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魔剣レンタル  作者: ナナイ
魔剣レンタル①
2/26

第1話

「魔剣のレンタルだって?」


 筋骨隆々の男が目の前で立ち止まると、茶化すような笑みとともに声をかけてきた。


「はい、魔力が込められた特別な剣です。獣退治のお供にどうですか?」


 腰高の木箱で作られた仮設のカウンター越しに答える。


「魔剣っていうとあれか、魔獣を意識した名前なのか?」

「はい。そのような解釈で構いません。魔法を扱えるようになる剣とでも思って頂ければ良いかと思います」


「魔法? あはははは。なら、この剣で炎を出したり雷を出したり出来るってことか?」

「はい」


 表情を変えずに対応を続けると、それがつぼに入ったのか、男はさらに大きな声を上げた。


「あはははは。それは面白そうだな」


 そんな笑い声に、周囲の視線が少しだけ男に注がれる。


 ここ、様々な人々が集まるギルドの大きなフロアには、今日も多くの人が集まっていた。

 ギルドは、個人からでも団体からでも様々な依頼を集い、それを報奨金のついた仕事として大々的に紹介する、何でも屋のような施設だった。人の往来が盛んな街には大抵設置されており、農耕や大工仕事、人捜し、あるいは獣退治、内容はピンからキリまであった。


 周囲にはそういった仕事探しに従事している人々が集まっているため喧騒が絶えず、誰かが大きく笑い声を上げようと、「ちょっと何か聞こえたな」くらいのものだ。目の前の男への視線もすぐになくなる。


「分かった。今日の遠征に持って行こう。二週間頼む」

「ありがとうございます」


 ギルドに集まる多くの依頼の中で、大半を占めるのが獣退治だった。報奨金も他と比べると高額で、フロアを見渡せば、それを目的としているだろう大柄な体格をした人たちが多く見られる。


「兄ちゃんはこのギルドには最近来たのか?」


 貸し出しの準備をする中、男が愉快気に話しかけてくる。


 このフロアには、獣退治のために、剣や盾、鎧のレンタルをしている店が他にもいくらかあり、ここはその中の一つだ。ただし、魔剣を扱っているのは唯一となる。


「そうですね。最近です。お客さんはどうですか?」

「ああ、俺も隣――っつても歩いて一晩はかかるが、その街のギルドに行くことがほとんどだけどな、ここにもたまに来るんだ」

「獣退治の報酬目当てということですね」


 男はにやりと笑う。


「まぁな。魔獣となれば、狩りも楽しいからな」

「魔獣ですか?」

「おお、見たことないのか? 見た目は獣とほとんど変わらないが、動きが全く違うんだ」

「いえ、ありますよ」

「ああそうか、だからこその魔剣だもんな!」


 獣の中には、『魔獣』と呼ばれる特別な獣がいた。


 いわゆる一般的な獣――イノシシだったりオオカミだったり――は、各地で田畑を荒らしたり、人を襲うこともある。魔獣はそういった獣たちと見た目や習性こそ変わりないが、確実に大きな違いがあった。抽象的に言えば『不思議な力を持っている』獣だ。


 一般の獣を対処するには、罠で捕縛したり、ナイフや弓で退治することもそこまで難しくはない。しかし魔獣は、鉄格子程度の罠であれば簡単に食い破り、剣で切り裂いても簡単には死ぬことはない。また、攻撃をまともにうけてしまえば致命傷は免れない。要するに、退治の難易度が格段に高かった。


 そして一番の問題は、魔獣と普通の獣には外見の違いがないことだった。野生で発見された獣が、魔獣であるか普通の獣であるかは、簡単に判断を付けることができない。そのため、普通の獣と勘違いし魔獣を退治しようとした人間が返り討ちにあって命を落とすことも珍しくなかった。


 そういった事例が多くあることから、一般の人間が獣を見つけたとき、自ら手を出すことをせず、ギルドに退治を依頼することが慣例となっていた。だからこそ、獣退治はそれなりの腕が求められ、報奨金も相応なものになる。


 そんな魔獣退治を「楽しい」というこの男は、それだけの実力者なのか。

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