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第1話、ダンジョン狂い、夢にまで見たダンジョンの在る世界へ



 

 俺……池森慈円いけもり・じえんは昔から、迷宮、あるいはダンジョンという言葉に弱かったと思う。


 いろんなジャンルのゲームに手を出したけど、エンドロールから始まる新たな謎と物語に、とにかくわくわくしたもので。

 

 そんな俺が、一万回挑めるダンジョンゲーム、『WIND OF TRIAL』のクリア後に現れるダンジョン、その中でも最難関の『異世界への寂蒔』の攻略にどハマリしたことは、必然だったのかもしれない。


 そんな最難関ダンジョンを、自らの足で、肌で体験する……

 なんて夢が現れたら一にも二にも飛びついてしまうのは仕方のない事なのだ。


 実際、そんな事が自分の身に降りかかって。

 狼狽え混乱する頭を『これは夢だ』と納得させていたからこそ、俺は俺を保つ事ができたのだろう。




 そもそもそれは、何の変哲もない一日のはずだった。

 いつものように仕事を終え夕食を取り風呂に入り、眠る前の一服……もとい、一ゲーム。

 日付が代わる頃、眠気が来たらその日を終える。

 それが、日々のルーティンで。

 半分寝ながら、というのもザラにあったわけだが。


 その日も、比較的すぐに眠気がやってきて。

 意識が飛び飛びになっている自分を理解して、今日はもう寝た方がいいかもしれない。

 そう思い、セーブして寝る準備しようとしたその瞬間だった。




 「……うわっ!?」


 突如脳天にまで響くP音。

 声上げて仰け反ると、カッとテレビ画面が光り、俺の視界を焼いて……。






 「いたぁっ」


 夢で高い所から落ちる感覚。

 本来ないはずの衝撃が臀部を襲う。

 そのまま後ろに倒れそうになるのを両手を背中に回し突っ張ることで回避したまではよかったのだが。



 「……え。ダンジョンコア? 本物か?」


 ちょうど見上げる形となった俺の視界には、目の細かいブロックによって作られた燭台のようなものに浮かぶ、12色の光球があった。

 


 「ここ最近見なかったけど、再現度すげぇな俺の夢」

 


 ダンジョンコア。

 一般的にはダンジョンの命とも言えるべきものだが、『WIND OF TRIAL』ではダンジョンクリアの証でもあり、触れることで地上に帰還できたり、新たなダンジョンへの道が開けたりするものだ。


 触れればクリアの証が残るだけで何かもらえるわけでもなかったけど、滅多にお目にかかれないからこそその時の達成感は大きなもので。


 だからだろうか。

 憧れのダンジョンコアを、ゲームでなく生身の尺度で見上げている、なんて夢を見ているのは。



 「こうなったら、タッチするしかないでしょう」

 

 そう、その時俺は夢だと思っていたんだ。

 しかも、夢であると分かってる、明晰夢だと思っていた。

 だからこそ、触れれば次の展開へと進むと確信を持っていて……。



 『―――ウィンディアガへよくぞいらした! 新しき魔王あるじよ!』

 「ぅぃいいっ!?」


 十二色の光球に手を差し出すのに躊躇いはなかっただけで。

 その途端頭の中に誰か声が……メッセージが届くなんて展開、予想すらもしてなくて。

 俺は自分でもびっくりするくらい情けない声を上げてしまう。

 しかも、自分ではっきり聞こえるほどの心臓の動悸つきだ。

 正直に言うと、夢ではありがちたと言えなくもない、空を飛んででも脱兎のごとく逃げ出したい気持ちでいたんだ。

 何故ならその声は古めかしい言い回しに相まって、随分と可愛らしい少女めいた声だったから。



 その時点で、これは夢ではないと気づいていればこの後の展開も変わっていたかもしれないな、なんて思う。

 自重的な意味で。




 「ダンジョンコアが喋った!?」

 『うむ。新規の魔王に対するチュートリアルも兼ねておるからな。語るのも仕事のうちよ』

 「そんなの、初めて聞いたけど……」

 『それはそうだろうよ。我に本来カタチは存在しない。主のイメージが具現化しているに過ぎぬ』

 

 思わず、素直な言葉がついて出たが、ダンジョンコアの中の人? は、律儀に答えてくれる。

 


 「ほ、ほほう。それで? これから俺は何をすればいい……のかな?」

 

 チュートリアルと名乗ったからには聞かなくても説明してくれるのだろうが、ここはお約束。

 魔王なんてフレーズも出てきていたし、表向きはともかく俺の内なるテンションは最高潮である。

 

 きっと、生身で『異世界への寂蒔』に挑戦出来るに違いない!

