コクハク
初めて執筆した第一作目です。
好きな人へのコクハクは告白。真実を告げるコクハクも告白。どちらも用途は違うが告白という……
彼は今、驚き混乱している最中だ。
彼女いない歴=年齢の彼の名山外仁という。小中と友達の少なかった仁は女の子の前だと、変に強がってしまい引かれるのが日常だ。女の子から告白されるなんて事は奇跡に近いが、その奇跡が起こってしまった。
これは今より少し前の出来事だ。仁がいつもの様に休み時間、自席で読書していると、同じクラスの野部美空に声を掛けられた。仁は渋々、美空に同行すると、彼らの教室の隣にある講義室に連れてこられた。そこで美空に「これ読んで」と手紙を渡された。
〈あなたの優しさが好きです。付き合ってください!〉という内容だった。彼が困惑していると、美空は顔を赤らめて、「つ……つき……付き合って下さい‼︎」と言って頭を下げた。
沈黙が暫く続き、返事もしないまま、遂にチャイムが鳴ってしまった。
仁の通う学校の休み時間は授業の合間に十分間と昼食を兼ねた四十分間の休み時間がある。四十分間の休み時間は、全部で七時限ある内の四時限目の終わりだけだ。
美空に講義室に連れてこられた時、仁の読んでいる本は物語の最終局面だった。渋々同行したのには、女の子に声をかけられた事より、物語が一番良いところだったからだ。
講義室に連れて来られた時の時間は休み時間が始まってから十五分経ってからの事だった。
仁は小説を読むために、美空との話に五分だけ時間を割こうと思っていた。だが、話の内容は告白だ。五分で話を切り上げるはずだったが、二十五分間も返事を考える時間に割いてしまった。
一方美空は顔を両手で覆い赤面しながら告白が成功した時や失敗した時の妄想を膨らませていた。
まさか、チャイムが鳴るなど信じられなかった。美空に謝りながら、明日の四十分間の休み時間に返事をする事にして、その後の授業を受けた。
仁は家に帰ってからも美空からの告白の事だけを考えていた。物語が良いところだった事など頭にはもうなかった。
(こんな僕なのに、勇気を出して告ってくれたんだ。断ったらかわいそうじゃないか……)
この軽率な返事が後に最悪の事態を招くなど、仁はまだ知る訳がない。告白されたから付き合うはやめた方が身の為だ……
次の日、休み時間に美空に「よろしくお願いします」と答えた。
それから暫くは幸せな時を過ごした。美空は大人しく物静かだったが、時々デレてくるのが堪らなく可愛かった。
だが、幸せな時間は続かなかった。
深夜一時を回った頃、美空から〈別れたい〉と連絡された。好きな人が他に出来たらしい。仁は何も感じなかった。衝撃すぎて思考が追いつかない。とりあえず〈わかった〉とだけ返信しておいた。
事の重大さに気付いた時には既に遅かった。慌てて返信を取り消し、やり直したいと申し出たが、美空はそれを断った。
その後、仁は学校に備えて睡眠を試みたが、寝付けず、朝が来た。しょうがなく気が抜けた状態で無理やり、学校にトボトボ向かった。
教室に入ると、同クラスの渡辺華奈が泣いていた。周りの群がってる女子たちに何があったか聞くと、美空が華奈の彼氏に手を出したらしい。彼は驚愕した。美空と華奈は親友同士で、いつも一緒だった。
仁はその話を信じなかった。というか、信じられなかった。付き合っていた時の美空にそんな事をするような素振りは見受けられなかった。きっと何かの間違いだと思い、連絡を試みたが美空が仁を連絡先から削除した為、出来なかった。更に美空は不登校になった。
あの噂が流れ、クラスの奴等だけではなく、学年全員が美空を嫌った。本当なのか、嘘なのか、誰も知らなかった。というより知ろうともしなかった。一つの噂に洗脳され、信じきった。
美空が不登校になり暫く経った後、担任から「野部は学校を辞めることになった。家族の事情らしい」と朝学活で言われた。
美空は仁を家に招くことも、家まで送ってもらうことも避けた為、仁は家もわからなかった。挙げ句の果てに連絡先までないと本人に嘘かほんとか確かめることが極めて困難になった。それでも仁は美空があんな事をするはずがないと信じ、美空とよく絡んでいた女子グループに話を聞いたが、まともに相手にされなかった。華奈に至っては「貴方には話したくない」の一点張りだった。
