最終層ボス2
準備を終え、ゆっくりと化け物の方に向かう。
「来いよ、化け物」
そしてそう言い放ちながら構えを解き、顎を上げながら僕は化け物を見下した。
「キシ?」
舐められていることを感じ取ったのか、化け物は再び標的を僕に向けこちらに歩いてくる。うまくヘイトを僕の方に寄せられた。
先ほどまでおどけていた様子だった化け物は、僕が恐怖を感じていないことに腹を立てたのか、雰囲気が変わる。こいつはそれなりに知能があるようだ。
距離5mほどまで互いが近づく。
僕がわざとらしく欠伸をしたところで、化け物は殴り掛かってきた。
「ほいっと」
しかし、レオンの弾丸と遜色ないスピードで放たれたそれを僕は余裕で躱す。
「……ガ?」
化け物は一瞬違和感を持ったようだが、続けて拳と蹴りを繰り出す。
だがその攻撃も僕にかすめることもなく避けられる。
「『空間創造魔術』」
僕は詠唱し、今度は化け物の腹ではなく首部分に何もない空間を生成。
化け物の頭が跳ねるが、すぐに胴体から頭を再生された。
「なるほど。核は頭だと思ったけど違うのか」
空間内の物質を消滅させる魔術、『物質消去魔術』は射程が短く効果範囲が狭い。故に、再生の中心である核を特定する必要がある。
「フーーーー、フーーーーー!」
化け物は息まき怒りを見せ、再度、芸もなく殴りかかってくる。
「だから。当たらないって」
続けて繰り出される攻撃も余裕でかわす。
それは先ほど唱えた魔術によって容易くなっていた。
停滞空間生成魔術。
この魔術は自分の周囲の時間の進む速さを1/5にする魔術だ。
つまり、僕に向かう攻撃は速さを落とし、威力に至っては1/25になる。
まあ身体強化魔術により強化された反射神経、俊敏性を以ってすればそもそも攻撃にあたることすらなくなるのだが。
魔防壁と違い、常に張ることができ、かつ魔力消費量も少ない。
『時間』と『空間』を併せたクリス専用の最強防御魔術だ。
僕は攻撃を余裕で避けながら、化け物の体を割き続けた。
数回に渡り、割かれた体から再生する箇所を確認すると再生発生箇所は化け物の胸、つまり心臓部当たりであることが分かった。
「ガ……ア……」
「そろそろ終わりにするか」
腕の再生が追いつかず、棒立ちになる化け物の心臓部に向け杖をかざし詠唱を始める。
「『物質消去』−−」
が、その瞬間僕の足の方に激痛が走る。見ると、割き落とされた化け物の手が僕の足首を掴んでいた。
「っ!? い゛っ」
意識が足に向き詠唱が中断される。
「キシャ♪」
「しまっ−−」
隙ができた僕に対し、化け物は渾身の蹴りをかます。
凄まじい速さで繰り出されたそれは、速度を1/5に落とされた状態であっても、僕を吹っ飛ばすには十分な威力だった。
「がはっ!」
僕は吹っ飛ばされ、広間の壁に打ち付けられる。
背中から身体中にかけ激しい痛みを感じる。
「キシャ!キシャシャシャシャシャシャーーヒィッヒィッーキシャシャシャシャシャ、ヒィッ!」
化け物は僕を出し抜いたことがよっぽど嬉しかったのか、腹を抱え地団駄を踏みながら爆笑している。
僕は痛みに悶えその場にうずくまる。
嘘だろ……?
この手札を持ってして、僕は負けるのか?
僕は現実世界で負け続けていたのは自分自身の能力のせいだと思っていた。
しかし、圧倒的で最強な魔術を持つクリスの能力を以てしても1匹の魔物にすら負けてしまった。
能力でなく「僕」に問題があるのか?
