陽キャ転生
俺の人生はごくありふれた普通の人生だった。
小中高とそれなりに勉強、部活に励み、大学も東京にあるそれなりに頭のいい私立大学に入った。
大学に入ってからも、普通の充実した日々を送っていた。
普通にバイトして、サークルで遊んで、彼女作って、単位を取って、まさに模範的な大学生生活だった。
自分で言うのもなんだが、要領はそれなりに良い方だと思う。
突出して良いわけではないが、悪くもない、『普通』の人生のレールを今まで踏み外すことなく来れていた。
大学を卒業してからも、普通に会社で働いて、普通に結婚して、普通に子供を作って、普通に家買って、65になったら会社辞めて余生を過ごして、80くらいになったらボケて死ぬ。
そんな未来が視えていた。
もっと頭が良ければ、もっと運動神経が良ければ、あるいは何か特別な突出した才能が有れば、と思うことはある。予想外のことが起こらず、制御可能な人生は少し退屈に感じていた。しかしだからと言って、何か一発逆転して人生を変えてやろう、という気概も起きない。自分が特別な人間でないことは分かっているし、現状に大きな不満がある訳でも無かったからだ。
と、そんな感じで人生の展望を考えていたのだが、俺はある日、夜シフトのバイト上がりにトラックにはねられて死んだ。
人間は何の予兆もなく、運命の気まぐれで突如として死ぬことがあるらしい。
少なくとも、日々家に引き籠ってでもいない限りは、外に出る時点で交通事故による死のリスクが常にあるということだろう。
俺もそれは頭では分かっていたが、まさか自分がその日死ぬとは夢にも思っていなかった。
轢かれた時のことは今でも鮮明に覚えている。
死ぬほど痛い体の痛みと、強烈な死に対する恐怖。
そして、今まで積み上げてきたものが無くなる絶望感。
今までの努力がすべて無意味だったと考えるととてつもないやるせ無さを感じた。
まあ、本当に死ぬ場合はそんなこと考える間もなく、『無』になるのだろうが。
上述の感覚はすべて俺が死後の空間に至り、今、目を開けるまでに感じたことだった。
「ふむ。今のトラックの運ちゃんは居眠り運転だったようじゃ。まあ、お主の世界の物流業界も今は人手が足りんからのお。運ちゃんもお主も、不幸な事故じゃったな」
目を開けたら、真っ白の空間で、神様っぽい老人に開口一番そう言われた。
「あ、あれ……? 俺、死んだはずじゃあ……」
「うむ。本来であればお主は死に、『無』になるはずじゃった。しかし、不幸中の幸いというやつじゃな。お主は偶然にも選ばれた。お主が天文学的確率で生まれ、天文学的確率であの場所で死んだように、天文学的確率でお主は『選ばれた』のじゃ」
この展開は見覚えがある。確かこの前気まぐれにAmazonプライムで見た、しょうもないアニメの展開だ。
「お主は異世界転移して、新たな人生を歩むのじゃ」
やはり、アニメで見た展開と同じだ。
「……異世界ってどんな感じなんですか?」
「お主のイメージ通りじゃ。お主がわかる様に例えるなら、ドラゴンクエストとか、ファイナルファンタジーとか、その当たりの世界観に近いかのう」
その2つくらいはやった事がある。
いや寧ろ結構やってる寄りかもしれない。
どちらも何だかんだシリーズの3割くらいはプレイしたかもしれない。最近はあまりゲームはプレイしていなかったが。
そして、目の前にいる老人は俺がプレイ済みな事を知っていて、喩えたのだろうか。だとしたら、この老人は神様みたいなもんなのか。
「そうですか。ゲームする分には楽しかったですが、実際に行くとなったら怖いですね。俺は日本のごく普通の大学生なんで。異世界に行ったとしてやっていけるかどうか」
「なに、お主も分かっているじゃろうに。そのまま転移させる訳なかろう。お主は『選ばれたのじゃ』。それなりの代償を払われての」
神はこほんと咳払いをし、微笑みながら続ける。
「異世界転移するにあたり、お主に『異能』を授ける。なんでも、好きな能力を言うが良い」
好きな能力か、急にそんなこと言われてもな……。
こっちはまだ現実世界に未練があるってのに。
