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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【魅了】第三幕……「溢れる想いに魅せられて」

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第4話 ごほうび

 シアをお姫様抱っこしたまま、会場の出入り口へと駆ける優。湧き上がる衝動のまま、コウを殴ってしまった。やってしまったと思うが、それ以上に、優の心は晴れやかなものだった。これこそ、自分が望んでいたものだと言うように。


「お、下ろしてください優さん! このままでは第三校の皆さんに迷惑がかかるんです!」


 混乱しながらも優の腕の中で暴れるシア。しかし、魔法も無しに〈身体強化〉している優の腕を振り払うことが出来ない。それに、優はもう、心を決めていた。たとえ何があっても、シアを連れ帰ると。

 シアを抱えたまま壇上を飛び降りた優は、待機していた天と春樹に声をかける。


「天、春樹! 撤退だ!」

「格好良いじゃん、兄さん!」

「やっぱ、そうでなくちゃな!」


 出入り口では壁に背を預け、目を瞑る首里がいる。事態を静観するつもりらしい彼女に心の中で礼を言いつつ駆け抜けようとしたところで、


「私のコウ君に何するの、くそ野郎!」


 暗い青緑色――鉄色てついろの〈魔弾〉が数発、飛んでくる。叫んだ女性は、シアに対して〈魔弾〉を放った人物と同じだった。

 天が黄金色の丸い盾で1つを後方に逸らし、春樹も身の丈ほどある大きな黄緑色の盾を創って真正面からマナ塊を防御。しかし、優の進行方向をめがけて撃たれたものは防ぐことが出来ず、優は足を止めて回避することになる。


「この威力……あの人、魔力持ちだ。気を付けて!」


 天が一瞬の交錯で感じ取った〈魔弾〉の威力から、女性が魔力持ちであることを察して注意喚起をする。他方、女性の魔法によって足止めされたことで、シアを誘拐しようとする優の前に立ちはだかる影がある。


「誰かと思えば、美百合みゆりさんか……。俺のパーティー、台無しにしてくれちゃって……」


 出入り口をふさぐように立っていたのは、コウだった。彼の紫色の瞳は、鉄色のマナの持ち主である女性――葛城美百合かつらぎみゆりに向けられている。どこか非難めいた色を含む視線にたじろいだ葛城。


「だ、だって……。コウ君がこんな女と結婚するなんて言うから」


 と、シアを指し示して言った葛城に、コウはやれやれと首を振る。


「シアちゃんが、『こんな女』? 少なくとも美百合さんみたいに旦那が居て俺と遊ぶような尻軽とは格が違うんだよね。人としても、生物としても、ね」


 その言葉に驚愕の表情を見せる葛城。しかし、すぐに憎悪の感情を宿すと、その暗い感情をコウではなくシアに向ける。


「やっぱりお前が……お前がコウ君を変えたんだ! みんなのコウ君を、私達を平等に愛してくれたコウ君を、お前が変えた!」


 言って、葛城は鉄色の包丁を創り出し、シアを襲おうとする。しかし、


「あ、でも」


 コウが発したその言葉で、動きを止める。


「俺のお嫁さんを奪おうとした奴らを止めてくれたことには感謝してるよ? だから、パーティーを台無しにしたことはチャラにしてあげる」

「ほ、本当?! じゃ、じゃあもしこいつらを私がやっつけたら、私にもご褒美、くれる?」


 憎悪から一転、明るい表情に変えた葛城がねだるような声でコウに聞く。その問いに「いいね」と言って口の端を上げたコウは、


「いいよ。もし、こいつらを殺してくれたら美百合さんこそが俺の“特別”になるかも?」

「私が、コウ君の、特別――」


 旦那とでは味わえない悦楽を想像し、うっとりとした表情を浮かべる葛城に対して黄金色の槍の石突が振るわれる。警察が来る前にシアを連れ出したい天としては、さっさと優とシアを先に進ませる必要があった。

 昏倒させるために容赦なく振るわれた天の槍を、転びながらもどうにか葛城は避ける。


「何するの、このガキ!」

「話長い。警察が来る前に私たちは逃げないとなんだ。痴話げんかならよそでやって」


 へたり込む葛城を見下ろしながら、天が告げる。まだまだ子供の少女に、魔力持ちたる自分が見下ろされている。それが、魔力至上主義者である葛城美百合にとっては許せなかった。

 創り出した包丁を手に、よろよろと立ち上がった葛城。


「分かった、分かったわ、コウ君。私がこいつらを殺す。だから……」

「約束するよ。美百合さんを俺の特別にしてあげる」


 葛城の言葉を引継ぎ、そう言ったコウ。身体からはわずかに、紫色のマナが漏れている。〈魅了〉の権能を使った証だった。


「うん……。うんっ! 私とコウ君だけの約束っ!」


 そう言って、包丁を持ったまま血走った目で優たちを見た葛城。しかし、数的不利はいかんともし難いと思ったコウは、この場に居る手駒をもう1つ使うことにした。


「そこの君、確か学校で会った子だよね? シアちゃんを連れて来てくれた」

「……首里朱音です、コウ様。覚えておいてくださり、光栄です」


 壁際で成り行きを見ていた赤毛の少女に声をかける。どうせ自分のいうことならなんでも聞いてくれる魔力至上主義者だろうと、コウは首里を利用する。


「美百合さんを手伝ってあげて? そうしたら君にも、ご褒美をあげるから」


 あとは微笑むだけでいいとコウは知っている。案の定、ドレスの裾をつまんだ少女は、


「……かしこまりました」


 一瞬の間を置いて、コウに従うことを了承した。そのまま壁から身を離し、カツカツとヒールを鳴らして葛城の横に並ぶ。


「コウ君の特別は私だけのものだから」


 コウに頼られた首里を忌々し気に見た葛城だったが、首里は一切表情を崩すことはない。いつものように温度の無い瞳で、優たちを見ていた。


「……結局、首里さんは敵方ってわけだ」


 黄金の槍をくるりと回して好戦的に笑った天。その茶味がかった瞳は、ネイビーのドレスを纏った首里を向いている。


「ま、いいけど。首里さんにはこの前、さんざん煽られたし」

「事実を言っただけですよ、神代さん」

「むっか。いいよ、どっちが上か、勝負だ!」


 どこか楽しそうな幼馴染の顔を苦笑しながら見た春樹が、一応確認してみる。


「魔力持ち2人。オレと天だけで抑えるのか?」

「そこは頑張って、春樹くん。美百合って人はどうせ、素人だから。首里さんは私が相手する」


 相手が魔力持ちだったとしても所詮は素人。特派員である春樹なら勝てると笑う天の信頼に、春樹も表情を引き締める。


「了解だ、っと。ってことで。この2人はオレ達がどうにかするから、シアさんは頼んだぞ、優」


 背後でシアを抱えている優に向けて、拳を掲げる春樹。そんな幼馴染に「ああ」と短く答えた優は、出入り口に立つ高位の存在――天人へと目を向ける。


「俺の伴侶、返してくれる?」

「すみませんが、俺たちの大切な人なんです。コウさんには渡せません」


 戦闘に巻き込まれないよう、シアを下ろした優。


「シアさんは、何もしなくて大丈夫です。黙って見ていてください」

「あ、あの……。私の意見は――」

「殺す殺す殺す殺す……殺すぅぅぅ!!!」


 シアの呟きを遮るように叫んだ葛城。その怒声をきっかけに、優、春樹、天、それぞれの戦闘が始まった。

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