第125話、ダンジョンマスター、表裏一体な別世界のマスターに想いを馳せる
気づけば十人にも迫ろうかといった大所帯パーティーの。
一応でも長として色々と背負わなければならない責任を痛感しつつ。
(実際はテイムできた人員の事を考えるとそんなものでは済まないのだが)
とりあえずはようやっとの次なるダンジョンに対しての考察を、とばかりに二本指を立てる。
「ふたつ? ふたつあるの? さすがはマスター。ダンジョンのこととなると冴えてるじゃない」
「いや、そこまで褒められたものでもないさ。ひとつは、未だ健在で何か知っている可能性が高いリィアラさんに話を聞きに行くってだけだし、もう一つは他のダンジョンについて、特段期限を決められているわけでもないから、今まで行ったことのないダンジョンのある国、街へ行ってみようってだけだからな」
「ふうん、あの司書さんに話を聞くのはともかく、行ったことのないダンジョンで近いのはどこかしら」
「この『アリオアリ』にもチューさんやリィアラさん、ダンジョンコアな二人の情報を元にやってきたわけだから……」
「チューさんに聞くならいろいろわがままを聞いてあげるべき。そのついでにわたしの願いも叶えて欲しい」
結局のところは、頼りになるのはチューさんなのだ。
一体全体何を願われてしまうのか、戦々恐々ではあるものの、自分自身が厄介事を押し推める以上、
そのようなお願いには粛々と従うのみで(二回目)。
「それじゃあチュートのご機嫌を改めて伺いにいかないとね。わたしの、わたしたちのお願い事はその後でいいから」
さらっとしていて、特に気にしていない風であったスーイも、やっぱりそんなことはなかったようで。
ひょっとしなくても大変にたいへんな約束をしてしまったのでは、と今更ながらに思いつつも。
まずは奉られ崇められ、そのまま飾られる勢いのチューさんの攻略にかかることにするのであった……。
※ ※ ※
そんなこんなで、なんやかやあって分かってきたこと。
どうやら、ダンジョンコアとマスターの特別な契約は一人にしかできない、ということで。
そうであるならば確かにテイム……契約を終えてパスがつながったダリアさん、ダリアはどういった扱いになるのか。
それすなわちフェアリたちのように、テイム済みの魔物、仲間扱いになっているようで。
言われてみれば確かにそのパス……つながりはフェアリたちやユウキにもあって。
新加入の挨拶も含めてダリアとともにチューさんにその旨を説明すると。
チューさんは、そのようなことわかっていたわい、このような『バカンス』の機会なぞ、主どのに付き合っていたらそうそうあることでもないからの、存分の堪能させてもらったわい、などと機嫌を直してくれて……。
「……して。主どのは、また新たなダンジョンを追い求める、ということで良いのかの?」
「新しいダンジョン! 今度こそ海の中だといいなあ~」
「海、かあ。そう言えば泳いだこともないな」
チューさんが俺にとって変わらずただ一人のコアであるとわかってもらえたのもあるだろうけれど。
えぼつったチューさんに対して、二人で宥めこんな風に俺が話しやすいように場を整えてくれていたシラユキとユウキにも感謝しつつ。
そんなチューさんのそんな言葉に頷き、『ユキアート』や『アリオアリ』への行き先を示してくれたチューさんの考えを伺うことにする。
「今回、わしらが退治することとなってしまったあの大仰なアクマ族、どこかで会うた……見たことがある気がしたのよ。とは言うものの、この際正直に言うと、こうしてダンジョンコアとしてこの世界へやってくる前は、同じ学び舎の同輩たちと親しくできていた方ではなくての。リィアラどのや此度仲間に加わったダリアどのは学年が違ったこともあって名前すら聞いたことがあったか怪しいものじゃが。あのボーブと名乗ったアクマ族の者たちとは、そもそも学び舎自体がちがっておったはずじゃ。わしらが主どのの認識しておる高等部にあたるとして、彼奴らは恐らく大学……今までわしらが過ごし、探索していたダンジョンより更にレベルの高い、ダンジョンと呼べるかどうかもわからぬものを扱うものたちが確かにおると考えていいじゃろうな」
「ほうほうほう! それはとっても朗報な情報ですな! 後はそのダンジョンを超える場所……仮称として『極』ダンジョンとでも呼ぶことにしようか。ボーブさんの持っていた鍵らしきものを使えば探索できる資格、許しを得られると言う認識でいいのかな?」
「分かってたことだけど、めっちゃテンション上がってるな……」
「ほほ。もう当たり前のように向かう気満々じゃの。後はその鍵に対する鍵穴とでも言うべき場所だが、
ボーブどのには詳しく聞けなんだから、こんな事もあろうかとダリアどのの無事を伝える際に、リィアラどのに心当たりを聞いておいたぞ」
「聞いたよ~、詳しく聞く前にチューさんってばその人倒しちゃったんだよね~」
「みなまでいうでないっ。あれは不可抗力どころかほとんど主どののせいなんじゃからの!」
「はいっ! 毎度毎度『ブレスネス(祝福息吹)』が荒ぶってしまって申し訳ないです!!」
もしもどこかの世界で。
自分の能力ギフトにも人格、意思が宿っているとしたら。
それこそ人のせいのしないでもらえますかと怒られそうだなぁ、なんてことを考えつつ。
やっぱり謝り倒すことしかできない俺がそこにいて……。
(第126話につづく)
次回は、8月24日更新予定です。




