第103話、魔王、自分だけが狙われていた事実に引きつつ納得しつつ
何とはなしに、『シースルーグラス』の効果が続いた状態のまま。
ネクアさんと視線を合わせてしまった、その瞬間である。
『……少しばかり肌が白いのが玉に瑕だが。中々に鍛え上げられている。かわいいぼうやも……いや、かわいいと称するにはあまりにも……っ』
「だああぁーっ!!?」
「うわっ。びっくりした」
「ふふ。勇ましい咆哮だね」
「なんじゃあ、結界魔法があるとはいえ大声出せば聞こえるぞ?」
それ以上はあかーん!! と。
咄嗟に繰り出したのは、『ルシドレオ(透過透明)』の効果を付与しなくとも目視できない不可視の攻撃、その名も『ディネン(掘削破道)』。
ご存知の通り基本的にはダンジョン内の破壊可能な壁やギミックを掘削するためのスキル、カードではあるが。
僅かながらではあるがダメージがあって(数値で表すなら5~10くらい)。
それがおでこに刺さったネクアさんは。
そのまま突っ伏すように昏倒していくのが見えて。
「どうかなさいましたか? ご主人様?」
「い、いや。すまん。やっぱりあのネク……受付の人、危険そうだったから『ディセメ(識別解析)』のカードでもって……っておおぃっ!?」
「主殿!? いっ、いかがなされたっ。手のひらから血がっ!」
「ははは。いや、ほんとに。何でもない。ちょっとトイレ行ってくる」
「ふむ? 何もそのように我慢せんでも」
「……一応、治しておくね。【リカバー】」
みんなの声に、ほとんど無意識のまま振り返りそうになったところで。
慌ててふためきつつ『シースルーグラス』を破壊。
偶然の賜物でせっかくできた有用なアイテムを自ら壊してしまった事への後悔と。
危険物を排除できたといった安堵感。
などと言いつつも。
恐らくきっと、こっそりネクアさんを処してしまったことと。
いつものようにみんなの魅力の耐えられなくなって逃げ出さんとしていることは気づかれているんだろう。
フェアリの、お馴染みだと思っていたけどこうしてダンジョン外で受けるのは初めてかもしれない、温かくて癒される回復魔法を受けつつも。
あまり大げさにはするでないぞ、とばかりのチューさんの視線を受けて。
同じく不可視である攻撃……ではなく。
『リコーヴァ(治癒回復)』のカードを追撃する。
するとすぐに効果を発揮して。
目を覚まし、一体何があったのだと起き上がって頭を振っているネクアさんを確認しつつも。
トイレに行くと言った手前、一旦外に出ることにして……。
※
「それじゃあ『アリオアリ』遺跡での勇者……行方不明者の捜索と、モンスター退治の依頼、両方受けたいんだけど、いいかな?」
「……っ。両方、ですか? そうなりますとラーク王遺跡における発掘調査の補佐と、その際ごく稀に出現するモンスターの間引き、ということでよろしかったでしょうか」
「その、ラーク王の遺跡と言うのは、勇者さまが行方不明になったダンジョンでよろしいですか~?」
「……くっ。そ、そうですね。『アリオアリ』で最も大きな遺跡となります。遺跡調査とモンスターの間引きが共に行えるのはラーク王遺跡だけになりますが……」
「ああ、それで構わない」
「そっ、それでは手続きをいたしますので、少々お待ちをっ」
短い間ではあるが、10ダメージを受けて気絶していたネクアさん。
それでもすぐに回復したからなのか、何事もなかったかのように受付してくれているかと思いきや。
俺に代わって依頼受託、受付対応をしてくれている頼もしき仲間たちに何やら狼狽えているようだった。
それは、故あって見たくないものから目を逸らしている、と言うよりも。
それまで見放題目の当たりにしていたものが見えなくなってしまっているかのようで。
(わわっ、ほんとにジエンのことすっごく見てるっ。大丈夫? バリアちゃんと効いてる?)
(ふむ。先程まで縮こまっておったディーのあの堂々とした態度を見るのじゃ。この『ヴァルシール(月盾霊器)』とやらは自前の一張羅に負けぬほど、隠し守ってくれていると見える)
それは、攻撃スキルや魔法を含めた、その効果、影響をランダムで1~5ターンほどシャットアウトできるもので。
ネクアさんが気もそぞろでとどまっていたのは。
当然のごとく透視のスキルもきっちり防いでいるのもそうだが。
チューさんが言うように『ヴァルシール』のそんな効果が、ディーにしてみれば愛用の全身鎧のごとく包んでくれているらしく。
いつものきりっとした騎士の心持ちを取り戻したようで。
フェアリやエルヴァとともに俺たちを守るように前面に出てくれていた。
トイレから戻ってきて、チューさんの危惧とは少しズレてはいるが、どうやら俺が透視されているらしいなどとは正直に言えず。
ぼかした説明をしたところ(その際、それを防ぐためにとみんなに『ヴァルシール』を持たせた)、
ディーが先頭に立って、私たちが守り前に出ます、と言ってくれて。
それでもネクアさんが何か言ってくるようなら、なんて思っていたけど。
まさかネクアさん自身が識別されて詳らかにされてしまっているなどと思ってもいなかった……もしかしなくても心内だけのことで、表に出すつもりは元々なかったのかもしれない。
無意識なのか、首を伸ばしてまでこちらを伺おうとするのが見えたけれど。
やがて諦めたのかのように顔を依頼書に下げ、何やら記入を始めていて……。
(第104話につづく)
次回は、3月28日更新予定です。




