魔導力生成プラント
クエストの出発は15:00で、学園近くの帝国軍拠点から異世界車で送って行ってくれるらしい。
D104での説明が終わった後、僕たち4人は学園を出て拠点に向かっていた。
「…………」
「…………」
「…………」
そしてその間全く会話が発生しなかった。
ノア君と例の少女じゃない方(見た目は超絶美少女で髪色は黒でおさげ。眼鏡をかけている)は見るからにあまり喋りそうなタイプではないし、例の少女はずっと不機嫌なので、成るべくしてこの状況になっている。
魔法学校の生徒って陰気なやつが多いのだろうか。だとすれば、僕でも浮かずに過ごせるかもしれない。
今歩いている学園から帝国軍拠点までの道は、なかなかに栄えている。都会、とまでは行かないがそれなりに人の往来が盛んで、店が豊富にある西洋の街並みだ。
学園は相当広かったし、軍もそれなりに人がいるのだとすると、隣接した場所が栄えているのは自然なことなのかもしれない。
そんな街中を見渡していると、ふとレストランのような店が目に留まる。
……そういえば飯食ってないな。
朝ミツェルさんの食事を摂った後、現在13:40に至るまで何も口にしていない。転生後のクリスの体は若く、健康体なため食を欲しているのを感じる。
出発までまだ少し時間はあるし、空気を変えるためにも、ここは勇気を出してどこか適当な店でランチをする提案をしてみようかな。
「と、ところでみんな、お腹減ってない? 良かったらそこら辺のレストランで一緒にご飯を食べないかい? どうかな、メアリーさん?」
そして「どうかな、メアリーさん」と付け足す事で、みんなに呼びかけてる風なのに個人を指名するうざいコミュニケーションになっているが、女子生徒二人のうち、どっちがメアリーでどっちがセレナなのかを特定する。
「え? あ、はい! 私は賛成です!」
メアリーは眼鏡の方だった。となると例の少女の名前はセレナだ。
「ノア君とセレナさんはどうかな?」
「いいけど」
「別に構わんぞ」
良かった。普通に違和感なく同意をもらえた。口調やら言動やらが普段のクリスと違うことを指摘されたらと心配していたが、この口調と振舞いはクリスの範疇らしい。まあ、今更そんなことを気にしてもしょうがないか。
その後、学生が入るにしては少し高級感のあるレストラン(というか、ここら辺一帯は基本的にセレブリティな感じがする)に、なぜかこの世界の初心者であるはずの僕が先導して入る。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「あっ、4名です」
ウェイトレスに案内され、男女が向かい合う形で4人テーブルの席に着く。
「ご注文が決まりましたら、お呼びかけください」
と言って、ウェイトレスはグラスに水を注ぎ、メニュー表を置いて去っていった。
店内はやはり小綺麗で、テーブルの上にもお洒落な白い花が挿してある。飲食店のテーブルに花が挿してあるのは元世界では見たことが無いが、異世界特有の文化だろうか。
そして例の如く、みな個々に配られたメニュー表を読み込み40秒程沈黙を決め込んだ。
僕は気まずい空気に耐え切れず喋り出す。
「うわぁ、色々あるなぁ。どれも、美味しそうだなぁ。おっ、昼だけのお得なランチセットがあるじゃあないか。これからエリアCに行くし、僕はランチセットCにしようかな。みんなはもう決まった?」
「A」
「B」
「わ、私はDセットで……」
……決まっているのなら、何かしら言ってくれても良くない?
