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第11話 シア対ザスタ

 ザスタによる全力の斬撃を、幸運にも受け止めたシア。


 「やっ!」


 冷や汗を自覚しながらも声を出して己を鼓舞し、ザスタの黒剣を弾く。そのまま、リーチを生かしてザスタの頭頂部めがけ、薙刀の先端を振り下ろした。

 今度はザスタがそれを、上段に構えた大剣の腹で受け止める。一応、両手で剣を支えているが、シアが見る限り、まだ余裕はありそうだ。


 すぐに魔法を解除して薙刀を消滅させ、小さな自動小銃を右手に創る。

 そのまま、引き金を引くと同時に〈魔弾〉を使用。形だけしかな純白の銃。無駄なマナの消費になってしまうが、シアにとって指や手のひらで〈魔弾〉を打つよりもはるかに想い――マナを込めやすく、“速い”弾速をイメージしやすかった。ただし、発射音が鳴らないところが実物との違いか。


 実弾のそれに近い速さで飛んでくる白い弾丸をザスタは剣を正面に構えて受ける。小さな見た目よりも威力がある弾丸を受け止めるたび、剣を支えるザスタの手のひらに鈍い痛みを伝えた。


 「悪くない」


 リロードの必要が無いため、シアは可能な限り連続で〈魔弾〉を撃ち続けて、1秒でも長くザスタが防御に専念しなければならない状況を保つ。もちろん、時折、足にあるペイントボールを狙うのも忘れない。

 同時に、空いたもう片方の左手で、大きなマナの塊を創っておき、ゆっくりと時間をかけてマナを溜めていく。要領は〈創造〉と同じ。体外に放出したマナを一転に集めていく。彼女は先日学んだとある魔法を使おうとしていた。


 想いと一緒にマナを込めて、込めて。少しずつ、少しずつ。

 シアの手元で白い光が輝きを増していく。

 今度は圧縮して。小さく、小さく……。

 やがて人の頭ほどの大きさだった〈魔弾〉は、小さな赤ん坊の拳ほどの大きさになる。準備は完了だった。


 ハエの魔獣との一件以降、マナの扱いを中心に、1か月以上練習してきたシア。最近では、図書館に通い、魔法のアイデアやマナの仕組みについても勉強している。

 魔獣を倒し、人々を守るために。また、昔読んだ絵本に出て来た運命の女神。彼女のように、人々の前に立ち、導いていくために。

 今回はその成果を、友人や、目端に映る彼――優に示したいと思っていた。そうして彼らの信頼を得ることこそが、何よりも大切だとシアは考えていた。


 それにしても。どういう訳か、ザスタはこの間、何もしてこない。そのことを不思議に思い、試しにシアは銃撃を止めてみた。

 それでもザスタは剣を降ろし、どこか冷たさを感じる黒く怜悧れいりな瞳でただシアを見つめて立っているだけ。


 怪訝けげんな表情を見せたシアに、ザスタはほんの少しだけ笑って見せる。その魔法、使って見せろと。どこか上から目線で、試すように。

 少なくともシアには、彼の表情がそう映った。


 「……わかりました。今度は私の番です! ザスタ君の全力に、私も応えます!」

 「ああ、来い」


 シアの叫びに、短く答えるザスタ。試験官もギャラリーも。緊張感をもって見つめる、その小さな円の中で。シアが左手に乗せたまばゆく発光するマナの塊を掲げる。


 「〈爆砕〉」


 本に書いていた魔法名を唱え、シアは空高く光球を放る。

 一方のザスタは全方位、どこからの攻撃でも耐えられるよう、ドーム状の盾――〈防壁〉を創って自身を覆う。


 束の間の静寂。青い空に白い放物線を描きながら落ちていく光球と、赤黒いマナが触れ合う。


 刹那。


 耳をつんざくような爆発音とともに、真っ白な光の塔が第三校の運動場に突き立った。


 圧縮したマナを、全方向に勢いよく拡散――爆発させるのが〈爆砕〉の基本。集団戦で重宝される魔法だと、シアが読んだ本には書いてあった。

 彼女は今回、マナが拡散する方向を上下に限定することでより爆発の威力を上げようとしたもの。そうすることで、近くにいるギャラリーを巻き込む恐れもなくなる。範囲を犠牲に、威力を求める。そんな〈爆砕〉だった。


 衝撃で地面が小刻みに揺れ、その余波で生まれた強烈な風が砂を巻き上げながら見ていた学生を襲う。


 観客たちからは見えない、濃密な白いマナで出来た巨塔の中。シアの魔法を正面から受け止めようと張られていたザスタの4枚の〈防壁〉が1枚、また1枚と割れていく。やがて最後の盾にヒビが入ったことを確認したザスタは小さく笑う。

 全身を〈身体強化〉で覆い、頭上に分厚い、板状の盾を創って構える。最後の〈防壁〉が割れ、白光がザスタを直上から襲う。


 「おおおぉぉぉ!」


 叫びながら、全身全霊で、まだまだ新米な女神の魔法を受け止めることにした。




 「シアさん、今、ちょっとズルした」


 そそり立つ巨塔に照らされながら、天がジトっとした目をシアに向けて、呟いた。


 「どういうことだ?」


 そんな妹の言葉の意図がわからず、優が問う。吹きすさぶ爆風に背を向け、小柄な妹を庇う優。向き合う形になっている兄を見上げて、天は説明する。


 「うんと、普通、私なら魔法の準備段階でシアさんの手元にある隙だらけの〈魔弾〉? に、攻撃して、誤爆させるんだけど……」


 マナの爆発。変態途中の魔獣を攻撃した時に発生するそれを、簡単に引き起こせたと天は語る。正確にはシアが使用したのは〈爆砕〉の魔法。その完成途中にあったマナの塊を、天は便宜上、〈魔弾〉と表現した。

 妹のえげつない作戦に納得しつつ、感心していた優だったが、


 「……待て。この場でそれをしたらやばいだろ」


 その危険性に気付く。ここには大勢の観客がいる。そして爆発するのは天人のマナが凝縮された〈魔弾〉。ひょっとすると1か月前の演習時のそれより大きな規模の爆発になる。


 「そう。ザスタ君もそれをわかってたはず。だから、その作戦を実行できない。そういう意味で、シアさんはずるいことした。多分、本人は自覚してないんだろうけど」


 無自覚というのがまた面倒だと天は思っていた。


 「……まあ、とはいえ。あの感じだと、最初からザスタ君は攻撃を受けきる予定だったみたい」


 さながら日頃の頑張りの成果を“誰かさん”に見せたいお転婆な娘と、それを見守る父親。今回の試験、2人の天人による戦いも、天の目にはそんな風に映っていた。


 結果はどうなっているだろう……?


 そう思って、天は巨塔が消え去り、風も収まった第2会場を見つめる。


 そこには――。

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