第122話、魔王、真偽はともかく新しきダンジョンへ向かう筋道を見出す
「どうかな、ダリアさん落ち着いた?」
もう隠す気というか、言い張る気もないのかな。
なんてツッコミ待ちなのかもしれない、なんて思いつつも。
それすら天然で気づいていないといった、万が一の可能性を考慮して。
俺はとりあえずのところ、当たり障りのない言葉を口にする。
「うん。なんとかね。ジエンが急にキューピッドの矢で突貫したせいでけっこう混乱してたんだけど、フェアリさんがその矢の効果とか、目的をちゃんと説明してくれたから……っていうか、オレはほとんど最後の方に加入したから知らなかったんだけど、フェアリさんも他のみんなも初めは普通の魔物だったんだね。……あんまり増えちゃうのもどうかと思うけど、今回はまぁ仕方ないのかな。話を聞いた感じ、勇者どころか一緒にいるはずの魔王までいなくなっちゃったみたいで、もうけっこう限界みたいだったから」
一人ぼっちになってしまったダンジョンコアを助けた形となったのはクッジョブだけど、それはそれ。
ちゃんと責任取れるんだろうね、などといった……今まで後輩がいなかったせいなのか、ユウキからもフェアリのような圧を感じて。
やっぱりユウキはツッコミ待っているんだろうな、なんて思いつつも未だ勇気が出なかったので。
曖昧に頷きつつも入ってもよい、とのことなので、早速とばかりにアリオアリダンジョンのコアルームにお邪魔することにして。
そこは、二部屋で構成された16分の1程の広さがある場所だった。
もう一つ扉があるその向こうは寝室だろうか。
元々そうだったのか、ここ最近ダンジョンクリエイト機能で作り直したのか。
その部屋には数人でお茶会をするのに十分であろう丸テーブル、家財一式がしつらえてあった。
「ジエン、あんまりジロジロ見ないの」
「む、すまない。人さまのコアルームを見るのは初めてだったもんで」
「主殿、お待ちしておりました。ささ、こちらへどうぞ」
ひとしきり落ち着いて、話し合って俺のことを待っていてくれていたのか。
正に面接でも始めるかのような雰囲気で、ダリアさんがディーに勧められた席の対面に座っていて。
背筋をぴんと伸ばして、随分と緊張した様子だったので、待たせてしまってごめなさいと何度も頭を下げつつ恐縮していたら、結果的にもう少しばかり落ち着いてくれたようで。
「おかえりなさい、ご主人さま。何か得るものはあった?」
「おお、ばっちりさ」
「そっか。それはよかった。とりあえずダリアさんにはこちらの事情と、半ば強引になってしまったとはいえ、ぼくたち『ジ・エンド・レギオン』へ加わった際の注意事項はしっかり説明しておいたよ。後はダリアさんの事情を直接聞いてもらおうと思って、待っていたんだ」
「おお、そうか。色々ありがとう、フェアリ」
「ふふ。どういたしまして」
我が軍への加入の際の注意事項だなんてのは初耳だったけれど。
何せユウキ以降、新たにメンバーが増えるのはこれが初めてだったので。
そう言うこともあるのだろうと納得して、改めてダリアさんの事情を伺う……
改めてここまでのいきさつを語ることにする。
「正直に言ってしまえば、可能であるならダリアさん、君を仲間にするつもりだったのは確かなんだけど。ダンジョンコアでもテイム……仲間にできるんだなって驚きの方が大きかったかな。恐らく、ダリアさんのマスターである魔王とのつながり、契約が切れてしまっていたからっていうのもあるんだと思う。デリケートな部分だし、話せることだけでいいからダリアさんの今までのこと、教えてもらえるかな」
「……ハイ。ええと、その。前マスターと対となる勇者サマがやってこなくなってから結構な時間が経ってマス。それまでは勝ったり負けたり、勇者サマといい勝負ができていたと思うのデスけど、ある時を境にマスターが帰ってこなくなってしまったのデス。それ以降、毎日のように訪れていた勇者サマの姿も見えなくなりマシタ」
ダリアさんによれば、アリオアリの勇者はアンデッド化の罠によって階段前に屯していた『デザート・ドルチェ』のパーティーに属していた、とのことだが。
自身がアリオアリの魔王に対するものであることを自覚してから、ソロでの探索行動をするようになっていったのだと言う。
後に『デザート・ドルチェ』の皆さんに伺ったところ、そんな勇者とパーティーメンバーには大きな実力差があって。
ソロで活動した方が効率がいい、などとのたまっていたらしい。
……そして、大きなダンジョン改変があったその日。
勇者も魔王も帰ってくること、一切顔を見せること、無くなってしまった。
それでも、その時はまだ魔王とダンジョンコアのつながり、パスは途切れずにいたからこそ、ダリアさんは待ち続けた。
それこそ、運営側のアクマとエンジェルがルール違反を感知して、度々襲ってくるようになっても。
上層からの道が塞ぎ蓋をされ、ダンジョンの存在が忘れかけられそうなほどに時が経っても。
彼女は待ち続けた。
正しく想い人の帰りを希うかのように……。
(第123話につづく)
次回は、8月3日更新予定です。