心の中でツッコミながら、当然のように僕がウエイトレスさんを呼びかけ、注文を伝えた。
ウエイトレスが去ると、いつの間にか3人は例の資料を取り出していた。
「み、みんなどうしたの? そんな資料を一斉に取り出して」
「え? 『どうしたの?』ってこれから作戦会議するんでしょ? その為にここに来たんでしょ」
セレナが資料を開きテーブルに置きながら、不思議げに言った。
「……え? ああそうだね。そうだよ。ごめんごめん」
どうやら、僕の知らない慣習があったらしい。
単純にお腹が空いたからご飯を食べたかっただけなのだが、僕が「ここで作戦会議をしよう」と言ってる風に捉えられていたようだ。
僕は慌てて資料を取り出した。
「ディザスタードラゴン、まさかこいつ如きを真面目に対策する日が来るとはな。こいつに火属性耐性と水属性耐性が有るなんて初めて知ったよ。……あぁ、だからお前がメンバーに入っているのか、セレナ」
「でしょうね。ただ、いくらディザスタードラゴンでもここまで魔力制限が掛かっていれば私の風魔術でも致命傷は与えられない。懐の肉質の柔い腹部に当てられれば、別なのだけれど。問題はどうやって懐に入るか……」
「わ、私の防壁魔術を使えば、攻撃を受けつつ懐に入り込めるかも知れません! ですが、いくらディザスタードラゴンの攻撃でも、ここまで魔力制限が掛かっていれば精々受け切れるのは1〜2回程度。少々リスキーです……」
ぜ、全然話に入れない。
ただ、各々の役割みたいな物は何と無く分かった。セレナさんが風魔術を使って攻撃して、メアリーさんが防壁魔術でみんなを守ってくれるんだね。
「ならば俺が注意を向かせる。ヘイトがこちらに向けば、お前たちも動きやすいだろう。俺は防壁なしでもこいつの攻撃に当たる気がしないからな」
ノア君が囮を買って出てくれた。
役割的にはもう出揃っている感じがあるが、僕は何をすればいいんだろうか。果たして僕がドラゴンを前に何かしらを実行できるかどうかは置いといて、自分の役割を把握しておかないと、ステージにすら立てない気がする。
「あのー、僕は何をすればーー
「お待たせしました。Aセット、Bセット、Cセット、Dセットのランチです」
無情にも僕のセリフが遮られ、テーブルにランチセットが並んだ。みんなは資料をしまってしまい、そこで作戦会議が終わった。
♦︎
食事後、僕たちは異世界車に乗り、目的の魔導力生成プラントに向かった。
異世界車はワンボックスカーみたいな見た目で、中の座席はバスの様に複数人座れる構造。異世界に車があるだけ立派だが、乗り心地はあまり良くない。舗装されてない道が多いのも要因としてあるだろうが。
まあ、長距離歩かされたり、馬に乗ったりしないだけマシだろう。贅沢は言うまい。
1時間ほど走ると、景色が町中→郊外→山中と変遷していき、山中で異世界車は停まる。ここが目的地の様だ。
急な勾配で木々が生い茂っており、先ほどいた町とは大きく世界観が異なる。
僕たちが車から降りると同時に、どこからか初老の男がこちらに来た。
「お待ちしておりました。私、ここの管理人をしておりますビルと申します。案内人を勤めさせていただくのでよろしくお願いします」
頭を下げられたので、僕たちは軽く会釈する。
この人も軍の関係者だろうか。ただ軍人っぽくは見えず、小柄で、少し上品な感じがある。
資料によると、エリアCは魔導力生成プラント本体からおよそ1km離れた地点だった。エリアCは山の奥側に有り、現在到着した駐車地点から施設内を経由して向かう。
しかし、見渡す限り『魔導力生成プラント』らしき施設は見当たらない。完全に紛れも無い山である。どこにプラントがあるのだろう。
案内人ビルに着いて行き、木々の先をしばらく進むと、不自然な洞穴に到着する。山の地面をえぐって作ったような不自然な洞穴だ。
「こちらに」
驚く事に、そこは鉄筋で完全に整備された人工的な施設になっていた。どうやらここが、『魔導力生成プラント』のようだ。
「久しぶりだな、ここに来るのは」
「2年前の見学以来だね」
他愛なくノア、セレナが言う。
彼らはここに来るのが初めてでは無いらしい。
見学と言っているが、やはりここは魔法版の発電所か何かなんだろうか。重大で繊細な施設と言っていたし、発電所の様なものと考えれば納得できる。車も走っているし発電所もあるなんて、この異世界はやはり文明が進んでいる。
「アレにはど肝を抜かされたがな。正気を疑うよ、帝国には」
「で、でも無くてはならない物ですし、こうして管理するのが、一番安全だと思います」
鉄製足場を歩いていると、何か不自然な音が聞こえてくる。それは歩みを進めると共に、次第に大きくなっていった。機械的の様でそうでは無い、規則的だが、生き物の様な。鼓動みたいな音が。
「!?」
僕はそこに到着すると、ビビってしまい、思わず後ずさる。
「痛っ! もう、クリス君。急に止まらないでよ!」
それは、多層に組まれた鉄製の足場に囲われていた。
漆黒の鱗を纏った巨体には無数の管が取り憑き、ぼんやりと光る何かを絶え間なく吸い上げている。
その圧倒的な鼓動と存在感に反して、生気はほとんど感じられなかった。
翼は朽ちた布切れのように垂れ下がり、頭部は魔導具で完全に覆い隠されている。
徹底的に搾取され、すべてを奪い尽くされた、超巨大なドラゴンがそこにいた。