正直今は、死んだ後の人生なんてどうでもいい気分だ。
……って思っててもしょうがないな。
俺はこれまで、人生のターニングポイントは外してこなかった。やるべき時にやるべき事はやって来たつもりだ。だからこそ、『普通』の人生のレールを歩めていた気がする。
「能力って何でも良いんですか?」
「うむ。それなりの代償が払われたからな。大抵の願いは叶えられるぞ」
俺が欲しい能力。
死んだ直後だからこそ、思う。
俺が得るべき能力は
「死なない能力が欲しい」
「ふむ。不老不死が望みか?」
「いや、不老不死に成りたいわけじゃないんです。ただ、さっきみたいに何の猶予もなく、心構えも無く死ぬのは嫌だ。俺は今度こそ普通に生きて、普通に幸せになって、普通に死にたいんです」
それを聞き神は俺の肩に触れ微笑んだ。
「ふむ、良い顔だ。そして、良い答えだ。よかろう。お主に相応しい『異能』を授けよう」
俺の肩に触れた神の手が光出す。
そしてその光のエネルギーの流れが俺の中に入っていく。
「うおっすげえ……! なんか、力が溢れる様な感覚がありますよ。これが『異能』ってやつですか?」
「いや、それは転移者ステータスじゃ。異世界転移者は代償の量にもよるが、とびきり高いステータスがデフォルトで与えられるのじゃ」
「はあ。では、『異能』はまた別であるんですか?」
「うむ。お主に与えた『異能』は『無敵』じゃ。すべての危害がお主には効かなくなった。お主が老衰以外で死ぬ事は無いじゃろう」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「はぁっ!」
転移者は僕に標的を定め、接近し攻撃を仕掛けてくる。
しかし、その攻撃は事前に張っておいた停滞空間生成魔術で歪められる。
僕は彼の近接攻撃を余裕をもってかわすことができた。
「……ん? 体が思うように動かないな。いや、これも魔法ってやつなのか? お前、さっき倒した取り巻き2人と違うな。……参ったな。ゲームだったら雑魚はすぐ片づけて、ボス戦に集中するのが定石なんだが」
こっちも参ったな。
いつも通りほぼ何もせず、この戦いは傍観できると思っていたのに。
特に、今回の相手は『人』だからあまり干渉したくなかった。
とは言え、このまま避け続けるのもジリ貧だし不自然だ。
彼の腕当たりを魔術で吹っ飛ばして、大人しくなってもらうとするか。
「『空間創造魔術』」
ダンジョンで使用した時と同様、彼の右腕の座標に魔術を放つ。
彼の腕中に『何もない空間』が生成され、腕が引きちぎれる――筈だった。
「ん……? 何かしたのか?」
しかし、何も起こらなかった。
転移者は僕が詠唱したにもかかわらず、何も起きなかったため不思議に思い周囲を見渡している。
魔術が発動しなかったのか?
あるいは効かなくなっているのか。
「『空間切断魔術』」
今度は空間を切断する魔術を放つ。
この魔術は空間を切断する魔術の斬撃だ。
斬撃は彼を素通りして、後ろにあるものや壁に接触し切り分けていく。
察しの悪い僕でもさすがに分かった。
おそらくこれが彼の『異能』だ。
「気づいたようだな。悪いけど、俺を倒すことは不可能だ。どんな攻撃をしかけようと俺には通用しない」
転移者は一呼吸おき、構えを解く。
「ってところで、俺を殺すのを諦めてくれると助かるんだけど。俺も人、殺したくないし。さっきの二人にだって加減して攻撃したから、多分生きている筈だよ」
本当かよ、と思いつつも僕にとっては願ったり叶ったりな提案だ。
「どうしますか? 勇者様。彼はこう言ってますが。悪い人では無さそうですし、彼を倒すのは止めませんか」
提案した僕にアレスは冷たく答える。
「その提案は却下だ。いい奴だろうが悪い奴だろうがあいつは異世界の人間だ。俺たちとは決定的に違う。分かり合えることは無い。共存を試みようが、絶対に歪みが生じるんだよ」
アレスは携えていた剣を抜き出す。
古びていて、柄の部分は歴史を感じるが、刃は研ぎ澄まされた銀色を放っている。
「そして俺は『勇者』として、世界の歪みを治さなければならない」