……いずれにせよもう終わりか。
僕にクリスは荷が重かったのだ。
この後はパーティメンバーに失望され、化け物に蹂躙され、無惨に死ぬことになるだろう。
「クリス君!」
痛みによりうずくまっている僕の方にローラが駆け寄ってくる。
そして、早急に治癒魔術を唱えてくれた。
「『治癒魔術』!」
「あ、ありがとう、ローラさん」
彼女もおそらく僕に失望しているだろう。
いや、いつもと違いすぎて驚いているのかもしれない。
僕はクリスを演じきれなかった。
ローラは唱えながら僕の背中をゆっくりと手で起こす。
そして少しの沈黙の後、迷いの表情を浮かべながら言った。
「……さっきね、クリス君が落ちた時、3人で話したんだ〜。ボクたちいっつも、クリス君に頼り過ぎてたんじゃないかって」
「……え?」
いや、寧ろ逆ではないだろうか。
ここに来るまで僕はほとんど何もしていなかった。
にも関わらずボス面でこのザマだ。
「何か起きても、どんな強いボスが出ても、クリス君ならなんとかしてくれるって、油断してた」
ローラは続ける。
「クリス君いつも、隙が無くて最強だったから。今もクリス君が傷を負うなんて初めてだから……ごめん、ちょっと焦っちゃってるかも」
ローラは明らかにいつもと様子が違う。
極限状態。若干ハイになりながら僕に話しかけることで平静を保っているような。明らかに焦っている。
僕のせいだ。
「そうだな。……いや、俺は焦りを通り越して、逆に冷静になってるわ」
治癒を受けているところ、僕らのカバーをするように駆けてきていたレオンは続ける。
「お前すら傷を負う相手。今まで出会ったことない最強の魔物だ。でもよ、幸いなことにあいつは俺らのことを舐め腐ってる。冷静にいつも通り4人でやれば問題ねぇ」
言う通り、化け物はいまだに笑い転げている。
仲間との会話中都合よく待ってくれる敵そのものだ。
「そだね〜。再生能力持ち対策のいつもの必殺コンボでいけそうだね。ミスティ、まだ魔力残ってるよね?」
ローラは平静さを取り戻し、いつも通りの感じでミスティアに問いかける。
「は、はい。言ったじゃないですか!賑やかしできる魔力は残こしとくって!それのためにって事です」
得意げにミスティアは答える。
そして3人は顔を合わせ、にぃっと笑みを浮かべた後、散会していった。
え……?何、必殺コンボって?
僕の知らない、お決まりのコンビネーションアタックとかがあるのか?
僕は何をすればいいんだ?
そして僕が勝手に憂鬱になっていたところ、なんでこの3人はノリノリなんだ。
なんなんだ?この疎外感は。
僕が戸惑いながら立ち上がる最中、最初に動いたのはローラだった。
「『魔導生命体召喚百粘塊』!」
ローラ目前の足元に魔法陣が出現する。
そこから体長50cmほどのスライムが続々と湧いて、出てきた順に化け物の方に立ち向かっていく。
「……キシャ?」
化け物は不思議そうな顔をしつつも、向かってくるスライムを殴り、踏みつける。
「キシャ、キシャシャシャ♪」
そして次第にそれが楽しくなっていき、向かってくるスライムを楽しそうに殺戮する。
100を超えるスライムを殺戮後、化け物の体と足元は粘性の高い液体でまみれていた。
「『氷結化魔術』!」
それを見計らいすかさず、ミスティアは詠唱する。
化け物が纏っていた液体が一瞬で固体化し、動きが止まる。
「ギ……ギ……」
化け物は力を入れミシミシと凍結を解こうとする。
化け物のパワーであれば直ぐに、纏っている氷を崩す事は造作もないだろう。
「『貫穿弾発砲魔術』!」
しかし、レオンによって放たれた弾丸により、それは阻止される。レオンが放った6つの弾丸は凍結している固体を綺麗に貫通し、化け物の節々を貫く。
節、つまり関節が無くなったことにより、化け物は凍結の中でダルマ状になり力を込めることができなくなる。
「「「クリス(君)!!!」」」
そして流石の僕も、ここまでお膳立てしてもらえれば、余裕を持って化け物に近づき、構えることができた。
「キ……キ……ガ……」
表情は分からないが、怯えるような鳴き声を吐く化け物の心臓部に向け僕は唱える。
「『物質消去魔術』」