(余りにも情報が少な過ぎる。あいつ《美空》は良いやつだ!取り敢えず華奈と絡んでみるか……)
彼は怒りだけを抱いた。家庭の事情な訳がない。学年全員から嫌われ、居場所の無くなった美空は辞める他無かったのだ。彼は美空に辞めるまで追い詰められる程、酷い扱いを受けていたとは知らない己の無力さを呪った。
美空と一番仲が良かったのは華奈の筈で、確か小中と一緒だ。華奈と仲良くなるには相当の時間が掛かった。入学式から四日後、仁は盲腸になり学校に行けなかった。一週間後、教室に入ると既に仲良しグループが形成されていた。彼は一人になるのが怖くて、焦って距離を詰めようとしたが、上手くいかなった。しょうがなく自席で大人しくする生活を行うことしにしたが、クラスの奴等は声が大きく大抵の会話は耳に入る。元々耳が良かった事もあったが、ハッキリと聞こえ過ぎだ。お陰でクラスの関係性がよく分かった。
華奈の仲良しグループに、最近加わった上河鈴はまだ馴染めていないようで、気弱な感じがした。まずは、そいつから距離を縮めた。とある出来事をきっかけに心を許し、華奈グループの事を教えてくれた。構成が分かったらこっちのものだ。華奈グループのメンバーと少しずつに距離を縮め、やっと華奈に近づけた。
告白されたのが高一の六月中旬。別れて、例の噂が囁かれ、美空が中退したのが八月上旬。華奈と仲良くなれたのが十二月下旬。
「美空のこと私嫌いだったのよ。だから貴方に嘘告をさせて、その後あの噂をでっち上げた。美空の奴、嘘告だったくせにあんたの事が好きになったとかどうとか言い始めたの。好都合だったわ。だってあなたを人質にして、美空を操れるもの。ことは私の思い通り進みアイツは学校を追われた」華奈は衝撃的な告白を高笑いしながら言った。どうりで彼に美空が頼らなかった訳だ。恐らく、彼に危害を加えるなどといって脅したのだろう。強制的に別れさせられた美空は、彼に危害が加わる事を避けたのだ。
彼は何かが切れる音がした。華奈の胸ぐらを掴み「てめぇあいつとずっと一緒だったじゃないか!あいつの何が気に食わなかったんだ!返答次第じゃタダじゃおかねぇ……」とまるで人が変わった様だった。殺気が溢れ出ている。華奈の告白が屋上という誰にも見つからない場所でのことだった。それに満点こ青空、降雪はほぼない地域で、冬だと言うのに寒くない。ジリジリと屋上の端ギリギリまで詰め寄り、鉄柵に華奈の背中がついた。
バタンッ!
邪魔者が勢いよく屋上になだれ込んできた。華奈グループの奴等だ。華奈に近づけさえすれば奴等など、どうでもいい。美空を迫害するのに加担した事は絶対に許せない。
奴等がザワザワし始めたことを無視して華奈の返答を待った。が、華奈のは泣きじゃくっていた。
「チッ!てめぇら屋上の鍵をかけて出て行け‼︎」舌打ちと同時に華奈の胸ぐらを離した仁は奴等に指示を出した。仁と華奈が屋上に来た時は、職員室から鍵を借り、その鍵を使って屋上のたった一つしかないドアに鍵をかけた。その鍵を開けて入ってきたという事は、職員室からスペアキーを借りてきたのだろう。早々と出て行く奴等は華奈の事など見向きもせずに逃げ出していった。仲間を助けに来ないことに呆れながら、彼はもう一度華奈の胸ぐらを掴もうと華奈のいた方へ目を向けたが、誰もいなかった。
(しまった……)
胸ぐらから手を離した事を後悔しても、もう遅い。
キャアァァ‼︎
絶叫が彼の耳を刺す。聞こえた方を向くとカッターを片手に持ち、もう片方の手で鈴をがっしりと掴んでいる華奈の姿があった。
「てめぇ!何故逃げなかった⁈」
彼の問い詰めに対し鈴は、「だって仁さんの事がほっとけなかったんだもん‼︎」と答えた。
彼は鈴から仁さんと何故か言われる。あの日から……
ある日の登校時、不良グループに絡まれていた鈴は震えていた。たまたま近くを通った仁は鈴に駆け寄ると、鈴はすっと仁の後ろに身を隠した。全てを察した彼は「あんたらこの子に何の用っすか?」と問いかけた。
「あ⁉︎てめぇ誰に口聞いてんだ⁇ナメた面しやがって!」
不良グループの一人が理不尽な理由で拳を振り上げ仁を殴ろうとした。鈴は怖さのあまり目を閉じた。
パシッ!
