、鼻を突き合わせての二人のやりとり。
それなのに。
嫌いあってるとか、そんな態度を見せてるわけじゃないのに、あまり空気が宜しくない感じがするのは何故だろう?
と言うか、何でいきなりそんな展開に持っていくんですかね!
確かに好みじゃないと言えば嘘になるけど、中身は男なんだからそういうとこ気を遣ってって言ったばかりなのにこれだよ!
なんて言えればよかったのだが、主の割にヒエラルキーの低い俺は、それを口にはできない。
「え? ジエン……そ、そんなっ」
「いや、違うって、誤解だって! フェアリ、滅多な事言わないの。分かってるから、男だって分かってるからな、ユウキ」
こうやっていつも俺の事からかってくるんだ、気にするなよと何とかフォローする俺。
そんな俺の焦りように、納得……はしてくれたようだが、ユウキ自身もフェアリの事が気になるようで。
「ここに来るまでにリカバースライムは見てきたけど、やっぱりちょっと違うんですね? チュートさんもそうだけど、人間みたいだ……」
「ふふ、そうだろう。勇者くんはぼくがよく見えているようだ。……となると、異世界人の特徴と言うわけでもなさそうだね。不思議だな」
後半は独り言のようで、あまりよく聞き取れなかったけど、今の話の流れで、どうして三人示し合わせたかのようにこっちを見てくるのでしょうか。
何ていうか、こう気づけば俺だけ置いてけぼりで連帯感を見せつけられてる気がしてどうにも切ないんですけど。
まぁ、勇者だ魔王だなんて、少々懸念していた敵対とかいがみ合いとか、そう言ったやな感じになってないだけで十分って言えば十分なんですけどね。
ただ、このまま放っておくと、堂々と俺の前で俺に対して何やら雑談しそうな勢いだったので。
俺は強引に割って入るみたいな形で、そもそもフェアリを呼んだ訳と、今後の予定を語りだす。
「ええと、で、早速これからの事なんだけど、ユウキが召喚されたっていう街に行ってみたいんだよね」
本当は他の魔王さんたちが創ったダンジョンに挑戦しに行きたい所だったんだけど、勇者と魔王ってなんなのか、俺たちが特に争わずにいる事で問題はないのか、あるいはユウキと一緒にやってきた野郎どもの顛末を見ておきたかったから……俺はそんな事を口にする。
「オレが召喚された街……『リングレイン』か。正直に言うと、あまりいい思い出がないし、帰りたくはないんだが」
「そう言うと思ったからな。俺とチューさんで行ってこようと思ってフェアリを呼んだんだ。待ってるのに暇なら、マイダンジョン楽しんでてもいいしな」
俺としては、ユウキを召喚した国の者達の真意が知りたかったし、本当に勇者が魔王を倒すと願いを叶えてもらえるのか、それともユウキを焚きつけるためだけの嘘なのか、知りたいといった裏の理由がある。
ただ、それを面と向かってユウキに言うわけにもいかないので。
表向きはダンジョンアタック前の準備兼観光のつもりではあったけど……。
(第14話につづく)
次回は1月25日更新予定です。




