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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【断罪】第二幕・後編……「童女がもたらす真実」

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第15話 誘導

 6本の腕が生えた球体に花弁を乗せたような見た目の魔人。

 彼はその巨躯でいくつもの家を瓦礫の山に変えながら、南下していた。

 魔力の高いシアと天が誘導する形で、目指すは西にある駅。その目の前にある、開けたロータリーを目指していた。


 理由は2つ。中央会館から魔人を引き離すため。もう1つは単純に、戦いやすいように。

 住宅地で戦っている限り、魔人が動く度に瓦礫や家具など、大小さまざまな障害物が飛んでくる。

 戦いに集中するためにも、多少のリスクは覚悟で戦場を移す必要があった。




 雨降りしきる悪天候の中、道路沿いに進むシア、天、常坂の3人。

 震動で足を取られそうになりながらも、会館に引き返されないよう、着かず離れずの距離を懸命に保ちつつ魔人を誘導する。


 「家が……」


 背後。想いの詰まった家々が崩れていく様に心を痛めるシアに、五指を広げた巨大な手が迫る。それを彼女自身が〈魔弾〉で冷静に迎え撃つ。手のひらが砕け、血肉が飛び散り、骨が覗く。

 白いワイシャツが赤黒く汚れてくさまに多少気分を悪くしながらも、足は止めない。


 「〈せん〉」


 続いて殿を務める、お面を被った常坂が振り向きざまに腕を振るう。

 閃く藤色の太刀筋が、シアを捉えようと伸びていた太い腕を半分ほど抉った。

 が、そうしてできた傷はあり得ない速さで修復されていく。


 「んー……。傷を治すのにもマナは使ってるんだろうけど――っと」


 魔人が投げたと思われる、高速で迫る家の外壁を天が撃ち砕く。

 魔人は4本の腕で地を這うように移動し、残りの2本で捕食しようとしたり、攻撃したりしていた。


 「この攻撃手段があるうちはなぁ」


 時折行われる瓦礫を使った攻撃の効率の良さに、内心舌打ちする天。

 魔人側はほとんどマナを使用せずに、こちらに致命傷を負わす攻撃が出来る。

 対してこちらは、なるべく回避に専念しているとはいえ、先ほどのように大きな物だとマナを使って迎撃せざるを得ない。

 ロータリーに急ぐ理由が1つ増えた形だった。


 「追って来る理由は、やっぱり神代さんやシアさんがいるからなの?」


 魔人としては住宅街の方が有利な地形。にもかかわらず、わき目もふらず追いかけてくるその様に疑問を覚えた常坂が、牽制しながら尋ねる。


 「言われてみれば、そうですね。瓦礫を飛ばしているだけで、私達は消耗してしまいます」

 「ほんの少しだけ理性を残して、あとは本能って感じかな――とりゃ」


 むしろ女性の魔人を食べて触手の魔人が理性を少しだけ取り戻した印象か。

 考えながら、天はひじの部分にある白濁した目玉を攻撃する。命中した黄金色のマナの塊が、煙と血肉を散らした。


 よだれを飛ばして叫ぶ魔人。怒り心頭の様子で自身に伸びてきた手のひらを、天は横に飛んで回避。その際、手にした槍を華麗に操り、全ての指を切り落とす。


 都合、頭上真上にある腕を見据えた常坂が腕を振るい、今度は腕を両断した。またも魔人の悲鳴が上がる。


 「こうして攻撃しとけば、瓦礫は飛ばしてこない……訳ないか」


 残すもう1本の空いた腕がエアコンの室外機を投げる。

 それをシアが大き目の〈魔弾〉で撃ち抜き、無力化した。


 「このままじゃジリ貧になっちゃうなぁ……」


 と、ようやく雑木林に入った3人。中央会館から西北西に直線距離で200mほど。

つい先ほど天たちが探索を終え、魔人の男と戦った場所付近でもある。

 ここを抜ければ目的地の駅前ロータリーがあった。


 「他にも魔獣が隠れているかもしれません。注意しましょう!」


 シアが改めての警戒を促す。


 「そうだね。弱い魔獣がアイツに食べられないようにって意味でしょ?」

 「は……え? あ、はい、も、もちろんですっ!」


 しどろもどろにシアが答えたと同時。

 天の中に“直感”が走る。それに従って、左方、雑木林が広がる方向に〈魔弾〉を放つ。

 と、どこからか駆けて来ていたイノシシの魔獣が跡形もなくはじけ飛んだ。


 「だから、食べ物が残らないようにって、シアさんは言いたいんだよね?」


 天の確認にシアは、


 「……すみません、嘘です! そこまでは考えていませんでした……」


 あっさりと白状した。

 戦闘以外で役に立つことはできないか。考えたシアがどうにかひねり出したものが、先の注意勧告。

 よって、そこまで深い意味は無かった。

 落ち込むシアをフォローしたのは、お面で顔を隠したままの常坂。


 「でも、そういう言葉かけは大切かも。わたしも気を付けないと」


 天とシアとは編入以来の付き合い。優や春樹がいない今、敬語を使うこともなく、普段通りに話している。

 はずなのだが。


 シアはどこか他人のように彼女を感じている。

 いつもはたどたどしくも、しっかりと感情のある言葉を話す常坂。

 しかしお面を被った今の彼女の言葉にはそれが感じられなかった。


 時折感じるその違和感にシアが首を傾げる間にも、魔人は木をなぎ倒して迫る。

 常坂の顔が見えないからだと自分を納得させて、シアは魔人の誘導に集中することにした。

 と、見えてきたのは円を描く道路と、タクシー乗り場、奥には広い駐車場もある。

 広さは東西80m、南北60mほど。右手には鉄道が、左奥には今は使われていない郵便局なども見える。


 「〈探査〉」


 掛け声とともに広がって行くは藤色のマナ。青系統はマナの放出に優れるとされ、常坂自身も得意だと思っている。

 そうして効率的に広がって行く捜査網で得た情報を、常坂が口にする。


 「正面東側を12時として11時方向30mに1体、9時方向15mに2体だよ」

 「了解……ん、視認した。じゃあ私が2体いる方を」

 「では私が遠い方を狙います」


 天とシアがそれぞれ〈魔弾〉を使用。魔人たちがあえて弱らせた状態で放置していた餌。空腹で鈍った動きを見せる魔獣たちは、高い魔力を持つ2人によって簡単に討伐される。

 常坂は自分が対処するつもりだった2時方向の魔獣を刀で切り裂いた。


 そのまま、ロータリーのちょうど中心付近で足を止め、振り返る3人。

 そこには傷1つない巨大な魔人がやってきていた。

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