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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【断罪】第三幕・前編……「最終決戦」

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第5話 過剰な信頼

 創り出した白い銃を手に、押し寄せる触手を射撃で迎撃するシア。

 そんな彼女の死角――銃を掲げた腕で見えない場所から大腿部ふとももめがけ迫る魔人の触手。

 その先端が口を開き、鋭い牙を覗かせる。そのままシアの柔肌をえぐり取る、その前に。


 優が触手の側面に回り込んで切断する。

 遠近を互いにカバーし合って数十秒。


 『もうすぐお前たちも終わりね!』


 大きな手で優とシアを指さし、意気揚々と飛び跳ねる魔人に対し、2人は息も絶え絶えといった様。

 しかし、魔人のあおりを歯牙にもかけず、優はすべきことをする。シアの誤解を解くことだ。


 「シアさん、俺が無理だと言ったのは、撤退の方です」


 シアが話してくれたおかげで、彼女の勘違いに気付いた彼。言葉が足りなかったと反省しながら、雨と混ざった汗をぬぐう。

 暗い表情のまま無言で目を向けるシア。それは果歩が見せた、何かに縋るような視線と同じだ。


 シアの想いを必死に考え、自分の伝えたいことをどう伝えるべきかを考える。

 そして、やはり、素直に。不用心だが、魔人から目線を外し、きちんとシアに向き直る。きちんと想いを伝えるために。

 綺麗な深い濃紺の瞳。そこに満ちる暗い感情を消したくて、優は最大限の称賛を口にした。


 「シアさんは、格好良いです」

 「……え?」


 彼が何を言っているのかわからないシアが、不可解を声ににじませる。

 紺色の中にある感情が揺れたこともわかるほど、真っ直ぐにシアの目を見て。


 「シアさんは格好良いんです。なんでも背負い込むのに、いつも笑顔で。一生懸命頑張っていて、失敗してもへこたれない。魔獣だって格好良く倒して、元は神様で」

 「えっと、……えっと?!」


 恥ずかしげもなく真顔で語られる己の長所に、シアの心はさらに揺れる。

 しかし、そうして暢気に見つめ合う2つのエサを魔人が見逃すはずもなく。


 『死ねぇぇぇ(ジネェェェ)! 食わせろぉぉぉ(グワゼドォォォ)!』


 今度は触手の魔人のような鼻声で言って、ひときわ太い腕を生やし、伸ばしてくる。


 「優さん、魔人が――」

 「きれいで、それなのに愛嬌もあって。俺より生きている時間は短いのに、第三校に受かって、大切な家族を亡くして、それでも1人で生活できて」


 彼女への信頼を込めて語り続ける優の代わりに、特大の〈魔弾〉で撃ち砕いたシア。今の攻撃。優自身では絶対に対処できなかったために、シアを完全に頼るしかなかった。


 『邪魔しないでよ』

 『ご飯んんん《ゴバンンンン》!』


 腕や触手を振り回し、何やらもめているらしい魔人をよそに、優はなおも言い募る。


 「俺にはできない料理もできて、友達も増やそうとしていて。味方でいてくれるって言ってくれて、嬉しかったし、西方を助けようとしてくれたのも嬉しかったです」

 「あ、あの、もういいので……、大丈夫ですから――」

 「天や春樹と同じくらい、俺の憧れで、仲間で。大切な人で。もちろん、常坂さんや西方もですけど、やっぱり特別で――」

 「や、やめてくださいっ。もういい……、もういいですからっ!」


 顔も耳も真っ赤にしながら必死で抗議するシアを見て、ようやく優は話題を締める。


 「つまり。シアさんは俺にとって、ちゃんとヒーローだってことなんです。尊敬しています。憧れています。……俺の言いたいこと、伝わりましたか?」


 優の言葉による弾幕に圧倒され、それと同時に心の奥底で湧き立つ奇妙な熱に浮かされていたシア。

 雨に濡れて冷え切っているはずなのに、体の芯から温もりが蘇る。

 自分の知らない熱量に戸惑い、答えられずにいる。そんな彼女は優の問いを否定しているように見えて――。


 「続けますか? じゃあ――」

 「大丈夫! もう大丈夫ですから、許してくださいぃっ!」


 手を一杯に伸ばしながら、大丈夫だと言ったシア。その顔は下を向いている。なぜだか今は、顔を見られたくなかった。

 可愛らしい頭頂部を見せるシアに優は言い含める。


 「なので。これしかできない、なんて言わないでください。自分を貶めるようなこと、しないでください」


 いつだって憧れには憧れでいて欲しい。演習の時にも言ったこと。

 格好良く生きようとするシアに憧れた時から変わらない、優の願い、ワガママだった。

 その切なる想いにコクリと頷いたシアは。


 「ゆ、優さんも。その……か、格好良い、です」


 悶絶しながら“お返し”するのが精一杯。少し前、春樹と話していた時のことを思い出しての発言だった。


 「……っ! ありがとうございます!」


 それでも自身にとっての最大限の賛辞に珍しく表情を緩めた優。その笑顔をちらりと上目で見てしまったシアの体温は、またしても上がってしまうのだった。


 火照りが雨で程よく中和され、冷静になったシアの中に、1つの可能性が浮かんだ。


 「優さん、マナはあとどれくらい残っていますか?」

 「正直、あまり残っていません。シアさんが〈探査〉した時とほぼ同じぐらいだと思います」


 見栄を張ることもなく、正直に伝える。

 優の魔力は、万全と比べると3割程度。

 1割を切ると魔力切れになって気を失ってしまうと言われているため、余裕を見て使えるのは1割5分ほど。具体的には〈身体強化〉と〈創造〉だけを用いた戦闘であれば5分程度、〈探査〉や〈魔弾〉であれば5回が限界だった。


 『ふう、これで大丈夫ね』


 腹部に開いた口で話す魔人の発した声は、女性の魔人のそれだった。

 魔人にとって、食べられることは死ぬこととイコールでは無いらしい。あくまで今回のケースでは、という前提を添えて、優は脳内で書き留めておく。

 同時に、何かを閃いたようなシアにその内容を尋ねる。


 「それでシアさん、何をするつもりですか?」

 「権能……〈物語〉を使います」


 並んで魔人を見ながら、話す2人。


 「……もう使えないんじゃ無かったですか?」

 「いいえ。優さん以外には使えない。そう表現する方が正しいです。だからこの力では西方さんを助けられません」


 優の言いたいことを察して、首を振ったシアがはっきりと否定する。


 「ですが、ここに危機を迎えた、優さん……、私が信じる“主人公”のあなたがいるなら――」


 改めて過剰なほどの信頼を、優から貰ったシア。

 それに応えたい。優を信じたい。

 強い想いを魔法に乗せて――。


 シアの全身がマナによって白く光る。

 しとど濡れた艶やかな黒髪。前髪が雨を落とす、その顔に不敵な笑みを湛えて。


 「あの“強大な敵”を打ち倒せるかもしれません!」


 巨大な魔人と対峙した。

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