第101話、魔王、警戒外から強烈なフレンドリーファイアくらう
何とはなしに今の今までろくに反応したことのない俺の中の危機察知が疼く中。
アリオアリ冒険者ギルドの受付の男性は、しっかと俺を見据えて言葉を紡ぐ。
「ダンジョン……ええ。かつては、と言ってもそれほど昔と言うわけでもないのですが、『アリオアリ』の遺跡はかつてそう呼ばれていましたね。現在より多くの魔物が出現していたようですが、『アリオアリ』の一族に連なるという墓所が見つかり、我々で管理するようになってからはそう呼ばれることもなくなりましたが……」
「ふうん。管理、ね。その事に文句を言う輩は現れなかったのかな」
例えばも何も、元々管理していたはずの魔王とダンジョンコア。
勝手に我が物顔をされたのならば、街まで出張ってきてもおかしくなさそうだが……
あるいは、俺たちのように上層だけを切り離し、開放しているのかもしれない。
「ええ、何やら魔王を名乗る存在はいたようなのですが、そんな魔王に対抗するためにと遺跡へ向かった探索者……勇者様方が入り込んだ正にそのタイミングで、大幅なダンジョン改変が起きたようなのです。それまで地下深く潜らねば辿り着けなかった墓所が上層に出てきたとともに、下層へ向かう階段も無くなってしまったと聞きます。それでも、遺跡自体ダンジョンで言うのならば3階層ほどあるとのことで、現在はその場を遺跡、墓所と言う扱いになったわけですね。モンスター退治の依頼は出してはいますが、極稀にどこからともなく現れるくらいなのです」
なんて予測を立てていたら。
まさかのビンゴ、だったらしい。
こちらの勇者と魔王が相対した結果、どうなったのかはまだ分かりようもないけれど。
あるいは俺たちのように自分たちのスペースと、街の人たち用に分けたのかもしれないが……。
「後ろから申し訳ないです~。それでその、ええと。その後の魔王さんと勇者さんはどうなったのでしょうか~?」
そこで、今一番聞きたかったことを聞いてくれたのは。
何故だかちょっと戦闘態勢に入っていて、触手パンチを繰り出したそうにしているフェアリをなだめるように、縮こまっているディーを一旦ユウキに託したエルヴァだった。
「……っ。勇者、魔王両者ともダンジョン改変が起きてから音沙汰がないのです。勇者と呼ばれた探索者様方は、そのまま失うのはたいへんに惜しい……いえ、すみません。『アリオアリ』冒険者ギルド所属の優秀な方たちであったこともあって、現在も捜索依頼が出されています。ああ、それです。その遺跡の調査依頼には不明の探索者の捜索も含まれているのですが、この依頼をお受けになりますか?」
「ってか、おいっ」
「あ、もう少しみんなで吟味させてもらってもいいですか? 依頼自体は受けさせていただこうとは思っていますが」
当事者の探索者たちが聞いたのならば、何とも冷たい仕打ちというか、お役所仕事にも思えるそっけなさ。
当然のごとく食ってかかろうとするユウキを、ひっついていたディーとチューさんが抑えたのを見やりつつ。
咄嗟にに出た言葉通り、一旦仕切り直すことにしたわけだけど。
「……ああ、ちなみにですが。調査以来はあくまでも調査の補佐ですので、遺跡にあるもので不明者や魔物関連以外のものは持ち帰り等々現場の判断となりますのでご承知おきくださいね」
探索者、あるいは勇者や魔王に対してろくな目にあっていない。
そんな態度をわざと敢えて見せているような捨て台詞。
なんとはなしにここで依頼を受ける気が減退しつつも。
話し合いのために受付を離れることにして……。
※
離れる、と言っても同じ建物内。
飲食のできる、いわゆるギルド内酒場へとやってきていた。
そこで軽食を頼みつつ、依頼を、どの依頼を受けるべきかの話し合いを始めようとしたところで。
さっきから続いていた嫌な予感めいたものがぶり返してきたので、遠距離攻撃に対しての防御に本来は使う、『ヤーミシール(防膜包夢)』のカード(やっぱり初出)を、周りに迷惑がかからないように、防音、盗聴対策としてこっそり使うことにする。
「ちょっと何なのさ。あの受付の人! あの感じだとここの勇者帰ってきてないんだろ!? あれがお役所仕事ってやつなのか、なんていうかすっごい冷たい!」
「そうだね。もしかしたらここの勇者は、ユウキみたいに良い娘じゃなかったのかもね」
「も、もう! そんな事ないってばっ。フェアリさんの方がよっぽど良い娘でおしとやかで可愛いじゃん! お嫁さんにしたい!」
「ふふ。ありがとう。まっすぐにそう言われると結構恥ずかしいね。……だけど、うん。受付の人、魔物やダンジョンがあまり好きじゃないのかもね。ぼくたちに気づけているって感じでもなかったけど、探索者のパーティーだってわかったからなのか、その。なんて言えばいいのかな。ご主人さまに見てもらえるのは嬉しくて恥ずかしいのに、それとは全然違うというか……」
さすがに俺もいらっとして『キーウォ(魂消特呪)』のカードを額にすいっと差し込んでしまおうかと思ったくらいだから。
本人にお話し合いが聞こえてもあれだし『ヤーミシール』のカードを使ったわけだけど。
受付の男の人の話なんて一瞬でどこかへいってしまって。
正にユウキの言う通り。
こちらをちらりと伺ってはにかむフェアリの様は。
それこそ俺自身で『キーウォ』かスーイが得意な【雷】の魔法でも直撃したかのような。
理想を体現したかのごとくな、夢幻めいた少女の姿がそこにはあって……。
(第102話につづく)




