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ベルサリア王城

 キリシアに下ったベルサリア国の王族。

 その末路は、少なくとも「僕」から見れば、それほど悪くない様に思えた。

 彼らは特に処刑や追放等されることはなく、あくまで、この国の象徴として生かされる予定だった。

 日本で言う天皇みたいなものだ。政治的、軍事的な権力は持たないが、象徴として生かされ、それなりに良い暮らしができたのだろう。


 彼らはベルサリア王城の一角で、元々の家臣等と共に軟禁されていた。


 僕たちはその一室、ベルサリアの王、ロムルス・ベルサリアの居室に足を踏み入れた。


 部屋の中にはメイドが1人、男の家臣が1人。

 そして、見るからに王様っぽい威厳のあるグレー長髪の老人、王ロムルスが窓の外を見つめて座っていた。


 ロムルスは僕たちの入室に気付き、臆する事なくこちらを向く。


「これはこれはアレス陛下。そんなに大勢引き連れて、もはや隠居するしか役割のない私ごときに、一体何用ですかな」


「察しが悪いな、ロムルス。『転移者』。その行方について聞きに来た」


 ロムルスは長い顎髭を触りながら、表情を変える事なく答える。


「ああ。またその話でございますか。それについては散々、そちらの兵士から聞かれましたよ。私は何も知りませんな」


 ロムルスはとぼけている。

 ヴァルゼリーネ卿に吐かせた情報から、彼と『転移者』が関わっている事を僕たちは知っていた。


「ヴァルゼリーネ家は知っているな?」


「ええ、もちろん知っていますとも。以前はベルサリアの3大貴族と呼ばれるくらい、力ある貴族家でしたよ。今となっては何の権威もありませんが――」


「その屋敷の地下室から、『転移者』召喚の痕跡が見つかった。当主によれば、某ベルサリア王に命じられて地下室を使わせたらしいのだが」


 にやけながら詰めるアレスに対し、ロムルスは観念した様にため息を吐く。


「はあ。そこまで把握済みか。キリシアの調査能力を侮っていた様だ」


 ロムルスのキャラが変わる。

 客観的に見れば彼は追い詰められている状況なのだが、焦る様子が一切見えない。


「キリシアには優秀な魔術師が揃っているんでな。それにしても、まあ、とんだ愚行だな。大局は決したんだ。『転移者』召喚など博打に手を染めず、大人しく飼われていれば良いものを」


 ロムルスの眉がわずかに動き、怒りがその顔に浮かび上がる。

 アレスの言葉に効いたのか、彼は表情を一変させ、こちらを睨みつけた。


「私はベルサリアの王だ。貴様らに飼われ、王として生きられないのであれば、死んでいるのと変わらん」


 アレスもその言葉をきっかけに顔をしかめる。彼はクエストが始まってから今まで、ほとんど機嫌が良さそうだったが、初めて不快感を露わにする。


「傲慢だな。極めて不快だ。なぜそれほどの無能でありながら、不相応の生き方を望むのか。無能は大人しく何も考えず、何も成さず生きていれば良いものを」


「私が無能だと……?」


「ああ。こんなことをしでかす時点で、お前は無能なんだよ。『転移者』の召喚自体、世界全体を危険に晒しうる極めて愚かな行為だ。それは流石のお前でも理解しているだろう? そして、仮に、俺たちを打倒しうる『転移者』を召喚できたとしよう。それほどの力を持つ『転移者』をお前はいずれ制御できなくなる。そうなれば飼い主がキリシアから『転移者』に変わるだけだ。どちらにせよ、お前は王として生きる事はできない」


「ふっ。貴様がそう考えるのは、貴様に人心を得る才が無いからだ。『転移者』とて1人の人間。私にかかれば人心掌握など容易い」


「人心掌握だと? 笑わせるな。お前がそれを容易いと錯覚しているのは、お前に権威と力があったからだ。力で押さえつけていただけに過ぎない。そもそも、心などと言う不確定要素で抑えようとする発想自体がナンセンスだ。王たるもの理論的で、合理的で、絶対でなければならない。でなければ民を統治し、幸せにすることなど、決してできない」


