第118話、ダンジョンマスター、自らを吹き飛ばすことで大きな危機を回避する
「【ゼリオ・ボール】デスっ!!」
コアの少女は何やら慌てふためき少しばかり地を出しつつも。
【闇】属性であろう光球を産み出して。
そのまま俺の動きに合わせるようにして、思ったより躊躇いもなくそれを打ち出してくる。
「おおっ!」
「ジエン! 床がっ!」
「わあっ」
その粋や良しと。
その身で受けんと大地踏みしめ踏ん張らんとしたその瞬間。
いつぞやというか少し前に体験したばかりの、床が抜けるトラップが発動する。
俺が前のめりになって沈み込まんとするのに、ユウキが声を上げるのは分かるのだが。
アリオアリのダンジョンコアである、黒髪おかっぱの、青い外套を着込んだ少女までもが何故か驚いているではないか。
その様は、敢えてトラップにかけようと待ち構えていたと言うよりも。
久しくトラップを発動していなくて、その存在を失念していたようにも見えて。
「っし、ならばぁっ! 『ハウルグ(地這誘引)』カード!」
「わっ! ぶふっ……あれっ? 痛くないデ、わわわぁっ!?」
そのまま階下に落ちても問題ないかもしれなかったが。
直ぐに帰ってこられなくなっても面倒なので、すかさず『ハウルグ』のカードを彼女に投擲。
トランプめいたカードがコアの少女にすいっと吸い込まれると。
その勢いをもって引っ張られるようにしてコアの少女に向かって飛んでいく俺。
烏滸がましくも例えるのならば。
往年の愛され主人公のごとくで拳から突貫。
……かと見せかけて、その拳に握り込むはハート……心の臓型の矢尻。
その一挙手一投足はもちろん一ターン以内。
自身の落とし穴に驚きとどまっている様子であったコアの黒髪少女には、どうしたって避けられるようなものではなかっただろう。
「わわっ……えっ? いや、ちょっぎゃあああっ!?」
「うわ、超必じゃん」
「……フェアリ! 頼む!」
「うん。追撃の『リカバー』……」
「ぎゃああああぁ……あ、あれっ? 痛くないデス」
「さすが姉上。あのような致死の一撃から呼び戻すとは」
ユウキやディーの言葉よりも早く。
テイムにおける契約の前には弱らせる、といった行動が、案の定行き過ぎてしまっていることに気づいた俺は。
フェアリにちょうどいい感じになるよう、十八番な回復魔法をお願いしつつ、マップを確認。
すると、確かに敵性を表す赤色から、お味方を表す白色の丸に変わっているのが分かって。
やるだけやってみようとは思っていたけど。
まさかダンジョンコアの妖精さん(と言ってもチューさんはテンジクネズミだし彼女は犬系の獣人だけれども)もテイムが可能だとは。
仮に、ダンジョンマスターの担当……コアが複数いることが禁止されているのだとしても。
それならそれで想定通りというか、念のためチューさんにはアリオアリのダンジョンコアさんがテイムできるかどうか試してみることも含めて、此度のダンジョン的実験……作戦のあらましは話してある。
VS雪山の件で懲りておらぬかと、しっかり怒られて。
コアのテイムの件では大分渋られ拗ねられて、帰ってからがちょっと怖くはあるんだけど。
その時の失敗を生かし、準備万端に過ぎるくらいにさせていただいていて。
故にこそ、俺の予想が正しければ。
こちらか、チューさんのいる方かどちらかに……。
「勇者サマあぁ! ダリアの元へもう一度帰ってきてくださったのデスね!」
「ぐうぅおわっ!? ち、ちょっ、いきなりどうした!?」
意識を外していた、などといったら大変に失礼にあたるのだろう。
事実、ここ最近のチューさんのからかいや、ユウキの無自覚に過ぎる距離の近さで鍛えられていなかったら。
油断していたのをこれはチャンスとあっさり返り討ち、そのままノックダウンしていたことだろう。
「あ、ご主人さま。……もう、そんな気はしていたけれど」
俺のピンチにふわりと飛んで助けに来てくれる、と言うよりは。
一緒になって折檻する。
そんな気配とともにある、そんなフェアリの近くて遠い呟き。
どちらにせよ、飛べるフェアリにみんなが捕まってこちらへやってくるのが見えたので。
色々な意味合いをもって気を取り直し、全力で抱きついてくるダリア、と名乗ったアリオアリのダンジョンコアさん……犬系の獣人である彼女に、まずはお話しましょうと。
こっちも気力を振り絞って。
自らに……実は初出な『ミプデトナ(吹飛衝撃)』カードをぶっさす勢いで。
何とか離れてもらうことに成功して……。
(第119話につづく)
次回は、7月5日更新予定です。




