第16話 決着
次は本当に撃つかもしれない、という危機感。加えて、見えない武器を弾かなければならないという緊張感。時間が経つにつれて、外町の集中力と体力、マナが消耗していく。
〈感知〉でブラフを見破って、優に接近する外町。が、決め手に欠け、また距離をとられる。
「くそが!」
上がった息で、毒づく外町。彼も武術を経験しているからこそ、驚異的な動体視力でどんな攻撃にも反応し、落ち着いて対処する優の厄介さを徐々に理解し始めていた。
同時に、これが魔法戦だからだということも。魔法があるからこそ、いつもは必要のない警戒や予想外の攻撃に気を配らなければならない。
もし魔法を抜きにすれば、神代優という男子を簡単に組み敷くことが出来るだろう。そう思ってしまえるからこそ、外町の中に“焦れ”が生まれていた。
結果的にその焦れったさが、優の与り知らないところで、外町に余計な体力とマナを消費させていた。
最初こそ優の魔力切れを狙って、あるいは剣術で押し切れると考えていた外町。
しかし、考えていた不意打ちも失敗し、その後も決め手に欠けている今。この状態が続くと自分の、主に魔力が危ないと思い始めていた。
「こうなりゃ……」
外町が手元の剣を消失させ、ノーガードになる。そして、すぐさま〈魔弾〉を使用し、黄蘗色をした3つの魔力塊を優に向けて打ち出した。
外町は、あえて攻勢に出て回避や防御に専念させて優の選択肢を減らす。そのまま、魔力の差で押し切る。これもまた、無色のマナへの対抗策としてよく知られているものだった。
「――くっ」
外町の黄蘗色の〈魔弾〉が的確に優に迫る。少し反応が遅れた優はその全てをシアやザスタが使った全方位を守る盾――〈防壁〉で受けることになる。
一般人には魔力の消費が激しいもの。これまでの戦闘で使用したマナの量も少なくない。ぐっと体のだるさが増す。マナが減ってきた証だった。
そこに迫るのは、いつの間にか接近していた外町の斬撃。
その手には2振りの長剣が握られている。通常であれば利き手とは逆に小太刀をもって行われることが多い二刀流。
が、マナで創られた武器には重さがほとんどない。加えて、筋力を中心に身体能力も強化できる。マナの消費を考えない、攻撃に特化した二刀の剣技が優に襲い掛かる。
〈防壁〉で防ぐことがよぎった優だが、すぐに両手にサバイバルナイフを創り応戦することに決める。手首を痛めないよう、また、小回りが利くように、今度は逆手に持つ。
上段切りとは逆の手で行なわれる中段横なぎ。
それぞれに膝や手首のクッションを入れて、受け止める。両手で攻撃を受け止めたために空いた優の胴部。そこにあるペイントボールに向けた、外町の足の裏を用いた蹴り。
「――はぁっ!」
優は小さく息を吐きながら剣を弾き、何度目になるだろう、距離をとって〈魔弾〉を撃つ構えをとろうとする。が、すぐに外町が〈魔弾〉を使おうとしているのを確認して、その軌道に目を凝らそうと集中する。
今の一連のやり取りだけで、相当マナを消費していた優に、もう〈防壁〉を使用するだけの余力はない。
飛んでくる〈魔弾〉は可能なら回避、もしくは、創り出した小さなナイフを投げて対処することにする。
外町が放った〈魔弾〉は先ほどよりもより早く、正確に飛んでくる。
優の正面、右、左を狙った直線的な魔力塊。
しかし、回避してもその先に魔弾が迫るように工夫がなされていた。
正面から迫る1つを右に身を翻して避ける。そのまま、後ろ手に左手のナイフを投げて、回避した先に迫るもう1つの〈魔弾〉にぶつけて破裂させ、対処。
左に迫っていた〈魔弾〉は外れたはず。そう思っていた優めがけ、急に大きく角度を変えた最後の〈魔弾〉が左から迫る。
「やばっ」
咄嗟に左手に盾を〈創造〉し、受ける。そして、爆発。ギリギリで対処できたものの、必要以上の強度と大きさで創ってしまったために大きくマナが減る。
気づけばまた、外町が両手に持った剣を振り上げた状態で優の目の前にいる。
まずい!
今度は声すら出ない。どうにかサバイバルナイフを〈創造〉するも、外町が剣を振り下ろす動きの方が早かった。
諦めない!
最悪、ペイントボールだけは破壊されまいと、剣筋を見届ける優。肉を切らせて、ペイントボールを守る作戦。
だが、その作戦は思わぬ形で失敗する。咄嗟のことで、この時は攻撃にのみ意識を割いてしまっていた優。外町が振り下ろしたその手に剣が握られていないことに気付くのが、致命的に遅れた。
優に覆いかぶさってくる外町。
ならばせめて、相手より早くペイントボールを――。
「試験終了!」
試験監督の声が響いたのは、その時だった。
次いで、
「勝者、神代優!」
声が聞こえる。
「……?」
状況が飲み込めず固まる優に、外町が倒れこんでくる。
その体は、軽い。いや、優が〈身体強化〉を使用しているため、そう感じたのだ。
優に受け止められる形になった、外町。
彼は動かない。やがて力なく膝から崩れそうになる彼の身体をひとまず抱えながら、ようやく優は理解した。
外町は気を失っている。
――魔力切れを起こしたのだと。
外町の、試験の続行不能。それによって、優は勝利――試験に合格する。その胸のうちにあったのは、達成感と安心感、そして、少しの心配。
「これで、外町が考えを改めてくれればいいが……。大丈夫か?」
それは外町を案ずる、というよりは、彼とデートをするという天へ向けたものだった。