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獣人

 レオンのそれを聞き、獣人の大剣を握る手が力み、腕の血管が浮き出る。

 表情は怒りに染まり、今にも大剣を叩きつけそうな勢いだった。

 しかし、彼は感情を押し殺すように、絞り出すように言った。


「お前達が、なぜ、我々を蹂躙するのかと聞いている……! 海を隔たったお前達とは何の関係も、軋轢も、無かった筈だ!!!」


 その叫びは、怒号というよりも、慟哭に近かった。

 そんな獣人の言葉を聞いて、レオンは「ああ、それね」といった様子で軽く片手を打つ。


「そりゃだって、あれだよ。『獣人』が群れて、国まで興してるって分かったら、当然放っては置けないだろ? だってさ、お前ら……ほら、化け物じゃん?」


 レオンは、申し訳なさそうな感じで返す。


「化け物の癖に人間みたいに喋って、道具使って、中途半端な知能まで持って――そんなの放っておいたら何しでかすかわからないだろ? だから、念の為事前に駆除しているんだ」


 獣人はそれを聞いた瞬間、目を見開いた。


「……『化け物』、だと……?」


 怒りにより、声が震えていた。

 獣人はゆっくりと一歩、こちらへと踏み出す


「化け物は、お前たちの方だろう……! この国は、剣を掲げることはあっても、それは民を守るためだけだった! 他種族とも対話を重ね、共に道を探してきた! 子供たちが笑い、家族が幸せに暮らしていける国だった! それがもはや、この城の中にいる者たち以外は、皆、殺された! お前たちに……!」


「まあそりゃ、モンスターにも家族はいるよな」


「もういいだろ。モンスターと話して何になる。なんの生産性も無い。さっさとこいつを殺して帰るぞ。こいつが『ヴァルゼノア()()()』とか言うやつの一人なんだろ?」


「『ヴァルゼノア()()()』な」


 ノアとレオンは軽口をたたきあった後、杖を彼らお得意の武器形態、長太刀とリボルバーに変え戦闘態勢に入る。


「悪いな。お前ごとき一人でも十分だろうが、四対一になってしまって」


「……四対一? ああ。そうか。ガラクタ共は私一人で処理していたから、そう勘違いしているのか。言っておくが、この場所に生身で立ち入った時点で、お前たちの死は確定している」


 ピシュッ、と空気を裂く音が鳴る。


 僕の顔を、ものすごい速さで何かが掠め、頬から血が出る。

 それは僕の足元に突き刺さった。


 ……矢?


 軌道としては、前方上空から。

 つまり、城の上から放たれている。


 そして続けざまに、何本も僕たち四人目掛けて的確に放たれていく。

 獣人を援護するように、正確に、容赦なく。


 僕は咄嗟に停滞空間生成魔術(スロウ・フィールド)を発動し躱す。

 他三人も、手にしている武器や簡易魔防壁を使い、躱し、いなしていく。


「この国最後の砦――王直属の弓兵軍。さっきのガラクタ相手に弓は通用しなかったが、お前たちみたいな、血の通った化け物であれば射貫くことができる」


 弓に気を取られていたノアに対し距離を詰め獣人は大剣をそのまま叩きつける。

 ノアは後方に跳躍しそれを回避するが、回避した先にも、的確に矢が飛んでくる。

 ノアはうっとおしそうに、それを太刀で弾いた。


「ちっ。面倒くさい」


「こりゃあれだな。先にあいつらをやった方がよさそうだな。クリス! いつものやつ頼むぜ!」


 『いつもの』……?


 僕に何をしろと言うんだ。

 グロテスクな光景を見せられて、不愉快な問答を聞かされて、ここに立っているってだけで限界なのに。

 この獣人たちを殺せと言われているのなら、僕はやりたくない。


 しかし、何もしなければそれは問題になるのか?

 じゃあもはや、いっそ獣人の味方になって、彼らを倒してしまおうか。


 人を殺すのは嫌だ。

 だから、撤退できる程度のダメージで彼らを痛めつけてこの場を収めれば、この場限りはそれで済む。


 でもそしたら、クリス()はどうなるんだ?

 いや、僕はどうでもいい。アイラは? 彼女の立場が悪くなるんじゃないか?


