第117話、魔王、勇者のふりをしてよそ様のコアに踊りかかる
俺は、普段あまり使うことのないブックの使い時はここしかないとばかりに。
団体同士での場所替えを可能とする『ウェルスランバー』のブックを取り出しつつ、ざっとその説明を始める。
「グループ、同じ仲間同士としての場所替えだから大丈夫だとは思うんだが、念のためみんな近くによってくれるかな」
「はっ。し、失礼いたしますっ」
「ふふ。ご主人さまかさそう言ってもらえるとはね」
「あっ、今確かにだっこちゃんなりカバースライムがオレにも見えたよ。うん、よっし。それじゃあオレは左手ね」
「おおぅ。迷いなしだな。……よし、行くぞ、『ウェルスランバー(場所置換)』の本!」
もし、『ブレスネス(祝福息吹)』が付与されていたのならば。
その荒ぶる力を大いに発揮しすぎてしまって、せっかく分担して離れていたここにいない仲間たちすら集めて場所替えしてしまう可能性もあったが。
そんなに使わないだろうと『ブレスネス』の付与はしていなかったので、そのような事は起こらないだろうとは思っていて。
念のためだったけど、必要以上に三人が近づいてくれたことに目を白黒させつつ。
『ウェルスランバー』のブックを発動。
『ヴェロシアップ(倍速行動)』を使っていたわけでもなかったから。
こちらがスキルを発動せんとするのに気づいたのならば先手を取られまいと襲いかかってくるかと思いきや、やはりその場を守ることだけ命じられていたのだろう。
そこまで積極的なアンデットたちはおらず、無事にスキルを発動。
お互いを【風】、あるいは【時】の魔力で包んだかと思うと、もれなく場所替えと相成って。
「っし、今のうちに奥へ!」
「「「了解!」」
そう遠くない場所同士での入れ替えだったから、状況に気づいた彼らが追ってくる前にとみんなでダッシュ。
その際、『サンクチュアリ(破魔聖域)』を配置して行く手を阻む物を置いていくつもりだったけれど。
すぐそこに新たな階段があったので、とりあえずのところは何もせずにその階段を下っていくことにする。
「ディー、同じように後ろ上方の警戒を頼む」
「はっ。引き続き警戒いたしますっ」
階段を超えてまでやってくる気概のある者たちがいたのならば。
それはきっとこのダンジョンのコアにとって信頼できる仲間、身内なのだろう。
こちらから敵対することは避けたいので、来るもの拒まずの精神でとにかく先を目指すことにする。
「近いよ。魔力が大分濃くなってきた」
「ここがこのダンジョンの最奥なのかな」
何だかどこかで見たことがあるような気がする。
続く、そんなフェアリの言葉。
きっと、ここがアリオアリのダンジョンコアのホームだからなのかもしれない。
階段を降りてすぐは、玄関のように少し広く、そこから伸びる道は一本。
人がすれ違えるかどうかの広さしかなく、今のところトラップの気配もなかったので。
そんなやりとりをしつつ、一列になって(俺が先頭に立って)その一本道の奥へと進んでいく。
細い廊下のようでもあるその道は、しかしそう長くは続かなかった。
うちのホームと違って必要最低限のものしか配置されていないのか、あるいは居住区は別にあるのか、見えてきたのは六分の一程度のフロア。
出入り口となる通路は見たところやって来た一本しかないように見えて。
そんな道の反対側……壁際には、これ見よがしにおどろおどろしい様子の玉座があって。
その脇にはしゃれこうべやその身の回りの骨たちがいくつも積まれている。
「ハーッハッハ! 待ちわびだぞ新たなる勇者よ!さあ、存分に士合おうではないか!」
そんな玉座から立ち上がり、大きく胸を逸らしつつそう宣言したのは。
チューさんよりも日焼けした、黒髪おかっぱ金目の、暑い地域の娘らしいエキゾチックな装備品を身にまとった少女の姿があった。
「……あの娘がここのダンジョンコア、みたいだね」
「よし、今回こそは俺が出る。フェアリ、『もしもの時』はじゃんじゃん回復魔法を使ってくれよな」
「了解だよ。ふふ、久しぶりに本来のぼくの出番あるかな」
ここまで小声、あるいは視線だけでのやりとり。
そんなに長い時間でもなかったけれど、こうして探索者、他の人と接することが随分と久しぶりであったのか、すぐに返事がなかったことで、そわそわと不安げにしているのがありありと分かってしまう。
これも生まれ変わる前の俺ならば、他の魔物、魔精霊めいた存在に見えてしまっていたのかと思いつつも。
すぐさま取り出して装備したのは、マイダンジョンにも持っていける必要最低限の基本装備扱いである『ガルゲ・ボウ』。
言われてみれば確かにファンシーに見えなくもない桜色の弓に、赤いハートのついた矢を番えつつ向上返しをする。
「このアリオアリダンジョンの主とお見受けする! 『リングレイン』の探索者(だけど勇者ではなく魔王)のジエン、いざ参る!」
色々ツッコミどころ満載で。
チューさんがいたらよそさまのコアにまで手を出すというのかうんぬんかんぬん言われていたことだろう。
「わっ……くっ。【ゼリオ・ボール】デスっ!!」
勢い任せで一人で向かってくるなどとは思ってはいなかったのか。
テンプレに過ぎる返しをしてしまったからなのか。
コアの少女は何やら慌てふためき少しばかり地を出しつつも。
魔力の……恐らく【闇】属性であろう光球を産み出して。
そのまま俺の動きに合わせるようにして、思ったより躊躇いもなくそれを打ち出してきて……。
(第118話につづく)
次回は、6月28日更新予定です。




