第2話 証
※興味を持って頂いて、ありがとうございます! 今後も楽しんで頂けるよう、頑張っていきます。
魔法を手にして魔獣に抗うすべを手にした人類。しかし、討伐スピードを上回る速度で数を増やし始めた彼らに、人類は未だ劣勢のまま。
今や日本で内地――魔獣が駆逐された場所――と呼べる場所はかつて大都市と呼ばれた東京や大阪など、7か所しか無い。
いや、正確には、とある施設がある都道府県が内地となった。
それが国立訓練学校。魔獣と魔法を研究するとともに、それら専門的な知識を持った人員を育成することを目的に作られた教育研究機関だった。
薄い青の天幕に、白い雲の塔が立つ、7月の終わり。
大阪の南東部、かつての奈良との県境。その山中にある、国立第三訓練学校――通称、「第三校」は夏休みを迎えていた。
教務棟の事務棟3階、教務課任務係の受付カウンターに2人の兄妹がいる。
「兄さん。嬉しいからって、はしゃがないでね?」
「分かってる。けど、な……」
彼らが見つめる先には、カウンターの奥にいくつも並んだ段ボール箱。
2人の名前を確認し、その中に入っていたあるものを抱えた女性職員がやってくる。
「お待たせしました。神代優さんと、神代天さんですね。仮免許取得、おめでとうございます。こちら、制服と仮免許を示すタグです」
そう言って職員が手渡したのは学ランに似た真っ黒の制服と、角が丸まった四角い金属のプレート。
鈍色に輝く真新しいプレートにはそれぞれの名前と所属する第三校の校章が彫られていた。
「……っ!」
受け取ったそれらを強く握りしめるのが、兄の神代優。
4月に誕生日を迎え、16歳となった身長170㎝弱の少年。
耳やうなじにかかるぐらいの黒髪。
制服と、鈍く輝く金属の仮免許を見つめる彼の黒い瞳は、感慨深さと責任感に揺れている。
彼にとって今しがた受け取ったものは、幼少の頃から憧れてきたヒーローのような存在――人々を守り、誇ってもらえる人になるための第一歩を踏み出した証だった。
他方。
「ありがとうございます!」
そう言って完璧な笑顔を浮かべて見せたのが、妹の天。
兄の優より頭一つ分ほど低い身長。彼女自身が有する黄金色のマナを示すように、ところどころ明るい色が混じる黒い髪。
同じくマナの影響か、大きなその瞳は日本人にしては茶色い。
愛らしい顔、低い背丈も相まって、どこか小動物のような人懐っこい印象を受ける、そんな15歳の少女だった。
先々週、対人実技試験を突破した優と天。
2人は正式に、特別魔獣討伐派遣人員――『特派員』の候補生になることを第三校、ひいては国から認められたのだ。
制服と仮免許の実物を手にして、改めて感動する優。
その横で、固まる兄を呆れた目で見つめる天。
「……兄さん。後ろつかえてるから、行くよ?」
「ああ」
そう言った妹に半ば引きずられる形で、蒸し暑い屋外へと連れ出される優。
向かう先は友人の男女2人が待っている食堂。そこで昼食を共にする予定だった。
山を切り開いた場所に建っていたかつての学校を再利用した第三校。
そのキャンパスは、高低差が激しく、複雑な造りをしている。
階段を上ったそこが1階だったり、3階の渡り廊下を歩いていれば別の建物の2階だったり。
新入生が前期の授業を終えるころにようやく慣れ始める、というのが常だった。
優たち学生が食堂のある隣の総合棟に行くには、一度、教務棟3階から地続きの大広場に出て、そこにある大階段を使う必要があった。
夏の暑さにその身を焼かれながら大階段を下りる優と天。
階下。植えられた木が適度に日差しを遮る中庭広場には机や椅子が置かれていて、学生のみならず教員、研究員達がよく昼食をとったり、談笑したりしていた。正面には学生たち御用達のコンビニも見える。
全寮制の第三校。1学年100人の3年制、計300人の学生と第三校で働く研究員数百人の胃袋を支えるために、学内には食堂が4つ、コンビニが2つある。
そして、教務棟の総合棟には学内にある4つ食堂全てが入っていた。
総合棟2階。学生から「二食」の愛称で呼ばれるバイキング形式の食堂に優たちが着くと、意外に多くの学生がいる。
今は夏休み。窓際の席で1人本を読んでいたり、友人と歓談したり、トランプに興じたりと、人によってその過ごし方は様々。
それでも席状況には余裕があった。
「春樹とシアさんは――」
「優! こっちだ!」
入り口で友人を探していた彼に手を挙げて場所を示したのは、優と天の幼馴染の青年、瀬戸春樹。
最近また少し背が伸びて、慎重は180㎝弱。中学と、第三校に入ってからもサッカーを続けており、引き締まった体に短髪。着ているパーカーが良く似合う、そんなスポーツ系の好青年だ。
彼は4人掛けの丸いテーブル席に1人腰掛けていた。
「席取り、ありがとう、春樹」
「やほ、春樹くん。シアさんは?」
彼を挟むように、優と天が座る。
「さっきまでいたけど今、ちょっと席を外してる。けど、すぐ戻って来ると思うぞ?」
「用事? 何って言ってたんだ?」
あえて言葉を濁した春樹に優が内容を問う。
その、ある意味で無神経な兄にため息をこぼす天。
「兄さんってその辺ほんと、デリカシーないよね」
「……?」
人付き合いならではの遠回しな言い方に優が苦戦していると。
「すみません、遅くなりました!」
そう言って、1人の女子学生が姿を見せる。
光を七色に移す艶やかな黒髪、透き通った白い肌。高すぎない鼻筋がどこか日本人らしさを残す、浮世離れした美貌。
しかし、友人を見つけて浮かべた笑顔には、少しのあどけなさが残る。
身長は優より少し低い程度。同年代の女子にしては少し高い方だろうか。
一見すると黒にも見える瞳は濃紺。極寒の、どこまでも透き通った空気の中。雲一つない地上から見上げた宙のような色だった。
彼女こそ優たちの待ち人、シア。
天人――元神様という異色の経歴を持つその少女は文字通り、人間離れした神秘的な雰囲気をまとっていた。
※天が兄を気にかかる理由はきちんとあります。無条件で兄を好きになる妹は、あまりいないのかもしれませんね。兄が妹を無条件で好き、はあります(断言)。
※誤字脱字や改善点、感想等、皆さまの気付きがありましたら、教えて頂けると幸いです。