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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【断罪】第三幕・後編……「己が罪を抱いて」

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第3話 ゴールを前に

 日も暮れ、街灯が頼りなく国道を照らす。

 内地と外地を区切る見えない境界線を越え、無事内地に引き返した優たち。

 左方、第三校の敷地に上っていく坂道が見え、6人が安堵しかけた、その時だった。


 「み、皆さん、止まってください!」


 叫んだのは常坂。

 その顔にお面は無く、声はよく通った。


 「ち、近くに、て、敵がいます!」


 これまでも誰より早く敵襲に気付いていた彼女の警戒指示。

 たとえ声や態度が頼りなくとも、誰も、常坂の言葉を疑わなかった。


 『ばばばれちゃったかかぁ?』


 そんな声が聞こえてきたのは右方。

 ガードレールを挟んだ高速道路がある方角だった。


 「最悪……。ちゃんと()()したつもりだったんだけど……」


 聞き覚えのある声だと真っ先に気付き、悪態をついたのは天。それもそのはず、“彼”にとどめをさしたのは彼女だったのだ。

 街灯に照らされて露わになったその顔は、シアと果歩を除くメンバーがよく知る敵。


 『よおお化け物ののぉ……。食いにき来ててやったぜぇ』


 優が森で会った、男の魔人。その、なれの果てだった。


 「どうやって生き延びたのって聞くのは野暮?」

 『――おぉっとととぉ。動くなよ? お前らはもうぅ、マナがががすっからかんんのはずだ』


 第三校はすぐそこ。

 背後の優たちが撤退できるよう率先して前に出た天を、魔人は無視する。


 魔人の姿は優の知るそれとは少し異なっていた。

 具体的には手足が猫のようになっており、姿勢は四つん這い。全身は黒い毛でおおわれ、目だけが怪しく金色に光っている。

 何らかの方法で――天がとどめをさす直前に黒猫を捕食した可能性が高い――生き残り、姿を変えて待ち伏せていたらしかった。


 「腕も切り落としておけば。ううん、砂になるのを確認しとけば良かった……」


 優の無事を急ぐあまり、詰めが甘くなったのだと苦い顔を見せた天。それでもすぐに顔を引き締め、夜を裂くような黄金色の槍を手元に創り、魔人を見据える。

 その背後では最善手を考える優が、冷静に指示を出す。


 「春樹は天を援護。シアさんと常坂さんは果歩ちゃんを連れて、隙を見て第三校へ。助けを呼んできてください」

 「「は、はい!」」


 シアと常坂が頷いたことを確認して、優と春樹は抱えていた遺体をなるべく遠い位置に置く。

 そのまま自分が遺体を死守し、春樹と天で時間稼ぎと行きたいが。


 (最悪のタイミングだな……)


 あるいは魔人の狙い通りなのだろう。

 自分が死んだと思い込ませ、安心して、完全にマナを消耗しきった餌を最後に食べる。まさに理想の食事プランと言える。


 と、闇に紛れるように突貫してきた魔人。

 昼間と違って視界が悪く、一瞬、消えたように見えた。


 「っくぅう……――ぁ」


 魔人の蹴りを天が槍で受け止めるが、勢いを殺しきれずに吹き飛ばされる。

 本来は回避したり受け流したりするべき攻撃も、背後に遺体や果歩がいるせいで正面から受けざるを得ない。


 『おおいいい化け物ぉぉ、威勢はわわどうした? っててそりゃあそうだよよな? もう、マナ残って無いもんなぁあ?』

 「黙れ!」


 黄緑色の直剣を魔人に振り下ろしたのは春樹。

 死角である背中から迫る攻撃を、しかし、魔法的な感覚でとらえた魔人はしなやかに後方に飛んで回避する。そして、着地したその足のばねを使って、春樹にも蹴りを繰り出した。


 「退いて、春樹くんっ!」

 「あいよ!」


 狙いを読んでいた天がなけなしのマナで〈魔弾〉を繰り出す。


 『ががぁぁぁ!』


 不意打ちは見事に命中。手負いにしてしまえば、少なくとも助けを呼びに行くだけの時間は稼ぐことができる、はずだった。

 しかし、吹き飛ばされながらも姿勢を整えて着地する魔人に大きな損傷は見られない。


 「〈創造〉か……」


 暗闇で見えづらいが、着弾の寸前に魔獣が黒い光を発したことを見逃さなかった優。

 逆に夜では目立つ天のマナの光は、視覚的にも攻撃の予兆を読まれやすい。

 不意打ちは、不意打ちになっていなかったのだ。

 そこで、ついに頭を抱えた天が膝をつく。


 「やば……っ」


 探索における〈探査〉の連続使用。加えて、立て続けに発生した戦闘による、魔力切れ。意識を失う寸前だった。


 『ハハハァ! 化けけ物もも、ここまでのようだなぁ』


 余裕の狂笑を上げて、天を揶揄やゆする魔人。

 彼は優たち全員の動きを観察するために距離を取りながら、警戒する。


 「まだ……っ、戦わないと……!」


 同じくマナが枯渇寸前の優の目の前で、天が必死で立ち上がろうとする。しかし、膝が笑って満足に立ち上がることもできていない。

 任務。優先順位。守りたいもの。格好良いヒーロー。理想。家族……。

 いくつもの言葉が優の脳裏を駆け、そして、決断する。


 「天は西方たちを頼む」


 立ち上がろうとする天の前に優が立つ。


 「兄さん、何を……?」


 朦朧とした意識の中、それでも兄を見上げる天。

 道を照らす背の高い街灯が逆行になり、優の表情は見えない。


 「行くんだ、戦いに。春樹と一緒にな」

 「だ、ダメ。ダメだよ……」


 現状、優の魔力もほとんどないことは、天も知っている。

 マナが無く、有効打も無い兄など、時間稼ぎにしかならない。

 逆を言えば方法次第で時間稼ぎが出来てしまう。――命がけの。


 「大丈夫だ。隙を作って、時間を稼げば、シアさんたちが助けを呼んでくる」

 「行かせ、ない……絶対に――ぁ」


 言って、天の頭を、昔のように撫でる。それだけで不思議と全身から力が抜けた天がアスファルトにぺたりとへたり込む。

 意識が朦朧もうろうとして、力の入らない腕を懸命に伸ばし、兄の覚悟を否定する。


「行かない、で……。し、死なないで、お兄ちゃん……」

「大丈夫だ。俺は天のヒーローにならないとだからな」

「い、やぁ……」


 そこまで言ってついに気を失った天を支える優。

 『お兄ちゃん』。小学校に入るまでの“甘えた”だった天が使っていた呼称に思わず笑みをこぼす優。


 「シアさん、天をお願いします」

 「ですが、優さんと春樹さんが――」

 『そののクソガキをくく食わせろぉぉお』


 最も警戒し、執着する存在が消えたことで魔人がついに動く。


 「させるかよ!」


 彼を春樹が牽制してくれているおかげで、ほんの少しだけ考えるだけ時間はある。

 1人でも生存者を多く残すために。あわよくば、全員が生き残るために。

 戦えない自分は、せめて、頭を働かせなければならない。


 そうして導き出したのは、最低でも2人、最高で6人が生き残る。そんな考えだった。


 「常坂さんは果歩ちゃんを連れて今すぐ〈身体強化〉で第三校へ。全速力で助けを呼んできてください」

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