第11話、ダンジョンマスター、釣った魚に避けられ気味の事実に目を瞑る
召喚された勇者で、だけど女の子になってしまったユウキ。
こちらへ来た方法はある意味欲望のままにやってきた俺とは違い、何者かの手引きによって、との事らしい。
願いを叶えるため、との事だが、本当のところ……本音は聞かせてもらえなかったんだろう。
何か恥ずかしがってるというか、そりゃまぁ会ったばかりの人間に話せない事はあるはずで。
俺としては、すぐにでも未知なる他のダンジョンに乗り込もうかという勢いであったが。
ユウキのここまでの疲労や何やらを鑑みて、予定を少しばかり変えてみる事にしたわけだ。
俺としてはまず、帰る事が可能なのか、あるいはユウキのやってきた国がその事を知っているか調べるつもりでいた。
最も、ユウキはその国に身を落ち着かせる本拠地などがあるわけでもなく。
着の身着のままこちらへ来たに等しく、帰る道理もないとのことなので。
行くとしたら俺達のみで、ということになるかもしれない。
ダンジョン好きの名が泣くほどの寄り道っぷりだが、まぁこの世界の国や街に興味がないこともなかったので、まぁよしとしよう。
そんなユウキの、ここまでの苦労を聞くに、そもそも帰る所がないとの事なので。
そんな事もあろうかと我がダンジョン最下層、ホームの一角に創ってあった客室の一つをユウキへのプライベートスペースとして提供したわけだが。
実際、見た目以上に疲れていたのだろう。
部屋に入ったかと思ったら、あっという間に寝てしまったようだ。
着替えないのか、とか、鍵があるんだから鍵くらいかけなよとかいろいろあるけど。
俺にできることはここを創ってまず最初にこだわった風呂に湯を張るくらいだろう。
後は、新しい仲間が増えた事を他の仲間達に伝える事くらいか。
そんなわけで久しぶりに『モンスターバッグ』の中にあるテイムモンスター達の暮らす亜空間へと向かおうとしたわけなのだが。
「なんじゃ、きゃつらに逢いにいくのか。ならばわしは留守番しておこう。あの勇者の娘を風呂に入れるんじゃろ。わしが案内しておくよ」
本来なら、『モンスターバッグ』は一方的にこちらから呼び出すもので、主自ら迎えにいくなどありえんわ、とはチューさんの弁である。
単純に、いきなり呼び出すのってどうなのって思ったんだけど、召喚とはそもそもそう言うもんじゃろうとチューさんは譲らない。
まぁ、女の子になってしまって戸惑う事が多いだろうユウキに、色々と教えてあげるなら俺より同性のチューさんの方がいいのは確かなんだけど、そんなにあの子達と会うのが嫌なんだろうか。
……いや、逆か。
避けられている感じがしなくもないのは、チューさんではなくて俺の方なのだ。
きっと、チューさんは俺と彼女たちがこの機会に仲良くできるようにと、取り計らってくれたのだろう。
チューさんと同じ名を持つ六匹、あるいは六人の魔物達。
『異世界への寂蒔』に挑戦するにあたって、テイムモンスターは、消耗品と言えば聞こえが悪いが。
今のオレですら三回に一回は満足に攻略できないままにやり直す羽目になるので、あまり育成には積極的ではなかった。
それでも、飽きた……外のダンジョンを挑戦する時のために、優秀な子達を選び、ある特別な方法で、ダンジョンに出ずともレベル上げしていたのは確かだった。
そのレベル上げはオレの能力……カードやブック、薬などを駆使した特殊なもので。
チューさんも含め急激にレベルアップした弊害……いや、プラスなのだから進化とも言えるだろう……明確な自我を持ち、意思疎通できるようになったのだ。
そんな事は露知らずで、名前をつけてしまったので、結構申し訳ない気持ちで一杯だったりする。
しかも、オレの妄想の賜物なのか、聞こえるその声は誰もが可愛らしい女の子の声なのだ。
三人寄れば姦しい、なんてレベルじゃなく。
「でもちょっと不安だなぁ。ユウキと仲良くしてくれるだろうか」
「まぁ、フツーは無理じゃろうの。元々敵対すべき相手なんじゃし」
チューさんは、ユウキに対してそればっかり口にしているけど、そんな言葉とは裏腹に色々と彼女に対し気を使っているのが伝わってくる。
「敵対、ねぇ。チューさんが他のみんなと一緒にいないのにも理由がある?」
「いや、それはあまり関係ないの。わしがここにおるのは、どちらかと言うとわしのわがままじゃし」
思い切って聞いたのに、答えてもらえてないんですけど。
……いや、理由を話したくないならいいんだけどね。
なんていうか、その辺りで俺だけハブられている気がするのは、気のせいじゃないんだろう。
まぁ、一人ヤローな俺が無粋な事くらい十分自覚してるんだけどさ。
「ま、いいや。それじゃユウキのこと頼むわ、俺ちょっとみんな呼んでくる」
「……うまく会えるといいの」
そんな締めのセリフやめてくれないかなぁ。
本気で避けられているみたいじゃないか。
でも実際、ドーピングレベリングを繰り返してからつれない感じなのは事実なんだよね。
それまでは見た目の愛玩動物らしく、結構懐いてくれていたと思うんだけど、ままならない世の中にちんやりしつつ。
俺は『モンスターバッグ』を開き、自分を中に入れるイメージをする。
刹那、そのイメージと連動してバッグに吸い込まれる俺がいて……。
(第12話に続く)
第12話はまた明日更新いたします。




