表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/32

最終層ボス

 パニックになる心境に反して、僕の脳と体は冷静に魔術を唱えた。


「『竜巻生成魔術(ウィンド・ブラスト)』!」


 落ち行く中、地面に向け竜巻が発射される。

 竜巻は地面と接触し反発。その風圧により僕は地面との衝突を避け、着地した。

 そのまま衝突していたら死んでいた、そのくらいの落下だった。


 着地後上を見ると、なぜか通ってきた穴が塞がっている。

 おそらく分断系トラップだったのだろう。


 とんだ失態だ。クリスだったらこんな失態は犯さないだろう。

 人に期待され、人を背負っている感覚。僕はそんな感覚を人生で一度も味わったことがないため、急な責任感と重圧により動揺してしまった。


 ……とは言え、悔やんでいても仕方ない。

 一先ず、現状確認。


「『地図生成魔術(マップ・リアージュ)』」


 落ちた個所からの空間情報を取得し投影する。

 見ると、この場所は9階層。他の道と隔離された道になっていて、本ルートとの合流は最終層直前までできない。


「……先に進むしかないか」


 こうなったらこうなったで、腹をくくるしかない。

 最終層直前まで行き、そこでみんなと合流だ。


 勇んで進み、道の角を曲がる。

 すると早速、ヒト型トカゲ系魔物3体、大型蛇系魔物1体が出現。


「やっぱそうだよな。これ、一人で戦うしかないんだよなぁ……」


 トカゲ系魔物は僕に気づくと、3体同時に襲い掛かってくる。

 それに対し、僕はバックステップしながら詠唱する。


「『火渦竜巻生成魔術(ファイア・ストーム)』」


 詠唱後、前方に炎の竜巻が発生し3体に命中、まとめて焼き焦がす。


 ……よし!うまく倒せた!


