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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【魅了】第二幕・後編……「忘れかけていた想い」

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第6話 思いやることの代償

 「それって、“魔女狩り”のことだよね?」


 “魔女狩り”にシアが巻き込まれたのではないか。もっと言うのなら、魔力至上主義者たちに首里がシアを引き渡したのではないか。そう尋ねる天の問いかけに、首里は沈黙を返す。

 そう言うことか、と静かにうつむいた天。次に首里を睨みつけた時、その瞳の奥には黄金色のマナが光っていた。


 「よくもシアさんを! 婚姻? あの幼稚なシアさんがそんなことするはずないってなんでわからないの?! シアさんを信奉してるくせに!」

 「天人の方々のお考えを、わたくしたち人間が邪推するなど失礼に当たります。あり得ません」

 「なっ……! それって思考放棄じゃん!」

 「おい、落ち着け天」


 シアのこととなるとヒートアップしやすいらしい天を、優が言葉でなだめる。そんな兄妹を冷めた目で見やった首里は、


 「……コウ様とシア様の婚姻を祝うパーティーは日曜日だそうよ。これだけ伝えればいいかしら?」


 そう言って、話は終わりだと寮の方へ踵を返した。「あ、こら、待て!」と天が追いかけるよりも早く。


 「おいアカネ。なんだこの茶番は。それに無色のクズに魔力持ちが負ける? あり得ない。何を手加減しているんだ」


 学生たちの話に割って入ったのは首里の父、源信げんしんだった。眼鏡の奥から厳しい目を向けてくる父親に、しかし、首里は


 「いいえ、お父様。わたくしは全力で彼と戦い、そして彼が一枚上手(うわて)だった。それだけです」


 淡々と事実だけを述べる。が、源信は首を横に振る。


 「いいや、あり得ない。それともこれを見れば俺たちの考えが変わるとでも思っているのか?」


 呆れを隠さずに言動で示す。そんな父親に、首里はいつも以上に冷めた視線を向けることしかできない。


 「……だんまりか。世界の真理すら見えない、反抗期娘が」

 「アカネちゃん、今からゆっくりお話ししましょう? コウ様とシア様のパーティー用にドレスの採寸もしなくちゃだし」


 あれよこれよと言う間に首里は両腕を両親に固められ、連れ去られていく。いびつな親子のやり取りに、神代兄妹が口を挟む隙など無い。


 「……後は好きにすると良いわ」


 去り際、ちらりと赤い目を優と天に向けて言った首里。その言葉が、なぜか優には「後は任せたわ」と言っているように聞こえる。どこまでも矛盾を抱えた同級生、首里朱音との一幕はこうして幕を閉じた。




 「オレの部活中に、優は退学しかけてたわけか」


 キャスターのついたイスに座ってそんなことをしみじみとつぶやいたのは春樹。時刻は18時過ぎ。場所は殺風景な優の部屋だった。


 「そう。でも兄さんのおかげで、“魔女狩り”の目的がシアさんだったこと。コウって天人と婚姻だか結婚だかをさせられるってことも分かった」


 優のベッドに寝転びながら、だらしなく天が答える。金色交じりの長い黒髪がベッドに広がっていた。


 「結婚って、現実感ないよな……。誘拐でも無さそうだし、警察が動くかってのは微妙だし……。シアさんの方はなんでついて行ったんだ?」

 「『これ以上お前のせいで被害が広がるのは嫌だろ?』って言えばシアさんならついてくと思う。ていうか、私ならシアさんにそう言っていうこと聞かせる」


 途中、声色とかを下卑たものに変えながら、天があらましを推測する。春樹も、責任感が強すぎるシアならあり得そうだと納得できるものだった。

 そうして話していた天と春樹に、部屋の主である優が合流する。手に持ったお盆にはインスタントコーヒーとお菓子が載っていた。コーヒーとお菓子を買ってきたのは春樹で、コーヒーを淹れたのは優。コップや食器は天が買ってきたものを使用する。仮免許取得のパーティーを行なった程度には、優の部屋は3人のたまり場になっている。優が去ったキッチンにはあと1人分、食器のセットが置いてあった。