 アレスの口から『幸せ』のワードが出た瞬間、ロムルスは噴き出すように笑った。


「しっ、幸せだと!? よりにもよって貴様の口からそんな青臭い言葉がでるとは! これは傑作だ! ふははははは」


 ロムルスはアレスを馬鹿にする様に嘲笑うが、アレスは動じない。むしろロムルスを憐んでいる様な表情だ。


「陛下、もう良いでしょう。こんなのと話していても不愉快なだけですよ。私が終わらせますよ」


 ドロシーは問答を聞いて不快そうな表情を浮かべ、ロムルスの前に立ち手をかざした。


「『脳操作魔術(ニューロ・ドミネ)』――」


 詠唱する瞬間、1人の男がドロシーに襲いかかる。

 それはこの部屋にいた、ロムルスに仕えている家臣の男だった。


 彼は前回のダンジョンの最終層ボスと遜色ない速さでドロシーとの距離を詰め、拳を振り上げる。


「来ると思っていたよ、『転移者』クン」


 しかし、ドロシーはその攻撃を予期していたかのように、顔面に放たれたストレートをギリギリでかわした。


「っ!?」


 男は一瞬、驚いた表情を浮かべる。まさか避けられるとは思っていなかったのだろう。


 そう、この部屋に入る前から僕たちは、部屋にいる王様以外の人間に対して最大限の注意を払っていた。『転移者』に身を隠したりする『異能』がない限りは、王様の周辺にいる人物に紛れている可能性が高いと見ていた。つまり、目に見える範囲で警戒するべきは王に仕えていたメイドと家臣。今回は男の家臣の方が当たりだった様だ。


 ドロシーは攻撃を躱すと、瞬時に反撃に転じた。三傑とだけあって、彼女の打撃は今まで見たクラスメイトたちの動きとは一線を画していた。


 ドロシーが繰り出した肘打ち、ブロー、ハイキックなどの打撃はすべて転移者に命中する。


「……あれ?」


 が、繰り出したドロシーは困惑する。


 打撃は確かに当たっていた。

 にもかかわらず、それに伴う衝撃や体の凹み等が一切発生していなかった。

 離れた場所から見ていた僕でさえ、その異様さに気づいた。


「はぁっ!!!」


 転移者は渾身のパンチを放ち、ドロシーを壁へと吹き飛ばす。

 彼女は壁に激突し、血を吐いてそのまま気を失った。


「『高火力爆破生成魔術(エクスパルス・ブラスト)』!!!」


 間髪を入れずゼインが詠唱、転移者周囲に複数の高密度の爆発が発生する。

 普通であれば、この爆発に巻き込まれた人間は一溜りもなくなるだろう。


「っ!? がはっ!」


 しかし、爆発後間もなく、煙中から青い光波が凄まじいスピードで放たれゼインに命中した。

 おそらく転移者の攻撃だ。

 ゼインはドロシー同様気絶し、地面に伏す。


 そして、煙が晴れると転移者の姿が見えた。


 家臣っぽい朱色のジャケットに黒のスラックス。

 黒髪で、改めてよく見るとアジア系の顔をしている。

 目は細めで、日本でどこにでもいそうな顔だ。


 そして驚くべきことに彼は、あの爆発の中全くダメージを受けていなかった。


「ほう。ゼインの魔術は『Sクラス』トップの威力の筈だが、それを食らって無傷か」


 ドロシー、ゼインの二人がやられたというのに、アレスは全く動じることなく感心している。

 なぜこんなに冷静なのだろう。

 僕は相当強いであろうクラスメイト二人が一瞬でやられ、とても焦っている。


 転移者は僕たちに向かい、頭をポリポリと書きながら、初めて言葉を発した。


「王様から、世界最強の連中が俺を殺しに来るって聞いてたけど、大したことなさそうだな。むしろ弱すぎて、逆に大人げない感じになっちまってるよ」


 転移者はほくそ笑む。


「いや、この異世界トップの連中がこの程度って事は……つまり俺がこの異世界最強か!? やっべえ。テンション上がってきたわ!」

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