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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【断罪】第一幕・前編……「森に響く悲鳴」

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第8話 希求

 〈探査〉で得た情報を優に伝えるそら


 「――だってあの人、もう死んでるから」


 返って来たマナの反応から見て、彼女は死んでいる。

 すぐに適切な救命処置を施せば、あるいは生命活動を再開することもあるかもしれない。

 それでも、現状、そんなことをしている余裕は無い。


 それならば、死のリスクを負って低い可能性を追い求めるより、生きている人が生きたまま帰ることが出来るようにすべき。

 天は優のように、理想を追い求めることなどできない。


 「それでも――」

 「無視してんじゃねぇ!」


 天による至極現実的で、冷酷な判断に食い下がろうとした優が言い終える前に、魔人が兄妹めがけて〈魔弾〉を飛ばす。


 魔獣や魔人も内包するマナの量は一般人よりもはるかに多い。

 当然、彼らが使う魔法も強力なものなのだが――。


 「よっ」


 〈身体強化〉で全身を薄く黄金色に輝かせる天が、左手の甲に〈創造〉した半球のような丸い盾。

 それを、しなやかな膝の屈伸と腕の曲げ伸ばしも使いながら、受け流すように振り上げる。

 まるで蝶や小鳥を空へ帰すように、黒い塊を上空へと導いた。


 しかし、一瞬、振り上げられた黄金の盾が彼女の正面左側に死角を作る。

 すかさず魔人は手にしていた曲刀を投擲。

 ちょうど天の左脇腹付近。

 天の見えない場所から迫る凶刃だったが、彼女を切り裂くことは無い。


 隣にいる優が、それを許さない。


 「――っ」


 なけなしのマナで50㎝ほどの片手剣を創り、迎撃。

 黒い曲刀をすんでのところで弾き返した。


 「天、危ないだろ……」

 「それは兄さんの魔力が、でしょ?」


 先の〈探査〉で優の魔力も把握している。

 そして、兄であればこれぐらいやってのける。そんな信頼による連携だった。


 「おいおい、マジかよ……」


 そう言った魔人の目は天を見ている。


 通常、正面から受ければ爆発する〈魔弾〉。

 魔人は、そうして悪くなるはずの視界を利用して優と天、2人に攻撃するつもりだった。

 しかし、天は爆発しないように慎重に力を分散させながら、受け流すように対処して見せた。

 その妙技に、さしもの魔人も舌を巻く。


 「お返しに……こうっ」


 そう言って天は木々の頭を越える、高さ5mほどの〈探査〉を使用する。

 そうして範囲内の空間を把握し、脳内で反芻。体外に放出したマナをそこに凝集させていく。

 同時に小さな〈魔弾〉を3発、魔人めがけて飛ばす。


 そうして飛んでくる小さな黄金色のビー玉が高密度のマナで出来ていて、強力なことを知っている魔人。

 無理に受けるのではなく軽い身のこなしで右へ、左へ回避する。

 と、常に漏出する彼のマナが頭上に迫る魔法を感知する。


 「おっと!」


 言って後ろへ跳べば、目の前に〈創造〉された1mほどの槍が降ってきた。

 人間であれば完全な死角からの攻撃に、しかし、彼は完璧に対応する。


 「おいおい、同時に魔法を5つか。それに、さっきの受け流したり、離れた場所に〈創造〉したり……化け物かよ?」


 人の並列思考能力からみて、通常、魔法の同時使用は3つ、多くとも4つが限界とされている中。

 目の前の少女は〈探査〉と〈魔弾〉を3つ、さらに上空に槍の〈創造〉と魔法を5つ使った。

 9期生が誇る“魔法の申し子”の面目躍如といったところか。


 「じゃあ、こう」


 今度は水晶大の、少し大きな〈魔弾〉を5つ用意。それらをタイミング、軌道をずらしながら炸裂させる。

 魔人が避けるたびに地面で爆ぜ、衝撃で湿った土が舞う。

 3つ避けたところで、さすがに全ては避け切れないと判断した魔人は、ドーム状の黒い盾を〈創造〉。

 人によっては〈防壁〉や〈シェルター〉と呼ぶその魔法で、残りの2発から身を守った。


 「――で? お前の兄貴は何してる?」


 〈創造〉を解除した魔人の目線の先には天しかいない。

 無色のマナの優位性は、魔法が目に見えないというその隠密性にある。

 しかし、魔人にはそれが通用しない。

 ゆえに先ほど魔人の死角を狙った天の攻撃同様、奇襲の効果は薄いのだが……。


 「兄さんなら、ほら」


 そう言って天が示した先には。


 「大丈夫、大丈夫だ……!」


 優が倒れていた女性の止血と救命処置をしていた。


 「ハッ! 何してるかと思えば、無駄な努力かよ。警戒して損した」

 「それには私も同意。ほんと、諦めの悪い……」


 ここからであれば第三校の保健センターが一番近い治療施設だろうが、間に合う保証はない。

 魔力も低下し、体も重いはず。


 それでもなお、懸命に見ず知らずの命を救おうとする優。

 その姿に、天は温もりのある一瞥を向ける。


 そして――。


 「まあでも、可能性はある、かも?」

 「あん? ああ、お前が俺を秒殺してあいつを運ぶって話か?」


 今すぐに医療施設に運び、“特別な治療”を受けられるのであれば、可能性はあるだろうと言う天。


 「残念だが、そう簡単に――」

 「そうじゃなくて、もっと簡単に。あなたはもうすぐここからいなくなる。言ったでしょ? 私、寄り道したの」

 「そりゃどういう……」


 そう言った天の言葉の意味を知るより早く。


 「こっちだ! 〈探査〉があったのは!」

 「おい! 誰かいるか?! 生きているか?!」

 「ケガ人はどこですかー?!」


 第三校がある方角から複数人の声がする。

 ここに来るときに天が相談しておいたのだ。

 近くの森に、重症人がいるかも、と。


 (まあ、ケガ人は兄さんの予定だったけど)


 自分たちはまだ学生――子供だ。

 なんでもできるというおごりを捨てるのは、天にとって当然だった。


 戦闘中に使用した〈探査〉。

 それは空間を把握し、魔人の頭上に〈創造〉するためと、もう1つ。

 自分たちの居場所を彼らに伝えるためだった。


 「なるほどな。こりゃあ一杯食わされたわけだ?」

 「このまま先生たちに殺されてくれてもいいよ? 正規の特派員だし、それこそ秒殺かも」

 「ハッ、冗談。じゃあな、化け物」


 そう言って魔人が声のした方向とは反対へと駆け出すと同時。

 助けに来た教員たちの1人が使った〈探査〉の青いマナが、優と天を通り抜けた。

※ここで前編が折り返しです。今後に期待できそうなら、ブックマークや評価を頂けると幸いです!

 また、逆に何か改善点等ありましたらそちらもよろしくお願いします。

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