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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【魅了】第二幕・後編……「忘れかけていた想い」

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第7話 積み上げてきたもの

 テレビをつけた部屋で1人、優は思いを巡らせる。


 シアの答えを尊重するべき。尊重したい。


 そう言った優に、天と春樹はそれが本音なのかを聞いた。まるでそれ以外の思いがあるのではないか。そう尋ねるように。

 初任務が終わった日。保健センターで優はシアに言った。


 『シアさんが選んでくれた“主人公”として。俺は、強くなりたい』


 その言葉に噓偽りはない。そして、仲間を大切にする以上、相手の想いや言葉を尊重しなければならない。


 「相手の、シアさんの想いを無視するべき……ではない、よな。無視したくない」


 やっぱり、()()()()()()自分はシアが語る想いと言葉を大切にしたいと優は思う。今までそれでうまく言っていたのだから。


 「そもそも、俺にとってシアさんって一体――」


 と、優の携帯がメッセージの着信を伝えて来る。その相手は春野楓だった。


 「……そう言えばシアさんのこと聞いてたんだったか」


 何かシアについて情報が無いか、特警である春野にも連絡をしていた優。結局、春野よりも先に首里が確信をつく情報を伝えてくれたため、失念していた。


 『この前ぶり』『春野楓です』『シアさんのこと』『良ければ通話しませんか?』『(スタンプ)』


 いくつかに分けられたメッセージ、そして通話の誘いに優の緊張感が高まる。日も暮れて、特にやることも無い。通話を了承して待つこと数秒。既読と共に春野との通話が開始された。


 「プールぶりだな、春野」

 『うん! プールぶり……ってこれ、変な感じです』


 そんなよくわからない挨拶から始まった通話。特警の学校に通っている春野。実習中の今も携帯を使うことが出来る時間も制限されていて、連絡が遅れたことを謝る。それに対して優は気にしていないと返し、シアの情報を得たこと、そして首里についていく形で京橋きょうばしの駅前ビルに行くことを話した。


 『……それ、本当ですか?』


 春野の声が張り詰めたのは、その時だった。優が告げた8月27日。その日は京橋地区に応援要請があるかもと、春野は演習中に先輩から聞かされていた。とても、偶然の一致とは考えられない。

 しかし、優にそれを伝えることはできない。職務上の守秘義務に当たるからだった。


 「どうかしたか?」

 『……ううん。ごめんね、何でもないです。それで神代くんはどうするんですか?』


 話は当然のように、優がパーティーに行ってどうしたいのかという話になる。ひとまず優は、先ほどの天と春樹とのやり取りを主観も込みで話してみる。春野は時折笑いと相槌を挟みながら、聞き手に徹していた。

 やがて語り終えた優に、


 『神代さんは、本当にブレないなー……。瀬戸くんも彼らしいと思います』


 春野はそんな感想を漏らす。


 「俺はシアさんの意思を尊重したい。でも、天と春樹はなんとなくそれとは違う答えを求めていた気もする」

 『なるほどねー……』


 優は素直に感じたことを吐露する。中学で積み上げてきた春野への親しみが、いつも以上に優を素直にさせていた。

 そうして優の“悩み”を聞いた春野は1人、寮の外で夜空を見上げる。


 どうすれば、神代くんの力になってあげられるかな……。


 見えない星を探すように、優と出会った中学の頃へと想いを馳せた。




 春野楓は陰キャを自認する、ただのコミュ障陰キャだった。

 友達付き合いは狭く深く。それでいて一線を超えることも超えさせることも無い。漫画が好きで、アニメが好きで、過度なエログロ以外は全て“守備範囲”だった。

 しかし、それらの根底にあったもの。それは、日曜朝の魔法少女アニメ……ではない。もちろんそれも好きだったが、その前に放送されていた戦隊モノや仮面の戦士が大好きだった。格好良く敵を倒し、人々の平和を守る。そんなヒーローたちへの憧れが、春野の「オタク」を目覚めを早めたと言って良い。

 理想のヒーローを求めてあれやこれやと創作物に手を伸ばした末、小学校3年生の頃にはどっぷりと“沼”に浸かっていた。


 不思議なもので、多くの創作物に触れるにつれ人との関わり方が分からなくなっていった。いや、春野の場合、多くの人間関係やドラマを見過ぎたために、人と関わる時、気を遣い過ぎるようになったと言うべきだった。

 そうなると自然、人付き合いは億劫になる。“格好良いものが好き”。女の子()()()趣味でもないため、クラスの女子と感性が合わない。それでいて、好きなものは変わらないため、理想と空想を求めて本を読み漁る日々。


 小学校5年生になる頃には、立派な自称コミュ障陰キャが完成していた。


 別に誰かと話せないわけでは無い。何せ会話に恐ろしく気を遣っているのだ。授業で手を上げることは無いものの、グループワークで話したり共同作業したりはできる。友達も、いないわけでは無い。が、話しながら常に「これで良いのか」という疑問が春野の中に付きまとう。

 初対面の人とはうまく話せるが、2回目、3回目となると妙な気まずさを感じてしまう。だから人と距離を取る。

 人付き合いについて悩むことが面倒くさい。そう思ってしまうがゆえに、陰キャを自認していた。


 中学に入って他の小学校だった生徒とも関わる機会が増えた。


 『話してみたら親しみやすい』


 が、初対面時の決まり文句。第一印象にだけは自信があった。でも、陰キャを自認する春野の中にはどうしても“違う”という思いがあるために、初対面が“次”につながることは無い。

 充実しておらず、かといってこれといった不足も無い。そんな日々が少し変わったのは、図書委員になってからだった。


 『俺、格好良い奴になりたくてさ』


 委員会の顔合わせ。初対面の時にそう語った同級生がいた。どういう流れでそんな話になったのかは思い出せない。恥ずかしげもなく何を言っているんだと内心呆れながらも、話を合わせようと、春野は聞いてみる。


 『どうしてですか?』


 その視線は冷めたものだっただろう。しかし、少年は春野が放った言葉の冷気に負けないぐらいの熱さで“格好良さ”、そして、ヒーローについて語った。溢れる憧れと好きという感情。いつもならドン引きものだが、全く同じものを愛する春野の中にはこれまでになかった“共感”があった。

 諦め、見ないようにしていただけで、確かに春野の中には年相応に“誰かと同じ”を求めていたのだ。


 『わ、わたしも実は――』


 ここで嬉しさを感じて口を挟んだ辺り、今になって思えば陰キャ……オタクだと春野は悶絶するが、ともかく。気づけば春野は少年と意気投合して、時間を忘れて話し込んでしまっていた。


 それが春野と少年――神代優の出会いだった。

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