 「週末、京橋きょうばしの駅ビルか。――コップ、熱いから気を付けろ」

 「どもども」「サンキュな、優」


 コップを渡しながら優が話し合いに合流する。優は微糖、春樹がブラック、天が砂糖マシマシのカフェオレだった。

 優が言った場所は、首里から送られてきたパーティーの開催場所。律儀に時間まで教えてきた辺りが首里の真面目さの表れだった。そして、何よりも――。


 「首里さんの護衛って形でパーティーについて行かせてくれるって」


 首里から届いたメッセージと“依頼”を、優が確認する。


 「首里さん、至れり尽くせりだな……」

 「兄さんの退学を賭けたんだもん。それくらいしてくれなきゃ困る」


 春樹が驚く一方、ベッドの上でカフェオレを手に、憤慨しながらチョコ菓子を口に運ぶ天。少しベッドに食べかすがこぼれている様を苦笑しながら見ていた春樹が、とある気付きを口にした。


 「案外、それが首里さんの目的だったりしてな。オレ達をパーティーに連れてくこと」

 「はー? それだったらあんな回りくどいやり方、しないでしょ」


 食べかすに気付いた天がさりげなくゴミ箱を寄せて、捨てる。


 「実は俺も春樹と同じこと思った。だから、首里さんとの勝負にも乗った」

 「だよな。首里さん、天とおんなじでひねくれてるから」


 散々《さんざん》な言われように天がムッと眉をひそめる。が、天自身にも自覚はあるので言い返せない。代わりに話題の転換を図った。


 「それで? お姫様(シアさん)をどうする?」


 シアの無事は確認できたと言って良い。居所もおおよそ把握できた。あとは「自分がどうしたいのか」を確認するだけ。そんな天の問いに真っ先に反応したのは優だった。


 「決まってる。シアさんの意思を確認する」

 「もしそれで本当にシアさんがコウって天人との結婚を望んでいたら?」


 フローリングに座る優を、ベッドに座る天がじっと見つめて答えを待つ。春樹もあえて今は持論を語らず、親友の答えを待つ。やがて、うつむいていた顔を上げた優が口を開く。


 「もし本当にシアさんがそれを望むなら、俺は祝福する」

 「へー……。それが、()()()()答え?」


 まるで最後通牒のように聞いてくる天に、優はゆっくりと頷く。彼の残念な態度に、天と春樹は顔を見合わせてやれやれと首を振った。シアの“主人公”であるならば、もっと他に言うことがあったというのに。


 「あっそう。ついでに私と春樹くんは可愛いシアさんを誰にも盗られたくないからパーティーをぶっ壊したい。だよね、春樹くん?」

 「お、おう。まあ、そこまで過激ではないけどな」

 「おい、シアさんの意思はどうする?」


 シアの晴れ舞台になるかもしれない場面をダメにしようとする2人に、優が不満をあらわにする。

 そんな、仲間を大切にしようと思うあまり、慎重になっているらしい兄を見やって、天は傲岸不遜に言ってのける。


 「そんなの関係ない。私がどうしたいか。それだけが大事なんだ。もしパーティーをダメにしてシアさんが不幸になるのなら、私がそれ以上にシアさんを幸せにすればいい」


 これこそが行動を起こす覚悟と責任なのだと、優に示す。そんな天に続いて、春樹も己の想いを口にする。


 「まあ、少し考えればシアさんの本心じゃないことぐらいわかるしな。むしろそうであって欲しい。だから、オレも行く。大切な仲間だからな。……天みたいに、幸せにしてやるとかは言えないけどな」

 「もー、締まらないなぁ。……で? 今の聞いても兄さんの答えは変わらない?」


 天の問いに首を横にも縦にも触れない優。


 「俺の、したいことは……」


 人を思いやることと、自分の“したい”こと。その2つに板挟みになる優を残して、結局、その場はお開きになった。

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