 この魔物は前階層にも出現していて、レオンは火の弾丸によって倒していた。弱点は把握済みだ。

 問題は蛇の魔物。あの魔物は今までで出会ってない。

 いままでのやり方であれば、大型の魔物はミスティアの氷柱による貫通で倒していた。


 続けて蛇の魔物に向け詠唱する。


「『氷柱生成魔術(アイシクル・ジャベル)』!」


 巨大な氷柱が生成され、蛇の魔物に向け発射される。

 氷柱は加速し魔物の腹部に到達するが、直撃後、氷柱は強靭な鱗により砕かれてしまった。


「カシャァァァッ…!」


 魔物は怒り、こちらへ向け突進してくる。


「うぉっと、『防壁生成魔術(レイヤー・ウォール)』!」


 とっさの詠唱により魔防壁を展開する。

 魔物は魔防壁と衝突し怯み、その間に僕は距離を取る。


 まずいな。

 氷柱は通じないし、この魔物の弱点属性もわからない。

 どうすればいいだろう。





 ……いや、手段はいくらでもあるか。

 限られた、ほんの少しの手札しかなかった前世の「僕」と違い、クリスは膨大な数の手札を持っている。

 これが駄目でも次の手札を、次の手札が駄目でもその次の手札を使えばいい。


 まずは試しに、この魔術を使ってみるか。





 ♦


「あ! クリス君! 無事で良かったぁ。もお~、心配したよ~」


 最終層直前の間に到着すると既に3人は揃っていた。

 ローラは僕に気づくと駆け寄ってきてハグする。


「ごめん、みんな。心配させちゃって」


「いやぁ、ここについたときは焦ったぜ。お前だったらとっくにここにたどり着いてるもんだと思ってたわ」


「私は、全く心配してなかったですよ」


 レオンはほっとしたように、ミスティアは平静に、言葉を返した。


「って言ってるけど、ミスティさっきまでこの世の終わりみたいな顔してたよ~?」


「そ、そんなことないです!」


『え~本当~?』と言いながら、ローラはミスティアをからかうためにハグを解く。もう少しハグしててほしかった。


 そしてやはりクリスは3人の精神的支柱だったのだろう、最終的にはみな安堵の表情を浮かべている。


「ところでみんな、道中は特に問題なかったかい?」


「ああ!雑魚敵は余裕だったな。ただ、罠が多くてな。ミスティアが若干魔力切れかもしれん」


「……うう、すみません。でも全くないわけじゃないですよ」


 ミスティアの戦力はあまり期待できなくなったか。


「……おーけー。分かったよ」


 さっきまでの僕であれば最終ボス直前のこの状況、動揺し、慌てふためき、気が気でなかっただろう。

 しかし今は違う。

 9階層でのチュートリアルによって僕は試行錯誤を行い、クリスの魔術の使い方、戦闘方法を完全に理解した。

 どんな魔物が来ようが負ける気がしない。こんなことができる魔術師が負けるわけがない。

 そう確信している。

 落とし穴に落ちたのはむしろ僥倖だった。


「じゃあみんな行こうか。後は僕に任せてよ」


 僕の言葉に3人は軽く笑みを浮かべ頷いた。




 その後階段を進むと、中ボス同様の何もない広間に到着する。


 広間の中心には半透明卵状の球体が不気味に輝いていた。

 球体には血管のような赤黒い根が纏わりついており、その根は地面を貫通し根付いている。


 到着し数秒後、僕たちに感づいたのだろう、球体の表面にひびが入り内部から赤い液体が滲み出てくる。

 そして殻が内側から破られ、中から現れたのは異形の化け物だった。


「グオオオオオオオオオッ!」


 化け物は人型ではあるが、目はない。代わりに無数の鋭い牙が並び、大きく裂けた口がある。

 体中(からだじゅう)に管が浮き上がっており、正真正銘の化け物だ。


 まあ、どんな化け物だろうが僕にとっては何も問題ないのだが。


「まずは僕がやるよ。みんな、後ろに下がってて」


 僕はそう言って杖を掲げ、詠唱した。


「『空間生成魔術(ディメンション・クリエイト)』」


 詠唱により、化け物の腹部を中心に()()()()()()が創造される。

 そして空間が発生したことで、化け物の上半身と下半身は離れ、体は分裂し血が噴き出す。


「ガアアアアアアッ!?」


 化け物は真っ二つに分かれた上半身側からうめき声をあげる。

 あっけなく討伐が完了した。


「ふっ。大したことなかったぜ」


 この魔術はクリスの得意とする『空間』の魔術の一つ。

 対象の座標を中心に何もない空間を創造することで、元々その座標に()った物体を、無理やりその中心の外側へずらす。結果としてその物体は形を保てなくなり、分裂する。


 魔術の対象は空間の座標であるため、反射も防御も不可能。まさしく最強の魔術である。

 中ボスの時点でこの魔術の仕様が分かっていればこれを使い、難なく倒せていただろう。

 まあこの魔術は魔力の消耗が多いため、温存できたと考えれば結果オーライか。


 僕が得意げにみんなの方を向くと、みんなは焦ったような表情で僕の方を見ていた。


「クリス君! うしろ!」


「え?」


 振り向くと、先ほど倒したはずの魔物が猛スピードでこちらに向かってくる。


「レ、『防壁生成魔術(レイヤー・ウォール)』!」


 化け物が鋭利な爪で僕を割こうとする瞬間、何とかギリギリのところで咄嗟に魔防壁を展開できた。


「あっぶねぇ……」


 化け物の爪と魔防壁が接触し、じりじりと鳴る。そして驚くことに、その爪は魔防壁にヒビをつけ始めていた。


 僕は危険を察知し、風魔術で風を起こし体を飛ばすことで化け物と距離を取る。

 距離を取り、改めて見ると化け物はなくなったはずの下半身を再生していることが分かった。


「キ…キシシシシシシ!」


 化け物は不気味に笑っている。そして距離を取った僕から標的を変え、ミスティアの方へ向かう。


「ひっ……あ、『氷柱生成魔術(アイシクル・ジャベル)』!」


 ミスティアが氷柱の魔術を放つも、化け物はその側面ギリギリへ容易く回避し、そのまま駆け抜ける。

 一瞬でミスティアの元へ到達し、その長い腕を振り上げた。


 まずい、あれじゃあ魔防壁を展開する暇がない。


「ミスティア!伏せろ!」


 レオンは化け物の振り上がった腕に三発の弾丸を発泡。

 腕が千切れ、化け物が一瞬硬直した隙に、ミスティアは退避する。


「キシシシ。シャーシャー♪」


 化け物は千切れた腕を再生しながら、楽しげに鳴く。


 高い再生能力と、俊敏性、そして破壊力。

 今までの魔物とは格が違う。

 3人には今まで無かった恐怖と焦りの表情が見える。


 しかし、それだけだ。

 再生能力程度でこの(クリス)は詰まない。


 クリスの手札には、一定空間を消滅させる魔術がある。

 それを使えば、再生する魔物など一撃で屠れる。


 ただ、その魔術には射程が短いデメリットがある。

 当てるにはあの魔物に近づかなければならない。

 だから魔物に接敵するため、身体強化魔術に加え、更なる強化魔術を詠唱する。


「『停滞空間生成魔術(スロウ・フィールド)』」


 詠唱後、僕の体を中心に半径2m程の空間が()()




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