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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【物語】第二幕……「人々の想い、私の願い」
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第8話 限界

 魔獣と相対している学生2人の場所を知る優が先導する形で、森を駆ける。やがて目的地に着いた優とシアが見たものは、魔獣と対峙する2人の女子学生だった。


 魔獣と女子学生たちの距離は5mほど。その様を、駆けつけた優とシアが横から眺める、そんな位置取りだった。


「私たちだけでも大丈夫というところを朱音(あかね)様に示しましょう」

三船(みふね)さん……。うん! 魔獣の1匹や2匹!」


 互いに励まし合う彼女たちが相対しているのは、今まで優たちが討伐してきたものより二回りほど大きい──人の頭サイズのハエの魔獣だった。大きさ以外の目に付く違いと言えば、蛇の魔獣を食べた影響か、複眼が1つ胴の下側、地面を向くようについている事だろう。


 優が魔獣を観察する横で、シアは女子学生の様子を確認する。三船と呼ばれていた眼鏡をかけた学生が、頬に擦り傷を負っている。しかし、恐らくそれは森に吹き飛ばされた際にできたものだろう。きちんと2本の足で立てていることから、足の捻挫や骨折などは無さそうだった。


「大丈夫ですか?」


 明らかに及び腰になっている2人にシアが声をかける。そこでようやく優たちの存在に気付いたらしい女子学生たちは、


「シア様?!」

「良かった、助けに来てくれたんだよ!」


 主にシアという心強い戦力の増援に喜ぶ。瞬間、張り詰めていた彼女たちの緊張がゆるみ、目線が魔獣から外れてしまった。


 その隙を見逃さず、魔獣が動く。


 ブンブンと強烈な羽音を響かせながら、地面スレスレを不規則に飛ぶ。ハエの魔獣が初めて見せた素早い動きだ。


 右へ、左へ。見る者を撹乱するように動きながらも、魔獣は獲物めがけて確実に突進する。狙いはもちろん、隙を見せた女子学生2人だ。


 そして、喜びから一転。近づいていくる気持ちの悪い羽音と醜悪な見た目。そして、どうしても頭をよぎる死の予感から、


「「きゃぁっ!」」


 悲鳴を上げることしかできない。そうして身体を硬直させる彼女たちを捕食しようと魔獣が大きく開いた。その様は、さながら、宙に浮く人の頭がぱっかりと割れるようだった。


 しかし、そんな魔獣の動きを、優もシアも見逃していなかった。


「シアさん!」

「はい!」


 まずは優だ。ハエの魔獣の動きは速い。それでも、長年鍛えてきた動体視力を生かして、優は魔獣の移動先を予測し、〈創造〉した小型のナイフを魔獣めがけて投擲(とうてき)する。


 が、不規則な軌道を描いて移動していた魔獣の動きに翻弄され、狙いが逸れた。結果、優が投げた無色透明のナイフは魔獣の羽に命中し切り落とす形になる。


(くそっ、外した! ……だがっ!)


 羽を失い、飛行の勢いもそのまま地面に落ちた魔獣が地を滑る。そうして、黒っぽい血の跡を残しながら地面を滑った魔獣は、女子学生たちの足先で止まった。


「ひっ……」


 木野と呼ばれていたボブカットの女子学生が、自身を見上げながら無数の節足をうごめかせる魔獣の姿に短く悲鳴を上げる。


 が、そうして地面を転がるハエの魔獣はまさに隙だらけだ。


「――〈魔弾〉」


 慎重に狙いを定めたシアの白い〈魔弾〉が魔獣に命中し、血肉をまき散らす。


 カサカサと動いていた足の動きを止め、魔獣が黒い砂になり始めて絶命したことを確認して、優とシアは一息つくことになった。


「……うまくいきましたね」

「はいっ! 今回はきちんと、敵の動きを追えました」


 優たちにとって、今の戦闘の緊張感は、これまでの小さな魔獣とは比べ物にならないほどのものだった。それでも互いに自分の役割をきちんと把握し、連携できたのだ。喜びもひとしおというものだろう。


 その一方で、優が魔獣の動きを予測しきれなかったり、シアは止まった魔獣にしか〈魔弾〉を命中されられなかったりと、反省点もある。そのあたりもきちんと確認しておく2人だった。





