第108話、ダンジョンマスター、改めてふところの深さ、謎について考察す
ダンジョン下層へ勇者を送るためのそのトラップ。
それは、勇者の存在、魔力などを感知して発動するものだったのだろう。
そのような旨を述べると。
ふかふかの砂を払って立ち上がったユウキが、それじゃあオレのせいじゃんかと。
気落ちした様子でその整った眉を下げてみせて。
「ってことはオレが原因ってことじゃんか! ここの勇者は何してんだよ?」
「う~む。それは呼ばれたことであるし、ダンジョンコア本人に聞くしかないの」
あるいは、どこぞの魔王のように、ダンジョンではないどこかに勇者を連れ去ってしまって。
その際の代理を立てなかったから、近くにたまたまいた勇者を呼び寄せたのだろうか。
なんて思っていると、どうやらユウキにとってみればふところからチューさんが飛び出してくる絵面を目の当たりにするのが初めてだったようで。
「うわっ、チューさんいるじゃん! びっくりした。四次元ポケット、魔精球……リコーヴァのバッグだっけ? すごいなジエンのふところって」
それは、チューさんがぷくぷくまんまるにすぎて、到底ふところには入れそうにないってことですよね。
そうだと言ってくれ、でないとちょっとたいへんなことになってしまいますよ俺が、などとツッコミを入れつつ。
確かにふわもふの感触はあるチューさんを抱え直しつつ。
改めて状況確認のためにと辺りを見回してみる。
「この前お邪魔したダンジョンで間違いなさそうかな。呼ばれたからにはもっと下層に向かわにゃなんだろうけれど」
「ふむ。こちらは野良かと思っておったが、本命じゃったか」
「そうなの? それじゃあ罠もモンスターも満載ってことじゃん。ってかフェアリさんたち置いてきちゃったけど、大丈夫なのか?」
「ああ、フェアリは察してくれてるだろうし、エルヴァにドーベさんたちに説明をお願いしておいたから。正攻法であるなしにせよ、ディーはこの場所を知ってるから、すぐに追いついてくれるだろうさ」
「ふむ? 皆ならそんな面倒なことなどせずに一度バッグに呼び戻して再度呼び出せばよいのでは?」
「あ、そうなんだ。そういう事なら安心だね」
「……まあ、この先に俺たちだけじゃ手に負えない存在というか、ギミック的なものがないとも限らないのは確かだけど」
そんな楽するような……無粋なことを言わないでくれよ、とは当然口にはせず。
代わりに発した言葉通り、これからマイダンジョン……
『異世の寂蒔』クラスのピンチが訪れようものならばみんなを呼ぶことも吝かではないが。
俺たちに続き、残ってもらったフェアリたちまで急に消えてしまったら受けた依頼を達成できない、なんてことにもなりかねないので。
例のごとくここ最近でしっかり届くようになった【念話】も扱いつつ、三人にはアフターフォローをお願いしていたから。
呼び出すとしても、あちらさんが準備万端になるまでは控えるべき……
呼び出すとしても今現在『モンスター(魔物魔精霊)』のバッグ内にて待機しているメンツが先で。
「恐らくこのダンジョンって、ディーが見つけた入口こそが今現在唯一のまっとうな入り方だったのかもな。攻略していくうちにそこから合流して来てくれるだろうから、俺たちはじっくり探索にいそしもうじゃないか」
「まあ、ふところへ放られた時点でそんな気はしておったがのう」
「え? 三人で行くの!? っていうかチューさんその状態で? フェアリさんたちがダメならピプルさんとかスーイさんたちを呼ぶって言うのは?」
「やはりそこに気づくか……じゃなかった。ここから仮にマイダンジョン級の脅威が待ち構えていると仮定すると、呼び出すのならば早い方がいいか。チューさん、ふところにスタンバってもらってて悪いけど、ちょっとバッグ待機組のみんなを呼んできてもらってもいいかな」
ユウキの言うところのチューさんの状態。
あまり考えているとこんなところで気絶しちゃう、想像するのもいかん気がして。
ユウキの進言に乗っかる形で、もふもふテンジクネズミなチューさん(断固と言い張る)にそうお願いしてふところから降りてもらい、取り出したるは『モンスター』バッグ。
「なんじゃ。舌の根も乾かぬうちに。呼ぶのならば主どのが呼べばよいのでは? いまの主どのならば問題なく皆も応えてくれるじゃろうて」
「ああ、本当の緊急事態ならともかく、召喚ってプライベートなんかお構いなしでいきなり呼び出すようなものだからさ。俺よりチューさんの方がいいかなって思ったんだよね」
「ふむ? 主どのがそう言うのならばそれで納得しておこうかの。では行ってくる」
「わわ、どう見ても入れなそうなサイズなのに、吸い込まれてく! やっぱりジエンの魔道具? ってすごいな」
などと言い訳しつつも。
今現在ダンジョンアタック中であることは待機組もわかっているだろうからそれなりに準備はしてくれてるはずで。
それを鑑みつつ俺の苦悩を理解した上で引き受けてくれるチューさん最高です。
俺自らバッグの中に入って行っても避けられ逃げられ見つからない、などとはなんと酷い嘘であったことか。
それでも、俺が恥ずかしくてテンパっちゃうんですよと正直に? 口にしたことで。
納得してくれた体のチューさんが、正しく逆戻しのようにバッグの中へと吸い込まれる様は。
そんなユウキのコメント込みで。
俺には惚れ惚れするくらい頼もしく見えていて……。
(第109話につづく)
次回は、4月28日更新予定です。




