ヴァルゼリーネ家
城前から魔導車を走らせること15分。
ヴァルゼリーネ家前に到着する。
門前で構えていた門番は、僕たちが乗っていたキリシア軍用魔導車を見て慌てて姿勢を正す。
そして魔導車からアレスが降り立つと、さらに強張った。
「アレス・キリシアだ。この家の主に用がある」
「は、はい! で、では、どうぞこちらに……」
貴族家の門番は恐々としながら僕らを屋敷中へ案内する。
ヴァルゼリーネ家の屋敷はそれなりに立派で、少なくともクリスが住んでいる屋敷の倍以上は広い。
屋敷のエントランスホールに入ると両側からカーブを描いて下へ降るでかい階段があった。
しばらくすると、おそらくこの家の主だろう、金糸の豪華な衣装の小太りのおじさんが小走りでその階段を降り、こちらに来た。
「こ、これはこれはキリシア皇帝陛下、ようこそお越しくださいました。ほ、本日はどのようなご用向きで?」
若干息切れしながら、おじさんはアレスに尋ねる。
「お出迎えありがとう、ヴァルゼリーネ卿。なに、そう畏まるな。大した用ではない。魔導車を走らせている途中で、この屋敷の立派な庭園が目に留まってな。少し中で、鑑賞させてもらえればと思ったのだよ」
『地図生成魔術』により、地下室はこの屋敷の庭にあることが分かっていた。
アレスは本当に性格が悪い。
塀に囲まれているこの屋敷の庭園なんて、魔導車の中からは一ミリも見えなかった。
「そ、そうでございますか。それでは、庭園ご案内の準備をいたしますので、どうか中でお茶など……」
「そう気を遣うな。今すぐ庭園が見たい。案内しろ」
おそらく、時間稼ぎを企てているヴァルゼリーネ卿に、アレスは少し語調強めに命令する。
「は、はい、承知いたしました。 ではこちらに……」
ヴァルゼリーネ卿は僕たちを屋敷の奥の方へ案内する。
「こちらが、当家自慢の庭園になります」
裏口だろう扉に着きそこを開くと、庭園があった。色鮮やかな花々があり、中央には立派な噴水がある、中々に立派な庭園だ。
「クリス」
「え? ……あ! 今映します」
アレスに呼ばれてすぐに意図を察し、僕は先ほど記録した地図を投影する。
詳細を確認すると、地下室入り口は噴水のすぐ裏側にあることが分かった。
その様子を見て、ヴァルゼリーネ卿は青ざめている。
どうやら僕たちは1発目で当たりを引いたらしい。
「ん? どうしたんだヴァルゼリーネ卿、そんな顔をして。俺たちはこの素晴らしい庭園を鑑賞しに来ただけだぞ。もしかして、例えばこの噴水の裏なんかに、何か見つかったらまずいものでもあるのか?」
アレスが言った瞬間、ヴァルゼリーネ卿は屋敷内へ走り出す。逃亡だ。
「おっと、だめだよおじさん」
「ぐぁっ!?」
それを一番近くにいたドロシーが取り押さえる。ヴァルゼリーネ卿はうつ向けに倒れ、ドロシーは地面にそれを押さえつけている。
「おい、やり過ぎるなよ。そいつにはこれから、洗いざらいガイドをしてもらうんだ」
「分かってますよ、陛下。『拘束魔術』」
ドロシーが詠唱するとヴァルゼリーネ卿の両手が拘束される。
「ありました! ここに地下室の入り口が」
平行して、ゼインが噴水裏の入口を発見する。
入り口はマンホールのような鉄板で閉ざされ、生い茂る草の中に半ば埋もれた状態であった。
「しかし、鍵がかかっていますね」
「鍵を取りに行かせるのは面倒だな。破壊しろ」
「分かりました。それでは少々離れていてください」
言ってすぐ、ゼインは詠唱する。
「『爆破生成魔術』!」
詠唱後、破裂音と共に小規模な爆発が発生。
地下室入り口の鉄板は吹き飛んだ。
その先にはやはり地下に続く階段がある。
「く、くそっ……! はなせ! 悪魔ども!」
「陛下〜、このおじさん、ご自身の状況があまり分かってないみたいです。すこし、『しつけ』ても良いですか〜?」
「ああ。大人しくさせろ」
ドロシーはヴァルゼリーネ卿の頭を握り、詠唱する。
「『脳操作魔術』」
「が、がぁああああああああ」
ヴァルゼリーネ卿は悲鳴をあげ苦しむ。
かなり苦しそうだが意識だけは保ち続けている。
ドロシーが絶妙に調整しているのだろう。
見ているだけでゾッとする。
そして30秒後、解かれる。
「はぁっ……、はぁっ……」