 冷静に考えろ。僕がこの場を収めたところで、事態は何も変わらない。

 数時間後か、後日か、分からないがどっちにしてもこの国――ルガビア獣人国の滅亡は避けられないだろう。


 だとしたら、僕ができることは、やり過ごすこと。

 適当に体調不良でも訴えて、『いつもの』が出来ないことにしよう。

 見『殺し』にするだけなら、僕にも耐えられるかもしれない。


「レオン君ごめん、『いつもの』は――」


「待ってクリス君!」


 僕の声に被せるようにセレナが声を上げた。


「クリス君の魔力を使うまでもないよ。この規模なら、この前完成した私の新魔術で、何とかなると思う」


「おいおいセレナ。お前じゃさすがに無理じゃねぇか? この規模はクリスか、ゼインクラスじゃねえと――」


「いいから任せて! 詠唱がちょっと長いから、レオン君、ノア君、カバーお願い!」


 自信たっぷりに、僕たちにそう宣言するとセレナは杖を構えた。


「へいへい。分かった。まあ、失敗してもどうとでもなるし、やらせてみるか」


 レオンは肩をすくめながらも、セレナの護衛体勢に入る。

「分かった」とノアも了承し八英傑の獣人のもとに斬りこむ。


「《風よ、空を裂き、大気を震わせよ。罪を犯せし者に、その刃を向けよ》」


 風の奔流が彼女の身体を中心に渦巻く。

 砂塵が舞い、周囲の空気がチリチリと音を立てる。


 セレナは無防備に詠唱を続ける最中、城から無数の矢が彼女に降り注ぐが、レオンの防壁魔術によりそれは防がれる。


「《彷徨いし竜、呼び寄せるは破壊の律動。地に渦巻く全ての流れを、我が手に収束せよ》」


 やがて風の奔流は掲げた杖の先に発生していた魔法陣に収束。

 その中心に周囲の大気が吸い寄せられる。


「な、なにを……!? ……ぐっ!?」


 八英傑の獣人はセレナの詠唱により発生している周囲の異常さ・異変に気付くが、ノアにその隙をつかれ、胴体に刃が入る。


「《封ぜられし大気の牙よ、今こそ目覚めよ。戒めの輪を断ち、"世界"を削り取れ!》」


 セレナは大きく息を吸った。


「『拡張型竜巻生成魔術(バルストーム・ブラスト)』!!!」






 轟音とともに、風が奔る。

 超巨大な竜巻が門壁を粉砕し、城へと向かう。

 それにより発生した周囲に起きている凄まじい突風で、体が飛ばされそうになる。


 竜巻は城に接触し、抉る。城の石壁が外側へ弾け飛ぶ。

 城の右下半分、そこに大穴を開けるよう抉っていく。


 そして竜巻が止み、出来たのは大穴。

 城の右下一面がまるごと、抉り取られた。

 内部の構造が露出し、間もなくして、床や壁が引きずられるように崩れていく。


 建材が崩れる音、金属が折れる音、そして何かが叫ぶような声。

 床が、壁が、重力に引かれるままに引きちぎれ、崩れていく。


 灰色の粉塵が舞い、視界が奪われる。


 粉塵を吸い僕は咳き込む。

 目に入り、涙が出る。

 音も何も聞こえない。


 しばらくして、ようやく視界が晴れる。

 あったはずの城は、瓦礫の山になっていた。

 何もかもが原型を成さず、ぐちゃぐちゃになっていた。


「見てクリス君! すごいでしょ!?」

 

 彼女は笑っていた。

 粉塵をまといながら、まるで褒めてほしそうに。

 健気で、純粋で、子供のような笑顔を僕に向ける。


 しかし僕の視線はそんな彼女の可愛らしい、美しい顔ではなく――


 瓦礫の下から漏れ出ていた赤い液体に釘付けになっていた。






「あ、ああ、あああ……あ゛ああああああああああああああああッ!!」


 八英傑の獣人が悲痛に吠える。

 その叫びとともに、獣人の身体が変貌していく。


 今まで『人間』に近かった肌が、灰色の体毛に覆われる。

 顔は狼のそれになり、元から大きかったその体が、さらに肥大していく。


 その姿は完全に『人』ではない、巨大な獣だった。


 そして涙を流した彼の瞳が僕たちを見据えた。


「ゼッタイ二、ユルサナイ……!――オマエタチヲ……オマエタチヲ……ミナゴロシニシテヤル!!!」


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