彼は自分に向かってくる拳を片手であっさりと受け止めた。
「なに?俺の拳を片手で受け止めやがった……」
不良グループの顔色が悪くなっていく。実は今の攻撃がグループ一の強さを持つ男の一撃だった。
仁の鋭い眼光が不良グループに向けられる。不良グループは案外、あっさりと逃げ去った。
鈴とそのまま一緒に登校し、喋っていると段々と鈴について感じた事があった。やけに美空と似ている。鈴は可愛らしい物静かな子だ。彼が美空と別れた後の出来事だったから美空の事は当然、鮮明に覚えている。鈴との共通点はよりはっきりした。
「黙れ!殺されたいの⁈あんた!このがどうなっても良いの?」
「鈴には手を出すな!お前、美空の何が気に食わないんだ?」
「アイツの何もかも全てよ‼︎」
「じゃあ何故、美空と仲が良いフリをしてた?絡まなきゃ良いじゃねぇか」
「だってママがアイツの親と幼馴染で仲が良いんだもん……」
「そんな理由で美空を消したのか?違うよな」
「ええ……そうよ……理由はそれだけじゃない。アイツは私より何もかもが勝ってた。いつもアイツだけが優遇されて気に食わなかった!私はあんたが好きだったのよ。でも、アイツもあんたを好きになってしまった。敵わないとわかって、心が張り裂けそうで……奪われたくなかった‼︎だから、アイツの一番苦しむ最悪な方法で追い出したのよ!」
「……だってよ。美空……」
「え?何言ってるの⁇」
美空と鈴の共通点が多い事から、一つの事実が分かった。実は美空と鈴は一卵性の双子で、二人が幼い頃に親が離婚し、離れ離れになった。あの日、彼が鈴を助けた日、聞いた話だ。それと、真実もこの時既に聞いている。
彼は鈴に指定した日、華奈が彼にも真実を伝える様に誘導し、その日に美空と入れ替わる事を頼んだ。鈴は助けてくれた恩人の頼みを叶えるべく尽力した。恩人であると同時に鈴はあの日、彼に敬意を抱き、更に恋をした……上手く事を運んだ後、鈴は彼に質問した。
「何故、あんな事を頼んだの?」
「俺の彼女に真実を伝える為」
「なるほどね……」
まだ、仁が美空《姉》を好きなことに変わりはなかった鈴は自分の好きな人が幸せになるのを見届けようと、決心した。
「華奈……どうして直接言ってくれなかったの?親友だと思ってたのに……」
美空は呆気に取られている華奈の腕からすり抜け、吐き捨てた。鈴も美空も良い演技をするものだ。女優に向いているかもしれない。因みに、彼の屋上からの言動は本気だ。真実を知ってるとはいえ、改めて聞くと殺意が込み上げてきた。
(仁に嫌われた……)
カッターが華奈の手から地面に落ち、脅しで長く出していた刃が折れた。と、同時に華奈は屋上の鉄柵へ走り出し、よじ登り始めた。
ガシッ!
仁は華奈の腕を体重を後ろにかけて引っ張り、鉄柵から引き離した。仁は焦っていたので、力加減をしなかったので、二人とも尻餅をついた。それから仁は立ち上がり、華奈に手を差し伸べながら「死なせねぇよ。俺は誰のものにもならねぇ……」と告げた。
「え?」
華奈は彼の言葉を理解できなかった。
「俺は三人とも傷つけたくない。俺のことを好きだと言ってくれる良い奴だ。美空も鈴も良い奴だし、華奈だって、根は良い奴なのはわかってる。全員一人にはさせん」
不器用ながら、これが彼の導き出した全員を傷つけない最善の策だった……
「はぁ……仲良くできる魂胆だったのになぁ」
彼の最善の策は最悪な結果を招いた。自分勝手だと三人からあっさりと嫌われた。三人とも彼を巡って各々決意を固めていた。美空は仁に危害が加わる事を避けるため、学校を辞めた。鈴は仁を好きなったが、姉と仁の事を思い、身を引いた。華奈は一連の犯行を仁と結ばれたい一心で起こしてしまった。その決意を無駄にする彼の案を受け入れられる訳もない。
進級し、クラスが離れ離れになった。虫の知らせだと、美空は通信制の高校に編入し、華奈と鈴は学校ではずっと一緒で、放課後や休みの日は華奈、鈴、美空の三人で一緒にいるようになったという。無事、復縁でき、幸せそうだ……
彼は自分の馬鹿さを呪った……
恋愛というものは非常に難しいものだ。究極の心理戦だと思う。
最後まで読んで頂きありがとうございました。不定期ではありますが、これからも執筆していく予定です。