「……助けていただいて、ありがとうございました。シア様……と、神代優」

「シアさんも、神代くんも! 助けに来てくれて、ありがとう!」


 三船(みふね)美鈴(みすず)木野(きの)みどり。2人が順に、お礼を言って自己紹介する。


 三船はシアよりさらに少し高い背丈の少女だ。背中まで届く長い黒髪に切り揃えられた前髪。眼鏡をかけていることもあって、真面目そうな雰囲気を(まと)っている。


 一方、木野は天と同じか少し高いぐらいという低い身長で、茶色く染められた髪をボブにしている。話し方も含めてはつらつとした印象の少女だった。


「えっと……確かお2人は首里(しゅり)さんのセルの方、ですよね?」


 シアがおずおずといった様子で尋ねる。首里(しゅり)朱音あかね。魔力持ちで知られ、天と並んで9期生期待の特派員候補生だ。優と春樹のクラスメイトであり、魔力至上主義の女子学生だった。


 ()()()目立つ彼女の動向も自然と聞こえてくるもので、三船と木野が首里のセルメンバーだということは顔見知りでしかないシアでも知っていたのだった。


 シアの問いかけに頷いたのは眼鏡をかけた黒髪の女子学生、三船だ。


「はい。ですが、はぐれてしまって。朱音(あかね)様でしたらきっと、お1人でも大丈夫だと思うのですが」

「でも、だったら朱音ちゃんが使う真っ赤な〈探査〉の光でわかるんじゃない? って話してたら魔獣が来ちゃって……」


 心配そうに言った三船の言葉を引き継ぐ形で、茶髪ボブの木野が説明を続ける。首里は魔力持ちであり、〈探査〉をしても・されても所在がわかりやすいのではないか。木野たちはそう考えたようだ。


 しかし、首里と同じく多量のマナを持つシアは「多分ですけど」と前置きをした後、


「首里さんや私たちが使う魔法は他の人の魔法を阻害しやすいんです。それを配慮しているんじゃないでしょうか」


 と、首里が魔法を使わない理由を推測する。それは、シアたち“持つ者”だからこそ、常日頃から意識していおり、思い至ることのできる事柄なのかもしれなかった。


 そして、女子たちのそばで〈探査〉をしながら話を聞いていた優も、シアが口にした考えと同じ予想をする。


(そうじゃないと、今もなお、天が〈探査〉で俺たちに生存を伝えない理由がないからな)


 ()()天ならそのあたりもうまく調整して〈探査〉できそうなものだが、使わない理由──マナが少ないなど──があるのだと、優としては信じたい。


 天と春樹。今は2人の生存を信じて、行動すべきだろうと優は思考を切り替える。


「──〈探査〉終わりました。30mほどですが、俺が見た限り、3時、5時、8時方向に魔獣が1体ずつ、2時方向に人が2人いました。魔力から見て、天や首里さんではなさそうです」


 優が周囲の状況をシアたちに知らせる。


 今いる場所と内地とを直線で結んだ西に向かう線を12時としたときの方向指示だ。また、優にはもう1つ伝えなければならないことがあった。


「――それと、すみません。俺の魔力がそろそろ危ないので、この後はシアさんに探索を任せます」


 シアと合流する時と、その後。度重なる〈探査〉に加え、先ほどの戦闘で優のマナはそれなりに減ってしまっていた。それは、なんとなく感じる体の重さで分かる。


 不測の事態に備えて〈身体強化〉を維持しなければならない以上、次回以降はシアに任せたいと優は思っていた。


 ただ、自ら“限界”を口にする行為だ。優としては決して気が進まない。しかし、ここで見栄を張ってもシアを含めここにいる全員を危険にさらすことになる。格好悪いが、決して恥ずべき行為ではないだろうと、優はこの辺りのことを割り切ることにしていた。


 そうして断腸の思いで、役割の交代を伝えた優に、


「わかりました。私の〈探査〉はなるべく慎重に、ですね。さっき話したように、他の皆さんに迷惑がかかるかもしれないので」


 シアが了解の意を示し、今後の方針を決めようという時だ。


「えっと、じゃあ私がするよ。まだ魔力、余裕あるし」


 ()を上げた優の代わりに探索を買って出たのは木野だった。


 それはつまり、優たちと行動を共にするという意思表示でもある。優とシアは道中の魔獣を無視しない方針であるため、同道すると三船と木野の危険も増すことになる。加えて三船も木野も、魔力至上主義者の首里とセルを同じくしている。


 優としては、


「大丈夫なんですか? 予め言っておくと、俺のマナは無色です」


 その事実をきちんと確認しておく必要があった。

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