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三傑

「やあやあ、クリストファー君」


 D104に入ると、席についていたドロシーがにやにやしながら軽く手を振ってきた。

 僕は真顔で会釈を返しつつ、彼女の隣の席に座った。


「こんにちは、ドロシーさん。それより、昨日はやってくれたよね。あの後、アイラの機嫌を直すの大変だったんだよ」


 それを聞いてドロシーはわざとらしく肩をすくめる。


「私はローラに乗っかっただけさ。悪いのはローラだよ。それに、そもそも私は本気のつもりだったのだけれど。君は乙女の純粋な恋心をそんな風に冗談扱いするのかい? ひどい男だ」


 ……ミツェルさんが言ってたことを主張してきたな。

 ただ、表情を見る限りそんなことは少しも思ってなさそうだ。

 やはり彼女は結構手ごわそうな性格だ。色々と言いくるめられそうな気がする。


「そんなこと言って、僕が本気になったらそれこそどうするんだい? 僕をその気にさせるだけさせといて、そんなつもり無かったと振るつもりかい? ちなみに今僕は話しているうちにドロシーさんをそういう対象として意識して、現在進行形でドキドキしているよ。ドロシーさん近くで見るとすごいまつ毛長いんだね。いいにおいもするし。良かったらこの後一緒にご飯でも行こうよ」


 僕が真顔でそう言うと、ドロシーは少しひいた顔をした。


「……君、そんなキャラだったっけ? 別に一緒にご飯に行くのは構わないけれど」


 勝った。あの飄々としていた彼女を戸惑わせることができた。

 これでお返し完了としよう。


「聞き捨てならないな。この後クリスは俺と研究進捗の共有をすると決まっている。魔女め、どうやって我が親友をたぶらかした?」


 ちょうど、D104の入り口からゼイン(細身の超絶イケメン。切れ長の青い目。真ん中分け緑の中髪。身長180cmくらい)が入ってきていた。

 彼も今回のクエストに選ばれたうちの一人だ。


 ちなみに彼を見るのは今日が初だ。

 僕が今まで教室にいた日、彼はおそらく遠征等に行っていて見られなかったのだろう。

 そしてセリフから察するにどうやらクリスは彼と親友らしい。


 ゼインのセリフを聞き、ドロシーは戸惑っていた様子から調子を取り戻し、にやにやとした通常時モードに戻った。


「さあね。たぶん、単純な私の美貌と色香に惚れてしまったんだろうね。悪いね、君の親友は私が寝とってしまった」


「貴様……!」


 ……どうやら彼らは仲が悪いようだ。


 ゼインは僕の隣に着席した。


「クリス、正気を取り戻せ。君はこの悪い魔女に騙されている。おそらくどこかで呪いをかけられたんだろう。いや、君ほどの男が呪いにかかるとは考えにくいが、この魔女はどんな卑怯な手を使ってきても不思議じゃない。念のため、俺が解呪の魔術を使おう」


 ゼインは僕の手を取り心配そうにこう言った。

 クリスは慕われているようだが、この人も一段と癖が強そうだ。


「……ゼイン君、さすがにそれは私に対して失礼過ぎやしないかい? 同じクラスメイトには……いや、『三傑』には最低限のリスペクトを払ってもらいたいものだよ」


「ふっ。俺は貴様を『三傑』と認めていない。クリスと俺に貴様が並んでいるとは到底思えん。枠が空いていたから、幸運にもその席につけただけだろう」


「ふ~ん? クリストファー君はともかく、君に私が劣っていると思ったことはないよ。何なら今ここで、試してみようか」


「望むところだ」


 僕を挟んで睨み合い、両者席を立ち上がる。

 今までのクエストはみんな仲睦まじくやってきたからこんなのは初めてだ。

 今回のクエストが心配になってきた。


「……みなさん、よろしいでしょうか?」


 バトルが始まるすんでのところで声がかかる。


 前を向くと、さっきまで居なかったはずの女性が教壇上に立っていた。

 二人の喧嘩に気を取られていたとはいえ全く気配なく、気づいたらそこにいた。


 その女性はメイド服で……あれ……


「ミツェルさん?」


 ミツェルさんだった。


 僕がそう言うと、ミツェルさんは少し首を傾げた。


「はい……? ああ! クリス様。私はミツェルではありません。ミツェルの妹のラプツェルです」


 妹だった。

 あの人妹がいたのか。

 見かけ上は全く見分けがつかないくらい似ている。


「私は現在アレス様の専属メイドを務めさせていただいてます。もしかしたら姉と同じように今後、ジョブローテーションでクリス様に仕えさせていただく可能性はありますが。その時は何卒よろしくお願いいたします」


 メイドにジョブローテーションがあるのか?

 というか、勇者のメイドとクリスのメイドは同じ組織?

 そしてミツェルさんは今後出て行っちゃう可能性もあるの?

 ……頭がこんがらがってきた。色んな情報を一遍に出さないでほしい。


「今日はアレス様からの勅令クエストになります。みなさんよろしいですか?」


 それを聞き、立ち上がっていた二人は席に着いた。

 こういうところはしっかり大人だ。


「では、例によってパスワードを」


 ラプツェルは黒板にパスワードを書く。

 ディザスタードラゴンの時と同じ、秘匿性の高いクエストなのだろう。


 僕たちは机の上の資料のパスワードを解除する。


 クエストの題目は


『属国ベルサリアで行われる臣従式での勇者の護衛及び転移者の討伐』


 と書かれていた。


「まず、今回のクエストは端的に申し上げるとアレス様の護衛です。先の戦いでベルサリアを下し、属国としたことはみなさんご存知だと思います。今回はそのベルサリア国が、キリシア帝国に下ったことを正式に発令する臣従式を行います。当然発令はアレス様がベルサリアの民衆に向けて行いますので、その際の護衛が必要になります」


 昨日会ったあの勇者の護衛か。

 そして、衝撃の事実だがこの国戦争とかしてたのか……いや、異世界だし当たり前っちゃ当たり前か。

 もっとちゃんとこの異世界の新聞とか読んでおけば良かった。


「もちろん、ただの発令式であれば皆様に依頼することは無かったでしょう。適当な帝国騎士に形だけの護衛をさせておけば、問題ございません。いかなる敵、暗殺もアレス様には通用しませんからね。ただし、今回はこの世界で最も警戒すべき災厄が懸念されています」


「……『転移者』か」


「まあ、だから私たちが呼ばれたのだろうね」


 ???

『転移者』ってなんだ?


「そう、恐るべき災厄『転移者』が召喚された痕跡がベルサリアで発見されました。ご存じの通り『転移者』は別世界から来た、特殊な『異能』を持つ人間。その『異能』は世界のパワーバランスを一瞬で崩壊させうる可能性を秘めています。ベルサリア国の王族は白を切っていますが、最後の悪あがきとして賭けに出たのでしょう」


 別世界から来たって……それって「僕」じゃないか?

 いやでも、僕は召喚されたって感じじゃないし、魔術は使えるけど『異能』なんて使えないから違うのか。


「そこで、今回は『転移者』の首を以って、ベルサリアの王族を断罪します。皆様は今まで同様、アレス様と共に『転移者』の討伐を行ってください」

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