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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【断罪】第二幕・前編……「陰謀の地へ」
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第14話 優の長所

 中学生の頃は暗い性格が災いして、ちょっとしたことから不登校になっていた西方。

 放っておいても人類は魔獣によって衰退していく。

 退屈で、怠惰で、鬱屈した毎日。

 そんな彼に道を示したのが、義姉シフレだった。


 『アタシと一緒に、特派員になる?』


 折につけてすごい、すごいとほめてくれる義姉。

 今思えば彼女なりに、心に傷を負った自分《義弟》を慮ってくれたのだろう。

 同情だったのかもしれない。神としての使命感だったのかもしれない。

 それでも、救われたことに変わりはない。

 西方にとって特派員になるということは、敬愛するシフレとの約束だった。




 「僕は義姉ねえさんみたいになりたいんだ!」


 優が尋ねた“理想の特派員像”についてそう語った西方。


 「いや、俺が聞きたいのはどんな特派員になりたいかであって――」

 「だから、シフレ義姉さんみたいな特派員。魔獣を殲滅して、村1つ、町1つを守れる特派員だよ!」


 そう言って目を輝かせた西方。

 そんな彼を見て、やっぱり、と、思ってしまう優。


 自分と彼は似ているだけで、違うのだ。

 優にも天という、西方にとってのシフレがいる。

 しかし。魔力持ちの彼女と自分との差はどうしても埋められない。

 憧れて、並ぶことが出来るように。天に誇ってもらえる兄であるように。

 そう思って努力はしているものの。


 天のようになりたいとは思えない。


 魔力差という名の高い壁があって。それはもう、努力ではどうしようもないことをわかってしまっている。

 神代優は西方春陽にしかたはるひのように、純粋に、憧れを抱くことが出来ない。

 そんな、どこまでも高い理想の特派員像を掲げる西方を、優は――心の底から尊敬する。

 優にとって西方もまた、自分にはできないことをしている人物なのだ。


 「やっぱり、西方はすごいな」

 「急に?! でも、えへへ。ありがとう!」


 結局、西方の答えは参考にならなかった。

 ただ自分と彼の決定的な違いを知っただけ。


 「そう言う神代君は? どんな特派員になりたいの?」

 「俺が聞きたい。……いや、もう聞いたな」


 背の高い雲が出てきた夏空を見上げて、優が吐露する。

 西方にとって優は()()()()を掲げる同志。

 そんな彼が悩んでいる様子。


 「俺はどんな特派員になりたいんだろうな?」


 出会ってから見たことのなかった自嘲気味な優の言い草に。


 「参考になるかは分からないけど」


 そう切り出す。


 「神代君といると、僕は元気を貰えるんだ」

 「元気?」

 「そう。神代君は、褒め上手? なんだと思う」


 西方から見ると、優は他者の長所を見抜くことが得意なように見える。

 それをできる人は、それなりにいるのかもしれない。

 しかし、神代優という少年が、その他大勢と違うところ。

 それは、長所を言葉にできるところ。それを直接相手に言うことが出来るところ。


 「誰かを褒めるのって、意外と難しいんだよ?」

 「そうなのか?」


 意地。気恥ずかしさ。周囲の目や世間体などなど。

 不思議なことに、誰かに褒められる機会は大人になるにつれて減っていく。


 西方自身も、こうして話しているだけで顔が熱い。

 勇気がいる、ある種の告白を、目の前の少年は表情一つ変えず平然とやってのける。


 「それはきっと、神代君の良い所なんだ」

 「俺には分からないが……」


 自分が他者より劣っていることを認め、受け入れている。

 だからこそ他人ひとの長所が見えて、素直に尊敬し、言葉にできる。


 (僕にはできないことをしているんだよ? だからきっと、シアさんは――)


 西方も自分が義姉シフレに届かないことなど、とうの昔に気付いている。

 優に語って聞かせたことは、彼にとって空虚な目標――本当の意味での理想なのだ。

 それでも、そうして目標を掲げていないと、破滅を待つだけの世界で、どうして生きているのか分からなくなる。


 特派員を目指すこの日々が、シフレとの約束の日々であり、生きる意味。

 その先のことなど、考える必要のないことだった。

 だから、同志として、優には頑張って欲しかった。


 編入した時、彼についての話を同級生たちから聞いた。

 犯罪色で魔力が低い。憧れているらしい妹がいる。それでも分不相応に特派員を目指していると笑われていた。


 ――自分と似ている。


そう感じて、西方の方から話しかけた。

彼が未来を見つめる姿は、西方にとって何よりも、希望が持てるものだった。


 「なるほど。……それがシアさんの言っていた俺らしさなのかもな」


 西方の言葉に、再びてんを仰いだ優。

 希望でもある彼の代わりに、周囲を警戒しながら。


 「……僕も、少し考えてみる」

 「何をだ?」

 「神代君の言った、理想の特派員像」


 義姉のような特派員ではないのか、と言いたげなその顔に苦笑しつつ。

 自分も特派員になったその先を考えたい。

 優と話して湧き上がった想いが、西方に前を向かせてくれる。


 似ているようで違う、夢追う2人。

 彼らの未来についての考察はしばらく続いたのち、


 「優、交代の時間だ」


 そんな春樹の声で終わる。

 涼しい館内に戻る優の足取りは数刻前より幾分軽いものだった。




 皆が昼食をとっている1階の休憩所はカフェスペースとしても利用されていたのか、数多くの倒れた椅子や机が土と埃にまみれている。奥には売店と調理場、外に続く裏口もあった。

 なお、裏口にしっかりと鍵がかかっていることは、再三にわたってきちんと確認している。

 カギはもう無いと考えられ、入ってくるには突き破るしかない。そうなると大きな音がするため、監視する必要性は薄かった。


 栄養を考えて天が作ってくれたお弁当。痛まないように保冷剤を入れておく徹底ぶりだ。

 そんな愛情を大切に味わいながら、時折、休憩しているメンバーと話して。

 休憩開始からおよそ1時間後、優たちは午後の探索への準備にかかる。

 午前の探索部分の報告、注意事項、体調や水分の確認などを丁寧に行なって。


 「じゃあ、また、ここで」


 午前よりも少しだけ増した連帯感のもと。

 6人は午前と同じくそれぞれに分かれて廃村の東側、新興住宅地の探索に赴く。

 そこには優たちの小目標である「長嶋宅」もあった。

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