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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【断罪】第三幕・後編……「己が罪を抱いて」

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第6話 弱さと向き合う時間

 所要時間半日と、長いようで短かった探索任務を終え、第三校に戻った優たち。

 時刻は午後8時を回ったころ。


 学生寮に戻った優は、1人、熱いシャワーに打たれていた。

 自室の狭いユニットバス。この場所なら誰に見られることも無いと、優は全身を脱力させていた。

 任務を終え、理想の特派員像も見つけ出した高揚感も時間とともに覚めてくる。すると、戦闘の連続で先送りにしていたもの――後悔が一気に押し寄せてきた。


 そうして1人になった優の、いつもの儀式が始まる。己の弱さを知り、そして、改めて自覚するための、その時間が。




 思い出されるのは、拠点で果歩が自分に言った言葉。


 『優お兄ちゃんの、嘘つき!』


 優が西方の治療――蘇生――を諦めたことを糾弾する断罪の言葉。その時の果歩の泣きはらしたような、親の仇を見るような顔が今も網膜に焼き付いている。

 彼女含め、自分以外は与えられた“役割”をきちんとこなして見せた。けれども、優が西方を治療しないと決めたあの時。確かに自分は、一度、妥協したのだ。


 理想を語り、最善手を探して、努力して。そうして人々の信頼を勝ち取らなければならない自分は、その役割を放棄した。魔人との戦闘でも、果たして自分は役に立ったのだろうか。シャワーでのぼせ上った頭がぐるぐると、弱い自分を浮上させる。


 本当にできることは無かったのだろうか。あるいは、今からでもできることは無いだろうか。


 想いを形にして表出する、魔法が存在する世界だ。まだ見つかっていないだけで、死者を蘇らせることだってできるかもしれない。

 元神様の天人だっている。シアには無理なだけで、彼女以外ならあるいは。それこそ、【生】や【死】を啓示とする天人なら――。


 今、自分が考えていることが空虚な妄想でしかないことも、優にはわかっている。それでも、どうしても諦められなかった。

 弱冠16歳の彼は“自分が生んだ知人の死”という現実を、罪を、未だに受け入れられずにいる。そんな未熟な心は原因を外に求めようとする。


 そもそも。


 優は当初、今回の任務は魔人の手によって作り上げられたシナリオの上だと思っていた。

 しかし、奇跡には理由や原因があると知った今、思い返せば。その発端にある最初の奇跡には、()()が絡んでいる。


 夏休み。多くの学生が帰省、あるいは任務で学校を離れる。

 まだ1年生である優たちならともかく、上級生にもなれば、金と単位と実績の稼ぎ時であり、校内で見かけることなどほとんどない。


 そんな時に、運よく長嶋一夜ながしまひとよを治療できる彼女がいたことは、本当にただの偶然なのか。

 その後、魔人についての情報を伝える名目で自分たちに接触し、任務を受けようと仕向けたのだとしたら?


 そこまで考えて、優は首を振る。例え彼女の思惑だとしても、最終的に任務を受けることを決めたのは優で、仲間たちだ。そこに参加しようと決めたのも西方と常坂本人。

 彼ら彼女らがその時に持っていただろう、命をす覚悟を無下にしてはならない。


 ならば、今、自分がするべきこと、したいことは何なのかを考える。

 任務の全容を知ること。今回は、初任務に赴く見習い特派員には手に余るものだった。

 そこに、もし、人間が推し量ることの出来ない物――モノ()の真意《神意》が関わっているのなら、糾弾するのではなく、その意図を知りたい。


 『クヨクヨと悩んだり疑ったりするよりは、行動した方が気は楽だ。だから動け、行動しろ。自分の思いを伝えてこい!』


 もうすぐ帰省する実家で待つ、父親の言葉を思い出す。ついでに、その言葉のせいでフラれることになったという事実も。なんとなく、優の心が軽くなる。

 きっとモノは、聞けば教えてくれる。そんな気がする優。

 打ちつけるシャワーを止め、立ち上がる。やりたいこと、やるべきことが見えたのなら、行動するだけだった。




 翌朝。9時。

 昨日運び込まれた天を迎えに行くために、保健センターへと赴いた優。

 その入り口の待合スペースには、あまりにも異質な雰囲気を放つ銀髪の女子学生――モノの姿があった。


 「天ちゃんのところだよね? 一緒に行っても良いかな?」


 驚いて立ち止まった優にそう声をかけてきた今日の彼女は、紺のセーラー服。カーラーだけ白というオーソドックスなものだ。こうして見ると、その生地は恐らく特派員の制服と同じもの。

 オーダーメイド、あるいはお手製の制服だということがわかった。


 「ちょうど、俺もモノ先輩に聞きたかったことがありました」


 先のモノの質問に頷いて、2人連れ立って天がいる病室を目指す。

 いくつも並ぶ個室。長期入院の場合はより大きな病院へ運ばれるが、大抵、翌日には部屋を追い出されて自宅療養にされてしまう。

特派員たちにとってケガは日常茶飯事なのだ。念のためにと何日も入院させると、すぐに一杯になってしまう。

 長嶋一夜もすでに、本来の自宅へと帰っていた。


 「それは天ちゃんの着替えかな?」


 優の手に下げられた紙袋を見ながら、みどりともあおとも見える瞳を細めて笑うモノ。

 ピンでとめられていないおくれ毛が揺れるその様も相まって、その仕草1つ1つに優はドキリとさせられる。


 「はい。館内着しかないらしいので」

 「単純な興味なんだけど、どうやってその服を? まさか自分の部屋に妹の服がある、ってわけじゃないよね?」


 そこで気まずそうに黙り込んだ優。


 「え、本当に?」

 「俺があまりクローゼットを使わないので、天が余ったスペースに自分の服を置いているだけです」


 学生寮のクローゼットはあまり大きくない。私服に頓着しない優のような学生はともかく、おしゃれを楽しみたい人からすれば狭いと言える大きさだった。


 「てっきり、大好きな妹の服を預かる名目で愉しんでいる、変態さんなんだと思っちゃった」

 「俺達は家族ですよ……。そういうのは創作物の中だけで十分です」


 言った頃、天がいる病室にたどり着く。ノックをして返事が返ってきてから、扉を開く。中には淡いピンク色の館内着を着た天が、ベッドの上でタブレット端末を弄っていた。


 「これ、頼まれてた着替えだ。どれが良いのかわからなかったから、適当に持ってきた」

 「ありがと、兄さん。そこに置いといて」

 「報告書か?」

 「うん、そう。忘れないうちにね……って、モノ先輩がどうしてここに?」


 顔を上げた天が、そこでようやく、兄の隣にいる場違いな人物に鋭い目を向けた。


 「おはよう、天ちゃん」

 「……おはようございます」


 笑顔のモノと、取り繕いもせず苦々しい表情を浮かべる天。反りが合わないらしい2人に、優は内心、ため息をついた。

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