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「見ている神がいないなら、この物語は『  』です」  作者: misaka
【断罪】第二幕・後編……「童女がもたらす真実」

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第6話 あっけない幕切れ

 濃い灰色のタイルが敷き詰められたエントランスホールに下り立った優とシア。

 その背後――吹き抜けの階段の上に外山果歩そとやまかほと、万一の際に彼女を守ることが出来るよう、西方がいる。




 突然の魔人の襲撃。

 それでも思考を止めることは許されないと分かっている優。


 「やぁっ!」

 『美味しいご飯(オイジイゴバン)!』


 気迫の乗ったシアの魔弾が、迫る触手を砕いていく。飛び散る血肉だが、魔人はそれを物ともしていない様子だ。

 攻撃をいなしつつ、優がちらりと背後を見やれば西方の背後からこちらを不安そうに見つめる果歩がいる。加えて、その周囲には故人が遺した大切な物品たち。


 「優さん、どうしますか?」


 魔人の攻勢が止んだところで、シアが作戦を尋ねてくる。


 手早く済ませるには権能を使用するのが一番早いが、副作用・副産物を考えると、そうはいかない。

 そこで、改めて魔人を観察する優。

 赤紫色の不健康な肌。その表面に垂れ下がる触手は、高まった自己修復機能によって治っている。

 マナが“あるべき状態”に戻ろうとして、肉体がその情報に引っ張られる形だ。〈身体強化〉の延長線上。天人の権能による治療も、このマナの仕組みがあるために可能だった。


 (敵にすると厄介だな……)


 魔人の背後では、シアの撃ち損じによって抉れた壁が瓦礫を落としている。貫通はしていないものの、いたんでいることは明白。

 そうでなくとも、魔人が攻撃するたびに会館が崩れていく。


 「……シアさん。ひとまず、外に出ましょう」

 「それだと戦闘中、他に魔獣や魔人が来ることもあるのでは?」

 「はい。ですがこのままだと、拠点が崩れてしまうので」


 と、魔人がまた動き出した。


 『料理リョウリ? 調理ヂョウリ?』


 ブヨッとした腹の前に、野球ボール大の魔力が集まっていく。

 魔人による〈魔弾〉だ。

 それを好機と見た優。


 「早速、外に行きます」

 「えっ、あ、はいっ!」


 魔人に向けて、透明な針を飛ばす。それが魔人の創りかけの〈魔弾〉に命中し――破裂した。


 魔獣の変態途中や、マナの凝集段階などに何らかの刺激によって、イメージ通りに形を創ることが出来なかった場合に発生するマナの爆発。

 優が行なったのはそれの応用だった。


 『あれぇ(アデェ)?』


 爆発によって魔人の巨体がよろめく。瞬間に、優とシアが〈身体強化〉で脇を駆け抜け、会館の出入り口から外に出る。

 魔人もどうにか捕食しようと触手をそれぞれ伸ばすも、2人はそれを冷静に処理する。

 そして、そのままピロティを抜け、炎天下の道路に躍り出た。


 「魔人はどうやっておびき出すんですか?」


 煙の上がる会館入り口を警戒しながら聞いたシア。


 「もうすぐ出てきます、必ず」

 「……?」


 優の確信に満ちた言葉に、シアが怪訝な顔をしたとき。


 『待って(ばっで)ご飯(ゴバン)!』


 ドタドタと全身の贅肉を揺らしながら魔人が出てきた。


 「どうして……?」

 「シアさんが天人だからです。魔獣もそうですが、マナが多い存在を奴らは好むので」


 もし、相対しているのが理性を持った人であれば、果歩や西方を襲ったかもしれない。

 しかし、先ほどから見せている言動。執拗にシアを狙っていたこともあって、優は確信を持ってこの作戦を取った。


 「なるほど。私が天人で良かったです!」


 利用されたことに憤るわけでもなく、納得した様子で自然体のまま臨戦態勢を継続するシア。

 これでようやく、最低限、するべきことが出来た。次はどうやって魔人を倒すのかを考える。


 「やっぱり、持久戦で行きましょう」

 「魔人相手にですか? 西方さんは、先生方と同じくらいの魔力だと言っていましたが」


 言っている間に、魔人が触手を伸ばしてくる。

 その数は3本。そのどれもが、シアに殺到する。

 優が1本を準手に持ったナイフで。持久戦と言われたこともあって、シアは手にした真っ白な小太刀を逆手に持ち、迎え撃つ。


 避けて、斬る。斬って、避ける。

 魔人の攻撃が空振りになるその度にアスファルトが抉れて舞い上がり、斬られた触手は黒い砂になる。

 危ない時は〈身体強化〉を使用して回避に専念、なるべくマナを温存する。

 そのやり取りを続けること、数十秒。


 触手の形成に自身の体組織を使っているらしく、みるみる痩せていく魔人。

 ほんの少しずつ、傷の治りも遅くなっていく。


 『苦しい(グルシイ)! 早く(バヤク)!』


 駄々っ子の様に体を震わせた魔人が、傷口からどす黒い血をまき散らす。心なしか、声からも厚みのようなものが消えている。

 対して。


 「はぁ……はぁ……」

 「シアさん、大丈夫そうですか?」


 素早い判断と動き。極限の集中状態を維持した戦闘であるため、体力の消費という意味では、優たちも相当なもの。特にシアの消耗が激しい。

 普段の彼女の戦闘スタイルは、持ち前の魔力の高さで中距離からの射撃を行なう、強硬策。言わばゴリ押し。

 けれども今は、慣れない持久戦を強いられている。


 魔力が低い優にとっては、“憧れ”に追いつくために、幼少期から行なってきた当たり前の技術も、シアにとってはまだまだ経験値不足だった。


 「……ふぅ。はい、大丈夫です」


 おとがいから滴る汗を袖で払い、シアがうなずく。

 が、優の目から見ても明らかに損耗していた。

 この先、生き残るために魔力を温存したせいで死んでしまいました、では本末転倒。

 シアももちろん、優が守りたい人々の1人だ。


 (できればマナを温存してもらいたいが、仕方ないか……)


 魔人も相当マナを消費している様子。討伐までに使用するマナを節約できたのも事実。

 よって、ここからはシアにいつもの戦い方をしてもらおうと、優が決めたのとほぼ同時。


 『()……()……?』


 魔力切れを起こしたように、魔人が倒れ伏した。


 「……あれ?」


 恐らく魔人が漏らしたものと同じであろう言葉を、シアも呟く。

 優も内心、全く同じ意見だった。


 「もうお終いですか?」

 「そう……みたいですね」


 戦闘が終わり、シアの発言が少し“強者”っぽいなと優が思う余裕がある程度には、あっけない幕切れ。


 「ひょっとして、これも囮なのか……?」


 なるべく同じ過ちを繰り返さないよう、物事の背景を考える。

 これが囮だとして、狙いは、本命は何なのか。

 この魔人がもたらした変化。推測通り、果歩が撒き餌だとするなら――


 「考えろ、考えろ……」

※誤字脱字や改善点、感想等、皆さまの気付きがありましたら、教えて頂けると幸いです。

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