ベルサリアの監獄
ベルサリアに着き、最初に魔導車を停車した場所は王城の目の前だった。
王城は一国の城と言うだけあり、かなり大きい。
国会議事堂くらいの幅で、都庁くらいの高さの城だ。
城周辺は戦争があった割には特に崩れたり割れたりした様子もない。おそらく前段階で決着が着き、ここら一帯は綺麗なままキリシアに開け渡されたのだろう。
そして最初の目的地であるベルサリアの監獄は、なんて事はない、ベルサリア王城の地下にあった。
城の中はほぼキリシア帝国兵が占拠していて、見張りや警護は帝国兵が行っていたため、僕たちは顔パスで、地下の監獄まで入ることができた。
地下の監獄はまさにイメージ通りの監獄で、薄暗い中一定間隔で蝋が灯っていて、石の壁や床、そして鉄格子がある。
僕たち5人は監獄の中を散策していた。
「それにしても、本当に空ですね。最初からこの状態だったのでしょうか」
歩きながら、ゼインが呟く。
「はい、最初に帝国兵が発見した時から、牢獄内に人は居らず、生活の痕跡もない状態だったと報告されています」
監獄内は人は愚か、生活臭だったりの人間的な臭いが全くしなかった。空気感としては山の中の洞窟に近い感じがする。
「囚人を移動させたとして、痕跡になるような物は粗方消しているのだろうな。ここを調べてもあまり意味がないだろう」
言いながらアレスは欠伸をする。
彼はここで何か手掛かりを得られると考えては無さそうだ。
その意見に対しドロシーが口を出す。
「証拠がなくても、イメージを掴むのに役には立ちますよ、陛下。例えば、まあ事前分かっていた事ではありますが、この立地。王城のすぐ下に置くと言うことは、囚人をなんらかの手札として活用したい事が読み取れます」
こうした世界の監獄では、罪を犯した王族や貴族、敵国の人質を閉じ込めておき、交渉の材料にするのは常套手段だ。囚人を扱いやすい様にすぐ手元に置いておくと言う理屈だろう。
その背景を考えれば、監獄に1人の囚人や、生活の痕跡もないのは確かに不自然である。
「さらにここの作りは極めて規則的に並んでいます。丁寧に区画ごとにエリア名が振られていますし、檻ごとに番号まで振り当てられています。数もざっと見た感じ均等。私にはこれが囚人を一まとまりのストックとしてるように見えますね」
監獄の作りは、中央に一本の大きい道があり、そこから枝分かれする形で分岐している。つまり、魚の骨状になっている。脊椎から横に出る骨一本一本の長さは確かに均等だった。そして彼女が言っているよう丁寧な振り当てがされているので全体の収容人数がざっと計算できて、200人くらいなのが見て取れる。
「ふむ。ではドロシー、お前は転移者召喚のためにここが作られたと言いたいのか?」
「転移者召喚以外にも生贄を扱う禁術はありますからね。ここはキリシアと違って文明レベルも人権意識も低そうなので、そう言った事が横行していたのかもしれません」
「ああ、なんと言う事だ……。人命をストック扱いとは」
アレスはわざとらしく頭に片手を付け、嘆かわしそうなポーズをする。
「俺が、この国を正しく導いてやらなければならないな。人権意識、コンプライアンス、道徳。人としての正しい在り方をこの地の人々に根付かせて行かねば」
アレスは顔を上げ、ぐっと拳を握るポーズをする。
その様子を見たラプツェルがアレスに向い歓喜の声を上げる。
「『勇者』として、素晴らしいお心構えです! アレス様。そのお力でこの国の民衆たちを、あるべき姿へ導いてあげてください!」
僕にはアレスが心にもない事を言っているようにしか見えなかった。いや僕だけじゃない。ドロシーも演劇するアレスと、騙されるラプツェルを見て吹き出しそうになるのを堪えている。
ゼインは僕と同じく、ただただ困惑している。
「くっ、くく……こほん。失礼。禁術にはそれ用の魔道具と、発動にはそれなりに高位の魔術師が必要です。この監獄の立地から考えても、儀式は城周辺で行われたと見て良いでしょう」
「なるほどな。ではクリス、お前の出番だな」
「え?」
僕は急に振られてドキッとした。
♦︎
監獄を後にし、城門前に僕たちは戻った。
城周辺にあると仮定した、転生者召喚の儀式が行われた場所を特定する為だ。
召喚の儀式には、それなりの広さが必要になり、また公にして良い物でもない。だから大抵は隠し地下室にそれ用の施設をこしらえるらしい。(本当にこの世界は地下室が多い)
そこで、クリスの魔術である。
ダンジョンでも使ったこの魔術を広範囲で使用すれば、地下を含めた城周囲のマップが生成可能だ。
「『地図生成魔術』」
一先ず、半径5km位のここら一体の地図を生成した。
ホログラム状にこの城下町の立体的な地図が映る。
地図の地下側を注目すると、小粒な地下室は点々とあり、規模の広いものが7箇所くらいあった。
「怪しそうなのは7箇所か、多いな」
ホログラムを見ながら、アレスは怠そうに呟く。
「いずれも、貴族屋敷の下にありますね。この内の4箇所は事前に帝国兵によって調査済みの場所です。特に隠されても居らず、不審な点は無かったそうです」
間を挟まずラプツェルが言った。
それにしても、ラプツェルさんはなんでも知っているな。帝国で調べた全ての情報が彼女の頭には入っていそうだ。
「裏返せば、この内3つの貴族家は地下室を秘匿していたのか。いい度胸だ」
皮肉げにアレスは言う。
次期トップに目をつけられた3つの貴族家は今後立場が危うくなるだろう。
そして、ラプツェルはホログラムに指を刺しながら解説する。
「秘匿していた貴族家は左から、ヴァルゼリーネ家、アストレイシュ家、ベリディリオン家ですね。……私の見解ですとこの中で1番怪しいのはヴァルゼリーネ家。噂レベルですが、過去にゼオフィス教を崇拝をしていたとの事です」
「ほう。まさにではないか。いずれにせよ、左から順に潰していくとするか」
―ゼオフィス教。
この宗教については資料の補足に書いてあった。
もともと、転移者召喚魔術はこのゼオフィス教から生まれたと言われている。
転移者召喚魔術により、異次元にいるゼオフィス教の神、『邪神ゼウス』と繋がる事ができる。
そして100の人命を捧げる事で、対価として邪神ゼウスは異世界の人間に『異能』を持たせ、この世界に転移させるそうだ。
それにしても、貴族だの宗教だの生々しい話になってきたなぁ。
そういえば現実世界でも政治と宗教が繋がってたとかあったな。
現実世界も異世界も、上の方でやっている事は変わらないらしい。




