10、クロムが追い出された日
sideシロム
今日僕の兄クロムが追い出された。
父モーガンと母マリンは晴れやかな顔で食事をしている。
僕は食が進まない...。
しかし、兄は言った。
「ここにいる間は演技をしてくれ。」と...。
大好きな兄の頼みだからここに居るが、本当なら僕も兄に付いて行きたかった。
しかし、[賢者]の職を授かってしまったことによってそれも出来なくなってしまった。
なんせ、国の命令で英雄学校に行かなきゃいけなくなったからだ。
国の命令に背くと犯罪者になる。
そうすると、兄に迷惑が掛かってしまうから仕方の無い事だった。
それにしてもこの両親は...、
「いやぁ~、シロムが[賢者]になってくれて嬉しいぞ!ワシは鼻が高い。
英雄学校でも良い実績を残してくれよ!期待しているぞ!」
「....はい。」
「本当よね!シロムちゃんには期待するわ!
私たちの唯一の希望の星だもん。
英雄学校でも頑張ってね!」
「....はい。」
イラつきで拳に力が入る。
この両親はダメだ。
ここまで育ててもらった恩はあるけれど、
兄を無いものと考えて自分達の保身と権力しか考えてない。
兄はいつから気づいていたのだろう...。
本当に頭が下がる。
僕は食事を終えて自室に戻る前に兄の部屋に寄った。
そこにはもちろん兄の姿はない。
確かに一時間前まではそこに居たのに...
ぐるりと兄の部屋を見渡すと机の上に手紙が置いてあった。
この筆跡は兄だ。
僕は封を開けて手紙を読んだ。
最愛の弟シロムへ
3年後に迎えに行く。
俺たち兄弟の絆は永遠だ。
心が挫けそうになってもシロは大丈夫。
俺は信じてる。
どこに行ってもいつもシロの事を想っているよ。
また逢おう。
僕は涙が止まらなかった。
兄の優しさが伝わる。
僕は決意を確かな物にして頑張ろうと思った。
ん...。下の方に続きがあるな。
PS.セツナを大切にな。
「セツナを大切にな...。」
と僕が声を出した時に、ドガッと物音がした。
そこに現れたのはセツナだった。
「いててて。」
「セツナ...。いつからそこに...。」
「いや、私はシロム様のご、護衛なので...。それで...。」
「セツナ。
こんな時でも守ってくれてありがとう。
僕はセツナが居てくれて嬉しいよ。」
「そ、そんな。滅相もない...。」
「セツナ、近くに来てくれないか?」
「は、はい...。」
セツナはシロムに言われた通りに側に寄る。
すると、シロムはセツナを抱き締めた。
セツナは驚きと恥ずかしさのあまりに身体が硬直して赤面する。
「セツナ。側に居てくれてありがとう。
今は僕は何も力はなくて守って貰うだけだけど、
強くなってセツナを守るから。」
「シロム様...。」
セツナは本当に幸せだった。
そして、クロムに感謝した。
sideノエル
あぁ...最悪
クロと離れる事になるなんて...
何で私が剣聖
なの!?
しかも、英雄学校って何?
本当に意味が分かんない...。
私はただクロの側に居たかっただけなのに...
何でこうなるの?
神様が居たのなら恨むわ...。
私は部屋のベッドに閉じ籠っていた。
すると、ドタドタと足音が聞こえる。
「ノエル!!ノエル~!!今すぐ出立する準備をしなさい!!」
この声は父のパウエルだ。
私が感傷に浸っていると言うのに何なのよ...
「すぐに本家に出立するぞ!!」
その言葉に驚いて部屋のドアを開ける。
「はぁっ!?何言ってるの?
私は今帰ってきたばっかりなんだけど...。」
「疲れていると思うが、
これは我がコールドループ家の利権を奪取するチャンスなのだ。拒否権は無い。」
出た...。
これだから貴族は...。
本当なら出ていきたい。私もクロに付いていきたい...。
しかし、私には出来ない。
ここまで育てて貰った恩もある。
「わかったわ...準備するから待ってて..。」
「下の馬車の中で待っているから早く来るんだぞ。」
本当に勝手なんだから...
しかし、私も貴族社会で育った身。
そんなのは分かっている...。
3年後に迎えに来るから、待ってろ...。
クロが言ってくれたこの言葉を胸に仕舞い込んで準備を済ませた。
そして、馬車に乗り込む。
クロに相応しくなる為に頑張ろう。
満天の星空の中ノエルを乗せた馬車は本家に向かって走り出したのであった。




