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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【断罪】第三幕・前編……「最終決戦」

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第6話 綴り手として

 窮地だからこそ、そこに勝機があると見たシア。

 何より、誰よりも自分を信頼してくれる優ならば、この窮地をはねのけてくれる。そんな【物語】を、シアは描きたかった。




 自信に満ちたその表情に、憧れてやまない妹を重ねていた優は。


 「俺は何をすればいいですか?」


 いつものように。いつも以上に、彼女を信じることにする。


 『お前たちの自由にさせると思う?』


 が、ついに内輪揉めを終えた魔人が4()()|の腕で駆けてくる。

 魔人にとってみれば、マナを使わず、その巨体で獲物を押しつぶしてしまう方が一番効率的だった。

 よって、攻撃に回していた腕も移動に回し、体を安定させる。


 駅を右手に見ながら、東に向けて走る優とシア。

 つかず離れず、魔人と10mほど距離を保ちながら駆ける。


 「シアさんが集中する時間を稼ぐには、敵の手数が多すぎます」


 〈運命〉を使用する時のような時間をシアに作ってあげることは、残念ながら今の自分にはできない。

 そう言った優に、シアはうなずく。


 「今回は大丈夫です。動きながら私が敵を倒す優さんの姿を強くイメージします。なので――」


 魔人が移動のために使っていた太く、頑丈な腕の1本を2人に伸ばす。

 新たな伸縮する腕を生やさないあたり、魔人のマナにも余裕がないことが伺えた。

 迫る手のひらを、優とシアは左右に分かれて回避する。踵を返し、今度は西側に向けて2人は走る。

 魔人を挟んで疾走する形になるが、なるべく魔人が使える武器《障害物》が少ないこのロータリーから戦場を移したくは無かった。


 『小癪な……!』


 巨体を揺らして振り返る魔人を背後に2人は合流し、並走する。


 「俺が攻撃を当てていれば、〈物語〉が発動する、という意味で合ってますか?」

 「はい、優さんの負担が大きいですが……」

 「いえ」


 疾走しながら後方を見やり、追いかけてくる巨体を見た優は。


 「それぐらいできないと、格好良くないので」


 転身。

 シアに伸びていた太い腕の下部にナイフを振るう。硬い腕。まずは指を動かす筋を切断する――。

 つもりで振るったそのナイフは、白いマナに覆われていた。

 そうして白いマナを纏った透明の刃は、予想よりも深く――腕の半分ほどを難なく切り裂いた。


 『あ゛ぁぁぁ!』


 上の口からよだれを散らし、腹部の口で叫ぶ魔人。


 『くぅ……! 何をしたの?!』


 脅威と見ていなかった少年の強烈な一撃に、思わず後ずさる。


 「これが、シアさんの権能……〈物語〉の力」


 一方、優も優でその不思議な感覚に戸惑っていた。

 マナは自分のものしか扱えない。例外として、天人は自身の啓示にまつわる内容であれば他者のマナに干渉し、〈権能〉として使用できる。


 〈物語〉は1人の人物を“主人公”として選び、その者に主人公足る人生――物語を歩ませる魔法。

 シアは“主人公”である優を〈物語〉の魔法の一部として扱うことで、彼のマナに干渉していた。


 「これなら最初から使えば良かったんじゃ――」


 言った優が見てみればシアの全身は〈運命〉の権能を使った時のように、圧倒的なマナで覆われている。


 「なるほど。効率が悪いんですね」

 「はい。優さんと私のマナで攻撃をしました。ですが普通は、個々別々に攻撃した方が効率的ですよね」


 2人分の攻撃を1人に集中させるということ。


 「それに、ここからこの戦闘が終わるまで〈物語〉は使用され続けます。綴り手の私が意識を失って描けなくなるか、幕が下りるまでが【物語】ですから」


 つまり、魔獣や魔人同様に、マナが常に放出される状態になるということ。

 時間をかけて魔人の目の前で魔力切れを起こし、意識を失えばどうなるのか。言うまでも無い。


 また、どれほど権能が強力でも、当たらなければ意味がない。威力を上げる反面、攻撃を外せば多くのマナが無駄になる。

 権能を実質的に使う優が戦闘できなくては意味がないため、シアはどれくらい戦えるのか、優の魔力を聞いたのだった。


 危険な賭けだが、魔人が理性を取り戻した以上、ジリ貧になる可能性が高い。ならば、やってみる価値はある。何より優が魔人を倒すと、シアは信じたかった。


 「一応、回避ぐらいは出来ますが、私の方は長くて3分が限界です」

 「わかりました。その期待に、必ず応えて見せます」


 時間制限に、絶体絶命。

 まさしくヒーローのようだと優は内心で震える。

 加えて、未だかつてない程の誰かからの信頼。しかもその相手が、神様であるシアなのだ。

 優の心が燃えないわけが無かった。


 「では――行きます」


 優が白いマナを纏う透明なナイフを手に、魔人に駆ける。

 驚くほど体が軽く、視界をはじめとする五感が研ぎ澄まされる。


 向かう先。優に切り裂かれた腕を仕方なく修復した魔人が叫ぶ。


 『権能ね?! 厄介な!』


 シアを狙おうとするが、今の優の攻撃が脅威であることも知っている魔人。一瞬迷った末、優の迎撃を優先する。

 彼の動体視力の良さを考え、太い腕を用いた緩慢な攻撃ではなく、しなやかで柔軟な腕での攻撃を選択。

 腹から、制御できる限界――4本の腕を生やし、手数で押し切ろうとする。


 魔人は焦っていた。


 触手の魔人本来の人格はもうすでに消滅しており、女性の魔人の意識で自由に体は動く。

 もともと特派員として、セルフイメージや自我は強く鍛えていた……ように思う。

 しかし、たくさんの人間の意識が混在していて、どれが正しい記憶なのかが分からない。


 それでも、徐々に固まりつつあるこの歪な身体のセルフイメージも出来始めている。

 各部はより強固になり、腕の硬度も上がっている実感もある。あとはきちんと食事をしてしまえば、より強い個体になることができる。


 お腹が空いた。


 未熟な天人という最高のご馳走が目の前にある。それを阻むのは最後の障害。

 数刻前の非力な少年では障害たり得なかった。細いとはいえ硬さを増した腕による攻撃も対処しきれない、はずなのに。


 「――フッ!」


 優がその武器を振るう度に易々と伸ばした腕が引き裂かれ、鈍い痛みが走る。それでも、死にたくないという魔人の想いは攻撃の手を止めない。


 『もう1人の男といい、仮面の女といい……魔力のない奴らに、どうして!』


 混在する複数の記憶の中、特派員だった頃を思い出しながら魔人が叫んだ。

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