第127話、魔王が人付き合い、コミュニケーション苦手だったからこそ
そんなわけで、仕切り直しで。
みんなのやりたいこと、目標を伺うわけだからと。
その他もろもろの連絡事項とともに、みんなに集まってもらって。
「……ふむ? そう言う事ならわしは極上の米料理をたらふく食べたいのう」
日和って酔った発言をした俺を、心外だと怒ってくれるくらいには。
俺とともにダンジョンアタックしてくれるという意思を示してくれたチューさん。
嬉しくて申し訳ない部分もあって。
とりあえずこの世界でやりたいことがあるか、だなんて誤魔化してしまったわけだけど。
やっぱりチューさんはそれすら分かった上で、本当にやってみたいことを口にしてくれたんだろう。
ああ、それならダンジョンマスターのスキルを使えばなんとかなるのでは、さすがチューさん思慮深くて慎み深いなぁなんて思っていると。
そのままの流れでダンジョン攻略の合間にみなさんそれぞれやりたいことがあればどうぞ、といった風にシフトしていっていて。
「はい~! 私はお仲間を、他の人魚族のみなさんに会いたいです~」
「ふふん。そんなこと決まっているわ! まだ見ぬすっごい魔法、たくさん覚えちゃうんだから!」
「ああ、それなら……うん。一度は気が済むまでリカバーを、回復魔法を怪我している人たちにかけてまわりたいな」
「ええと、わたくしは速さを競う『れぇす』というものに出てみたいです」
「……実は、温泉気に入った。たくさん、、まだ見ぬゆぶねにつかりたい」
「のんはねぇ、みんなで夜のお空の散歩に行きたーい!」
「そうですね。もっとこう、攻防一体で機能的な一張羅があればとは思っているのですが」
「ううう。センパイ方、みなさんやりたい事があるのデスネ。ワタシとしてはそちらを優先していただきたいデス」
「やりたいこと、か。……もう、何が何でも帰りたいって感じでもないしなぁ。とりあえず保留かな」
思い思いに願い、したいことを口にしていく。
ダリアは大分遠慮している様子だったけれど、どうやらダンジョンによる権能機能でなんとかなりそうな事ばかりで一安心である。
まぁ、大いに気を使ってもらってはいるのだろうけれど。
そんな中でも、結果的にユウキの、本来あったはずの二つの願いが曖昧になってきていることを。
ユウキ自身が自覚してきていることに気づかされる。
それは、こちらの世界で過ごすうちに、単純に故郷に帰りたいという気持ちが薄れてしまった、というわけではないようにも見えた。
あるいは、俺自身がそうであるように。
前世界……故郷について忘れていた何かを思い出したのかもしれない。
その事についてここで聞いてもいいものだろうかと逡巡していると。
ボクを忘れてもらっちゃあ困るよぅとばかりにアオイが最後に声を上げる。
「うぅーん。ふところの中はなー。マスターの顔が見えないからなー。あ、そだ。まくら! うでまくらならちかふあぶっ」
「そうか、アオイはそんなにもふところマスコットとしてダンジョン探索したかったんだな! もちろんいいぞ! いいよな、チューさん!」
「ほほ。ま、べつにかまわぬよ。いい加減わしもこの足で歩きたいと思っておったところじゃしの」
当然、その見返りはあるんじゃろうな?
いや、さすがはアオイ、たまにはそれもありかもしれんのう。
などといったことを分かっていて敢えて口にしないチューさん。
そんなチューさんの方はまあ、良かったのだけど。
傍目から見れば辛抱たまらなくなった俺が、それこそふところにしまってしまいそうなほどにアオイを抱きしめてしまっている図がそこにあって。
「わぷぷっ、待ってマスター! 人型だからふところには入れないよぉ」
「あー、いいなー! だったらのんもー!」
「ふむ。ならばよし、わたしも参戦する」
「いやや、違うんだ! ちょっ、まっ。せ、せめてモンスターモードでお願いしますう! ひいいぃぃっ!?」
これだけ日々刺激を受けているというのに。
自分で言うのもなんだけど未だ『人型』のみんなに慣れることはないらしい。
「……思えばそこがまた、良かったのかもしれんのう」
当然そんなチューさんのとどめを刺すかのような呟きは。
幸か不幸か耳に届くことはなく。
俺は、まだ報告すること聞くこと結構あったのになぁ、なんて思いながら。
やっぱり結局、一目散にその場から逃げ出していて……。
(第128話につづく)
次回は、9月8日更新予定です。




