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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【断罪】第二幕・前編……「陰謀の地へ」

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第6話 違和感のある家

 該当地区の北西部を順調に探索する優たちは、午前に行なう予定の探索範囲の、ちょうど折り返しを迎えていた。




 「ここで13軒目ですね」

 「う、うん! 表札は無くなってますけど、寿ことぶきさんという方の家のはず。ここが終わると、残りは11軒です」


 茶色い屋根の2階建て民家を見上げたシアのつぶやき。

 答えたのは、計画と地図を脳内に思い浮かべる西方だった。


 優はというと、玄関に続くアプローチを観察し、危険が無さそうか、人や魔獣の出入りが無かったかを確認していた。


 魔力が低い自分にできることは無いか。

 考えた末、魔法の特訓とともに訓練してきた探索技術。


 例え天人や魔力持ちでも、使えるマナには限度がある。

 その使い時を見極める一助になればという、彼なりの試行錯誤だった。


 (ここも、大丈夫そうか……)


 そう言って次に彼が注目したのはアプローチの左手から家の側面に続く庭。

 ひざ丈ほどの雑草が繁茂している。今まで見てきた他の民家の庭先の草は腰ぐらいまで成長していたことを思い出す。


 (ここだけ種類が違う? 塀もあるし、日当たりの問題か……? もしくは――)


 悪いと思いながら、試しに、玄関の扉をそっと引いてみる。

 が、開かない。

 これまでカギがかかった家は無かったことを考えると、やはり無視すべき違和感ではないだろう。


 優は周囲を警戒するシアと西方の元に戻り、


 「シアさん、この家の捜索は〈探査〉を使った方が良いかもしれません」


 魔法で内部の安全を確保する方が良いと言う。


 「どうして?」


 言われたシアの代わりに聞いたのは、西方。

 その目は疑いというよりは、好奇心の色が強い。


 「1つは庭の雑草。他よりも背が低くて、短い。多分、最近まで手入れされていた。つまり、人が住んでたんだと思う」

 「なるほど。そう言われると、確かに」

 「でも、優さんの言い方だと、他にもあるんですか?」


 純粋な疑問、と言った様子で今度はシアが尋ねる。

 それに頷いた優は玄関ドアを見る。


 「今までと違って、玄関のカギがかかっていたことです。急に魔獣が来て、逃げ出すときにカギをかけるのは違和感がありませんか?」

 「なるほど……」

 「でも、他の家みたいに、ここがかなり前に使われなくなっていた可能性もあるんじゃ?」


 西方の疑問に首を振る優。


 「なら、今まで見た家と同じで、家財を持ち出すために内側からカギが開けられているはずだ」


 そして彼なりの推測を口にする。


 「恐らく、最近まで人が住んでいて、魔獣に襲われたんだと思います」


 中に魔獣がまだいる可能性がある。ゆえに、〈探査〉を使うべき。

 そうでなくても、他とは違うというそれだけで、警戒するに十分だと優は2人に説明した。


 雑草を踏んで庭へと回り込む優たち。

 草木が倒れていないことから、少なくともここ数日、動物が出入りした痕跡はなさそうに見える。

 それでも警戒を解かず進み庭に行くと――


 「車と、シャッターか……」


 雑草に隠れるようにして置いてある黒のセダンが止まっている。

 てっきり魔獣の侵入経路は庭へと続く窓だと思っていた優。

 しかし、ある意味当然と言えば当然で、動物や不審者対策用に丈夫なシャッターが下りていた。


 車の窓はすべて無事で、それは家も同じ。


 「まだここに住んでいる方がいらっしゃる可能性は?」

 「いえ、だとするなら買い出しなどで車を使うはずです」

 「でも車は数日間、動かされた形跡はない。それでいて状態はある程度キレイ……」


 西方が、シアに答えた優の情報に付け加える。

 いずれにしても、つい最近まで人が住んでいたことは確か。


 (魔獣の侵入経路が無い……? だとすれば――)


 孤独死。

 そんな単語が、優の脳裏をよぎる。

 季節は夏。熱中症含め病気やケガで動けなくなり、そのまま――。


 (もしそれが最近の事なら、助けを待っている可能性もある、か)


 「呼びかけてダメなら、ちょっと強引に行こうと思う」


 最初は、中にいるかもしれない魔獣を刺激しないよう、呼びかけなかった。

 しかし、もはやそうも言っていられない。


 もう一度玄関に回り、インターホンを鳴らす。

 次に大声での言葉かけ。


 そして、優が見上げたのは2階のバルコニー。

 そこには屋内へと続く、大きな窓が見える。


 「まさか、優さん?」

 「神代君……?」

 「もし中に人が居て怒られたら、俺が謝って弁償します」


 これが自分勝手なワガママだと優自身もわかっている。

 それでも、そこに最善の可能性があるなら。助けを待つ誰かがいるなら。


 優は一層、気を引き締める。


 「〈創造〉」


 優が言って、段々と高くなる、天板が上を向いた譜面台を創り出す。

 横から見れば、ローマ字の“I”のよう足場を創るのは、物質でありわずかながら重量のあるマナで創ったものは宙に浮かすことが出来ないからだ。


 一方で。


 「優さん、浮いてます! どうやって――?!」


 無色のマナ特有の見えない譜面台を足場に上っていく優は、傍から虚空を跳んでいるようにも見えた。

 まるで奇跡を目の当たりにしたように、喜色を浮かべるシア。


 「シアさん、俺、無色です」

 「あ、そうでした。……あぅ」


 優の指摘に顔を手で覆い、耳を真っ赤にして勘違いを恥じる。

 無色――殺人色であることなど歯牙にもかけていないような、そんなシアの素の態度に心を軽くしながら、バルコニーに着地する優。


 普段は静謐せいひつで楚々とした雰囲気を放っているシア。

 しかし、いざ接してみると、コロコロとその表情を変える。


 「やっぱり、可愛い……」

 「え?」

 「あ、いえ! なんでもないですっ」


 こちらも顔を赤く染めて取り繕う西方を、まだ少し朱の残る顔で不思議そうに見つめるシアだった。


 バルコニーから屋内へと続く窓を見る優。

 寝室だろうか。薄い青色のカーテンが閉じられており、中は確認できない。

 ここでも何度か呼びかけてみるが返答はなし。

 彼は覚悟を決める。


 「シアさん達も上ってきてください」

 「わかりましたー!」


 2人が合流したところで、優が先日お祝いで使ったクラッカーを思い出しながら小さな円錐を創り出し、先端を窓ガラスに密着させる。


 (俺が貰っている給料で足りることを祈って――すみません!)


 〈身体強化〉で強化した腕力で円錐の底を叩いて、力を加える。


 すると、少し鈍い音を立てながらも簡単に、内外を仕切るガラスが砕け散った。

※誤字脱字や改善点、感想等、皆さまの気付きがありましたら、教えて頂けると幸いです。

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