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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【断罪】第二幕・後編……「童女がもたらす真実」

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第7話 僕たちなら

 会館の外で、優とシアが魔人と戦闘している頃。

 有事に備えて、西方春陽にしかたはるひは荷物を背後の大ホールに移動させていた。

 遮音性が高く分厚い鉄扉であれば、ある程度の衝撃からも荷物を守ってくれる。


 「春陽はるひお兄ちゃん、ケガしてるの?」


 その様子を眺めていた果歩かほが、彼の腕に巻かれた包帯を見て首をかしげた。


 「そうなんだー。でも、大丈夫! 果歩ちゃんは僕がしっかり守るから!」


 幼い顔で笑い、力コブを作って見せる。とは言っても、制服で隠れてしまうほどの筋肉だ。

 それでも、どこか見る人を和ませる、安心させる雰囲気が、西方にはあった。

 事実、安心した表情を果歩は浮かべていた。


 魔人との戦闘は長引く傾向にあると、姉から聞いたことがある西方。

 戦闘自体を好んでいるわけでもない彼は、特段、果歩を守るという役割に不満は無い。

 優の判断も的確だと思っている。


 ゆえに、自分に任されたことを冷静に分析していた。


 「……果歩ちゃん、ひとまずホールでその荷物を見ておいてくれる? 僕は1階に行ってくるから」

 「わかった! 任せて!」

 「僕が開けるまで、出てきちゃだめだよ? じゃないと……こわーい魔獣とか魔人とかが、果歩ちゃんを追っかけてくるぞー!」

 「キャー!」


 果歩が楽しそうに逃げ込んだ頑丈な大ホールの扉を閉めて、早速動き出す西方。

 彼女を1人にしたくは無いが、確認しなければならないことがある。


 (この会館、厨房に裏口、あったよね……)


 知恵の回る魔人が他にもいる可能性がある以上、出入り口は今一度確認しなければならなくなった。

 優が、ここに人が入った形跡があると言っていたことも、西方は持ち前の記憶力で覚えていた。


 1階に下りて休憩所奥にある売店へ。

 調理場の入り口から裏口の扉の様子を確認して――


 ガチャリ。


 カギが開けられる音がした。

 キィッとさび付いた音を立てて、ゆっくりと開いていく扉。


 「あら……、もう見つかっちゃった」


 そう言って現れたのは1人の女性だった。

 初対面のはずなのに、どこか見覚えのある気がする西方は思わず尋ねてしまう。


 「あなたは……?」


 が、すぐに気を取り直す。こんな場所にいる時点で、一般人ではないだろう。


 「――良かったわ。助けてくれない? 魔人に襲われたの」


 そして、果歩が待っているこの状況で、その言葉だけを信頼するほど、西方は愚かではない。

 誰何の必要性も無かった。相手が人なのか、そうでないのかを判断する簡単な方法があるのだから。


 「〈探査〉」

 「――ちっ」


 ミントグリーンのマナが女性を捉えるより先に、彼女は動き出していた。

 どす黒いマナの塊が、西方向けて飛んでくる。

 が、もちろん西方にとっても、おおよそ想定通り。


 「〈強化〉!」


 一度後退し、魔法を使用して動体視力を上げて軌道を見切り、回避する。外れた〈魔弾〉が、床のタイルや壁を飛び散らせた。

 〈探査〉で返ってきた反応は魔獣――いや、魔人か。マナの色からも明らか。

 同時に、その女性が魔力持ちと同じ程度、つまり一般人の10倍近く魔力があることもわかってしまった。


 「残念。不意打ちの方がもっと楽だったんだけど」


 首を鳴らす女性の魔人は、どこか妖艶な雰囲気をまとっている。

 年齢は30代、黒く長い髪を1つにくくり、垂れた毛先は肩よりも長い位置にあった。

 印象的な目元は吊り上がり、その瞳は白濁している。

 色黒の肌をしているせいか、どこかエキゾチックな雰囲気を残す魔人。

 身長はすらりと高く、175㎝はある。姿形自体は、しっかりと人間のそれだった。


 魔力が高い相手と戦う時のセオリーは、全力の逃げか迎撃しての一点突破。

 けれども果歩や荷物を守る役割を負う今の西方が選ぶことの出来る選択肢は、迎撃のみ。

 ――1対1なら。


 少し前の西方ならここで“憧れ”のように戦い、無謀な戦いになっていただろう。

 しかし、着実に地に足を付けて前へ進む優。守るべき存在であるところの果歩。

 何より、神聖さと愛嬌を持ち合わせる、黒髪の天人がすぐそこにいる今。


 優秀な2人なら、あの程度の魔人、無難に倒してしまうだろう。

 そう信頼して、彼らが駆けつける時間を稼ぐことを主目的に据える。


 姿勢を低くし、〈身体強化〉を使用した西方。続いて左手に〈創造〉したのは刃渡り40㎝ほどの直剣。


 「海老で鯛を釣るとはまさにこのことね」


 そうして構えた彼に、魔人が漏らした。

 会話で時間を稼ぐチャンスだと、西方はそれに応じる。


 「どういうことですか?」

 「簡単な話よ。あの子供をうまく使えば、こうして3人も釣ることが出来た。しかも1人は特大サイズ」

 「やっぱり……」


 常坂が言っていたように、わざと果歩は生かされ、救出させたのだ。


 「無自覚って怖いわね。自分のせいでたくさんの“優しい人間”が死んでいるのに、それに気づくことが出来ないんだもの」


 嘲りを含んだ言葉。

 それは暗に、長嶋一夜の両親が死んだのも魔人の計略の1つだったことを示していた。


 「こうやってあなたが分断されているのも、あの子供がいたからでしょう? 守るものがあるって、それだけで人はこんなにも弱くなるの」


 分断させたのは意図的ということ。

 あるいは、時間稼ぎにも気づいているかもしれない。

 そう考える西方の思考を読んだように。


 「それじゃあ、早速、お前を殺して、いただくわね」


 刃渡り20㎝ほどで柄のないナイフを創り出した魔人。


 「その後、あの子供をもう一度使って、外の子たちの動きを制限して……。本当はあの天人デザートは後にとっておくつもりだったけれど――」

 「舐めない方が良い」


 不愉快な算段を口にする魔人の言葉を遮るように。

 いつになく語気を強めた西方。


 「お前を? 残念ながらお前じゃ私に敵わないわ」

 「知ってる。そんなこと、僕が一番わかってる。でも――」


 怒りを抑え、無力感をこらえて、努めて冷静に武器を構える。

 理由は1つ。自分には課せられた役割があって、そして――。


 「僕()()なら。あなたを倒せる」


 言い切って正中に武器を構える西方。

 覚悟を決めたあどけない顔に、頼りなさなど一切ない。


 「だったら見せてみればいいじゃない? 出来る物なら、ね」


 どす黒いナイフを手にした魔神と、西方の覚悟が衝突した。

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