 そう勘違いしていたからこそ、逃げ出したい気持ちもどこかへいっていたし、俺と相対するもの……チュートリアルさんとの決定的な齟齬とすれ違いが生まれたのかもしれない、

 なんて後の祭りで思ったりする。




 「ふむ。受け入れが早くて助かるの。主には、このダンジョンの王……魔王となってもらいたい。現在はこの最下層しか存在せぬが、ダンジョンのくくりを外れぬ限り自由に創造してもらっても構わない」

「自由にっ!? はは、そりゃいいね!」


 そんな相槌を打ちつつも、俺の中には既に『WIND OF TRIAL』の最難関ダンジョン、『異世界への寂蒔』しか頭になかった。

 つまり、自身がハマリにハマりまくったそれに、自分の要望も自由に取り入れられると判断したわけだ。



 「そのためのサポートは私がしよう。主にはどんなダンジョンがいいか、アイディアを出してもらおうかの。まずは、ダンジョンの銘だが……」

「名前? そんなの決まってる『異世界への寂蒔』以外にないね」

「……なんと。もう既に考えてあったとは。ならば良し、それにしよう」



 もしかして、チュートリアルさんの考えた候補のようなものがあったのかもしれない。

 その少女めいた声色には、少しばかり残念そうにも聞こえたが、これは譲れなかった。

 

 我が儘でごめんなさい、なんで謝ることがあるのじゃ、なんて一度やってみたかったやりとりの後、ものの数分でダンジョン名が決まると、お次はその中身についての話し合いとなった。



 

 「して、肝心の中身だが」

 「そうだなぁ。細かく口で説明してもいいけど……ほら、なんて言うの? 俺の頭ん中の考えを、

ぱっと読み取ってみたりとか、できたりしない?」


 意外と、頭の中で思っている事って、口に出しても文章にしてみても全てその通り出せるわけじゃないからね。

 どうせ夢だし、そう言う面倒臭い事は、さっさと済ませてダンジョンに潜らせろ、と言わんばかりにまたしても強気発言でそう返す。

 

 

 「うむ。確かにそれも可能じゃ。ならばまず我に触れると良い。思考を共有させよう」

 「おっけ、さすがだね。んじゃ、早速よろしく~」

 

 都合のいい夢だと思っていたから当たり前ではあるが、この時の俺は自身に対するリスクなど、これっぽっちも考えてやしなかった。

 

 何故、なんのためにこの世界に呼ばれたのか。

 ダンジョンを作る目的は?

 ダンジョンを作るなんて大それた力、代償もなしに出来る事なのだろうか。

 呼ばれてその後、元の世界に帰ることはできるのか。


 後に悔やむ事になるかもしれなかった、面倒臭いいくつもの事。

 少しでも気にしていれば、話の方向性も変わったかもしれないのに。

 俺はそれらを、敢えて無視した。

 

 何故なら、夢だと思っていたから。

 あるいは、この事こそが、長年の夢だったから。

 

 少しも警戒し、怪しがりもしなかった俺の事を、チュートリアルさんはどう思っていただろう。

 考えなしのちょろいやつだとほくそ笑んでいたのか。

 渋らずに頷いた自分に感心していたのか。

 今度聞いてみたいと思う。

 

 ……でも、取り敢えず今は。




 「な、なななんじゃこりゃぁ~っ!!」


 状況が飲み込めなくて絶叫しているチュートリアルさんに、ごめんなさいと一言謝って。


 「お、おぬしっ。何をしっ……もががっ」


 

 今思えば。

 聴こえてくる可愛らしいその声の、イメージそのままな彼女を。

 ごくごく個人的な理由で一旦おいておきたかったのは確かで。


 そのせいで『茶白まだらのテンジクネズミ』になってしまったチュートリアルさんを。

 ダンジョンアタックの時の定位置……懐に入れて。

 

 

 「いざ、待望のダンジョンへ出発!」


 俺は、俺のためだけに用意された、俺専用の、『夢』そのものでもある。

 一万回遊べるダンジョンへの第一歩を踏み出したのだった……。



    (第2話につづく)









第2話はこのあとすぐに更新いたします。

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