「おじさん、良い子にできるかな?」
にぃっとした表情のドロシーが尋ねると、無言でガクガクとヴァルゼリーネ卿は頷く。
そしてドロシーに持ち上げられながらゆっくりと立ち上がる。
「あ〜あ、おじさんの汗で手がベトベトだ。臭いし、まったく、嫌になるね」
そう言ってドロシーは手をヴァルゼリーネ卿の服で拭う。
「さて。用意が整った所で、皆で地下室に行こうではないか」
アレスが号令し僕たちは地下室前に集まる。
♦︎
噴水裏の地下室の階段を下る。
石造りで薄暗く、雰囲気としては前に行ったダンジョンに近い。
階段を下り切ると、それなりに幅のある一本の通路となっていて、左右の壁に一つずつ扉がある。
また、通路を進んだ先の最奥にも大きな扉があり計3つの部屋がある様だ。
僕たちはまず左壁の扉の部屋に入った。
その部屋は埃っぽく、多くの分厚い本や、得体の知れない像、杯などが置いてあった。
そして最奥には髭の生えた老人の大きな石像(イメージ通りの神様みたいな感じ)があり、その手前は祭壇となっている。
「おお、『邪神ゼウス』の石像だな。なかなかに立派だ」
石像を見てアレスは感嘆する。
キリシアから見れば、邪教の神に当たる石像だが、アレス個人としてはそれを見て特に不快感等は感じないらしい。
「……こっちにある本はゼオフィス教の経典、そしてこの杯もゼオフィス教の印が刻まれています。キリシアであればどれも、持っているだけで重罪になる代物ですね」
埃を払いながら、ゼインは宗教物品を手に取り観察する。
「さて、ここまで証拠が揃っているがヴァルゼリーネ卿。貴様はゼオフィスの信者か?」
「ち、違う! 確かに大昔、ヴァルゼリーネ家はゼオフィス教を信仰していた。しかし儂も、少なくとも先代も、ゼオフィス教は信仰しておらん! 儂とてむしろ、こんな邪教は忌みておる! この地下室ごと燃やして埋めてしまいたいくらいだった」
「では何故それをしなかった?」
「そ、それは……」
ヴァルゼリーネ卿は口を紡ぐ。
その様子を見たドロシーは彼の首をぐっと握り、脅迫する。
「おじさん?」
「ひっ……!」
「まあよせ、ドロシー。言えない時点で答えを言っている様なものだ。ベルサリア王家の命令だろう」
アレスが諭すと、ドロシーは手を離す。
「では続いて、対面の部屋に行こうか」
階段から来た方向を基準として、通路の右側の部屋に入る。
こちらは埃っぽさなどはなく寧ろ、最近まで頻繁に使われていたような痕跡がある。大量の本、現代の魔道具、机、椅子とあり、研究室に近い。
本を手に取ってみると、案の定その本は魔術書の様だった。ただし、現代の魔術式ではない、おそらく古代魔術書のようだ。
「ふむ、確定だな。ラプツェル。地上に戻り、兵達をここに集めろ」
「承知いたしました、アレス様」
アレスの命令によりラプツェルは走り、地上の方へ行く。
「おいクリス、あまり中を見るな」
「え!? あ、すみません」
アレスに注意されたので本を元に戻す。
そういえばダンジョンでも、古代魔術書はデリケートな扱いをされていたな。
「では最後、メインディッシュへ行こうか」
僕たちは最後の、通路先の扉を開き中に入る。
そこはこれまでの部屋よりも格段に広い、部屋というより広間だった。
中央には古びた巨大な台座があり、台座上には巨大で緻密な魔法陣が刻まれていた。
そして、魔法陣は赤黒く染まっている。
先んじてゼインが台座に乗り確認する。
「台座は転移者召喚用古代魔道具。……そして、魔法陣に血痕、確定ですね」
これが転移者召喚の痕跡らしい。
想像していたより規模が大きい。
そして台座中央に立つとすこし血生臭く、嫌な感じだ。
「では、ヴァルゼリーネ卿。知っている事をすべて話してもらおうか」
「わ、儂は何も知らん! 終戦前、ベルサリア王に命じられ、少しの間この地下室を貸したのは認める! しかし、それ以上は儂も何も知らんのだ!」
ヴァルゼリーネ卿はひどく焦り、狼狽しながら言った。
「うんうん。それが嘘であれ本当であれ、私の魔術の前では関係ないんだよ」
言いながらドロシーが前に立つと彼は尻餅をつく。
そしてドロシーは彼の頭に手をかざして言った。
「『脳操作魔術』」




