第110話、ダンジョンマスター、ふところマスコットが顔を出してきた日を懐古する
「……あるじのまねして、『でいふらの瞳』」
「少しばかりやりすぎちゃうかもしれないけど、しょうがないわよね。【雷】よ!」
場面は切り変わって。
迫り来るのはアンデッド系モンスター……ゾンビやゴースト、スケルトンの群れ。
一見すると、テイムの許可がもらえる理性があるかどうか確認できなかったけれど。
そんな事はお構いなしに、とばかりにピプルが対象を幻惑される瞳術にかけて。
続きスーイが、もともと覚えていた唯一のものであった、雷の攻撃……なんやかやあって気づけば一端の【雷】の魔法に進化していたものをワンフロアいっぱいに打ち出していく。
その際、特にアンデットは入ってこられない、『サンクチュアリ(破魔聖域)』の本を使用していたわけだが。
肉体があろうがなかろうがレベルアップ……進化している個体が混じっていたかもしれなくてもお構いなしで。
手始めにピプルの瞳術によって混乱状態となって、恐らく命令通りに動けなくなったところで、スーイの雷の魔法、青白色に輝く雷条がズドンズドン。
当然のごとく俺たちのところに撃ち漏らしたモンスター立ちが辿り着けるはずもなく。
むしろ、フレンドリーファイアで雷がこっちに飛んでくるんじゃないかって、『サンクチュアリ』ブックを用意していたくらいで。
「うう、自分が言い出しっぺだけどさぁ。やっぱりオレの出番ないじゃん! ……って、だからってチューさんみたいにくっついたりはしないからな! 雷めっちゃ怖いけども!」
「ぬう。そう邪険にせんでもよかろうに。これはこれでダンジョン内を歩かんで済むし、良いものなんじゃがの」
「ならば、わたしがおぶられる? 術つかったらもうすーひとりで余裕な感じだし」
「まあ、そうね! うちのダンジョンでレベルを上げすぎたみたい。魔法の威力が高すぎるってのも考えものね」
単純にダンジョンでは戦わない、ふところマスコットであるから、というのもあるが。
コアとしてまかり間違ってもトラップなどにかからないように(獣型スタイルで)抱えている、と言った意味合いもある。
などと言いつつも、結局はふところマスコットなポジションに、あるいはユウキのように嫌がることなく特段不満もなさそうだったのも、今の今までこうやってダンジョンへ向かう度にふところへ落ち着いていた理由でもあるわけだが。
トラップの危険さで言えば、それこそ他のみんなも同じはずで。
極論、空いているのならばみんな背負っていきたいところではあるが。
俺の精神力的にもそうもいかないわけで。
一応、そんな万が一に備えて『ブレスネス(祝福息吹)』付きの『リヴァ(復活蘇生)』があるわけだから、それで我慢しておいて欲しいなぁと、今まさに隙をついておぶられんとしているピプルを宥めつつ。
俺は手持ち無沙汰でいるユウキに一つ任務をお願いすることにした。
「そう言えばユウキはチューさんみたいに同業の勇者とか、魔王の場所とか、勇者の能力的なやつで分かったりしないか? 俺もちょっと探してはいるんだが、思っていた以上にモンスターの数が多くてさ」
「お、おお。うん、分かった。やってみるよ」
あるいは、魔王と勇者が惹かれあうような力は。
対になる者に対してのみ、発動するのかもしれないが。
ヤブヘビになりそうなので口にはせず。
その代わりにスーイとピプルに、隣近所のフロアにひしめくように待機しているモンスターたちの対処をお願いする。
「アンデットばかりなのよね。だったら二番目に覚えた【火】の魔法の方が良いかしら」
「ん。それじゃわたしは今度は趣向をかえて『ぶ・らいんの瞳』でいく」
ぶ・らいんなんてかっこいい感じじゃなくてブラインドね。
それはいくつもあるピプル瞳術のひとつで、もちろん俺のカードに同じ効果を持つものもある。
名前はそのまんま『ブラインド(目隠目塞)』。
似通った効果を及ぼすカードがいくつかあって、カードとしてはあまり使ったことがなかったが。
俺的にはピプルの種が扱う瞳術と言えばこれ。ぶっちゃけてしまえば目潰しである。
瞳術なのにそれで相手を目潰しとか矛盾しているような気がしなくもないが。
とにもかくにも数を減らしてもらえれば、ユウキもこのダンジョンの主を見つけやすくなることだろう。
「なんとはなしに主どのが、あまり仲間を呼ぼうとしなかった理由が分かるというものだの」
俺だけに聞こえるチューさんの呟きに、苦笑で返す俺。
スーイはまだ少しスキルの……魔法の威力の制御がうまくいっていないところもあるけれど。
臨機応変に魔法の種類を変えることができるようになっていて。
ピプルは俺のスキルギフトによく似た広範囲に効果を及ぼす瞳術を複数使いこなしている。
おかげでチューさんとユウキの見せ場がなくなってしまっているのは確かだったけれど。
チューさんがそんな事をつぶやいたのは、俺がそんな中で『サンクチュアリ』の本を発動しつつ。
『三叉物干し竿』などとも呼ばれる、通常より刃長さが倍はありつつ、三又に分かれた……罠を発見するため専用に扱う特殊な剣を取り出しつつ素振りをしていたからなのだろう。
「ふむ。そう言えばうちでも罠、トラップの類はそうして対処しておったか」
「ああ、そう言えばマイダンジョンにてチューさんがふところに仕舞われている頃にはずくやんであんまり素振りしてなかったか」
正しく、ダンジョン攻略の基本なのだけど。
序盤の、みんなのテイムを主行動にしていた頃は、本当に気を使って一歩一歩罠チェックをしていたっけ。
だけど俺の悪い癖というか、ダンジョン攻略者あるあるなのかもしれないけれど。
時間との勝負+熟れて油断していると面倒くさくなってやらなくなるんだよなぁ。
ああ、うん。
ちょうどその頃……言い方はあれだけどダンジョン攻略が飽きてマンネリしてしまって。
気分転換に味変したい、まだ見ぬ知らないダンジョンに挑戦してみたいなあ、なんて思った時だったっけ。
ふところの中から顔を出すようにして。
チューさんが攻略中であってもおしゃべりしてくれるようになったのは……。
(第111話につづく)
次回は、5月11日更新予定です。




