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第10話 シアの場合

 シア対ザスタ。2人の天人による対人戦を見届けるために試験が行なわれる第2会場へと赴いた優と天。着いたときには、同級生・上級生関係なく多くのギャラリーが集まっていた。


 「あれが1年の……、なんか、こう、可愛いな!」

 「綺麗、ともいえるだろ。まあ、天人だからな」

 「ザスタ様ー! こっち向いてー!」

 「イケメン過ぎ! 大人びた雰囲気がまた何とも……」


 主に黄色い歓声が飛んでいる。

 ザスタもシアと同じような黒い長袖のジャージ。しかし、暑さで赤くなった頬に薄っすらと汗ばむシアに対し、どういう訳かザスタが汗をかいているようには見えない。むしろその表情は、どこか涼し気だ。


 「えっと……、始めまして、ですよね。私はシアです。よろしくお願いします」


 シアがザスタと関わるのは今回が初めて。天人だからと言って、シアはザスタを特別視してこなかった。あくまで同級生の1人として認識している。


 「俺はザスタだ。よろしくな」


 高い身長、長い手足、大人びた低い声。威厳のようなものを放っている彼に、近づき難かったというのもある。


 「……なるほど。俺が会った中では珍しいタイプの神だな」


 細いあごに手を当て、シアを眺めていたザスタがこぼした。

 シアが神だった時間は少ない。会ったことがある知己は、当時、自分と同じように生まれたてだった女神1人だけだ。彼女とも、天人になってからは会っていないし、居場所もわからない。

 他にあると言えば、中学の頃に1人だけ、男神と会ったことがあるくらい。決して、多くの神と会ったことがあるわけでは無かった。


 「そう、なんですか? どのあたりが……」

 「多くの場合、俺たちは自己中心的だ。オーラ、のようなものもある」

 「……えっと、ということは私にはそれが感じられない、と?」

 「そうだ」

 「――うっ」


 直球で肯定されたことに、シアはショックを受ける。それでも、


 「いえ、クラスの子も、優さん達も、雰囲気があると言ってくれました。大丈夫です、大丈夫」


 小さい声で自分に言い聞かせて、気分が落ち込まないように気を付ける。魔法は感情と密接に関係している。案外、これはザスタの作戦かもしれない。そう思って、


 「向こうにいた時間より、こっちで過ごした時間が長いからかもしれません」


 シアが言った適当な見解に、


 「なるほど。そういうものか」


 ザスタは納得した様子。嘘をついているようにも見えないため、素で言っていたようだとシアは判断する。つまり、先のオーラが云々という話も本音ということになる。それはそれでシアの心の傷は深くなり、結果として彼女の動揺は大きくなってしまった。

 どうにか気を取り直し、ザスタに伝えるべきこと伝えることにするシア。


 「すみません、今回、私は権能を使うつもりはありません。出来ればザスタさんにも、それをお願いしたかったんです」


 ここには大勢の人がいる。こんな状態で互いに権能を使い合えば、何が起きてしまうかわからない。ザスタもそのあたりのことに気を付けてくれるようで、


 「安心しろ。俺も使うつもりはない」


 全てを飲み込んでしまいそうな漆黒の瞳をシアに向け、提案を受け入れる。よって、今回は単純に魔法の巧拙だけが問われる形になった。


 「そろそろ、試験を始めようと思います。いいですか?」


 試験監督の言葉に頷く天人2人。少し距離をとって、互いに向き合う。いつの間にか観客たちは静まり返っており、開始の合図を今か今かと待っている。

 やがて、静かに吹いた風が小さな砂を巻き上げた瞬間。


 「始め!」


 試験開始の声が響いた。同時に、シアとザスタ、2人は〈身体強化〉を使用する。

 シアの全身が神々しく白いマナで包まれる。対するザスタは、中心だけ赤く、その周りを黒い炎が纏ったような、独特のマナの色を放つ。

 2人が〈領域〉を使わなかったのは、シアが絶賛練習中。ザスタはそもそも使う気が無かったからだった。


 「行くぞ」


 先に動いたのはザスタ。演習中、天と戦った時と全く同じように、赤黒い幅広の大剣を創り出す。脇を閉め、剣先を右後ろに流す脇構えで、シアに駆ける。

 目にも止まらない、とはまさにこのこと。天人のシアに対して、ザスタは全力で魔法を使う。強く蹴られた地面が土と砂埃を上げ、背後にいた学生たちは砂まみれになった。


 「はや――〈創造〉っ!」


 想像以上の速さ。シアが戦った中で一番早かった、イノシシの魔獣をも上回るスピード。急いで手元に薙刀なぎなた――長さ2mほどで上を向いた先端が緩やかな曲線を描く棒――を創り出す。両手で祈るように持ち、下の先端を地面に突き立てる。自身の力だけでは、とてもザスタの攻撃を受けきれないという判断だった。


 急制動の力と、遠心力、腰のひねりを剣先に乗せた、黒い中段の横なぎ。その強力な攻撃が、地面に突き立てられた白い薙刀とぶつかる。


 ガィンッという、重い金属同士がぶつかるような、鈍い音が響いた。続いて、靴が地面を滑る音。


 地面に数十センチもの線を残し、シアの薙刀はザスタの攻撃をどうにか受け止る。シアが焦っていたせいで、薙刀が浅く地面に差さっていた。それが結果的に、程よく力を地面に逃がす形になっていた。

 もし正面から受け止めていれば、へし折られていた可能性が高い。下手をするとシアの身体が真っ二つになっていた可能性すらある、強力な一撃だった。


 「ほう」


 偶然とはいえ、自身の全力の斬撃を受け止め切ったシア。そんな彼女に対してどこか嬉しそうに、ザスタは感嘆の声を漏らした。

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