第七・五話 勇者たちの幕間
▽第七・五話 勇者たちの幕間
石動累という人間は、おおよそ物語の主人公に相応しい人物ではない。
当然、それは彼自身がもっとも知るところだ。
だから、異世界に召喚され、自分がゲームでいうところの主人公に選ばれた時、想像を絶する戸惑いがあった。
だが。
いざ勇者をやってみると、これは天職だ、と思わされた。
強く、暴力的で、我が儘で、エゴイストで、何もかもを力と立場でねじ伏せる……こんなにも自分に向いた職業はないだろう、と思った。
石動は強い。
失敗はあり得ない。成功しかあり得ない。
くだらない世界を捨て、この異世界で――
そう思っていたのは、ほんの数分前までのことだった。
「ふざけるな、ふざけるなふざけるな!」
叫び、前方のスケルトンに聖剣を振り下ろそうとして、真横から飛び掛かってきたゾンビ狼に邪魔されてしまう。
腹に牙が突き立ち、耐えがたい痛みが迸る。
「くそがああああ! どけろおおお! なんで足止めしてねえんだああ」
「石動! こっちには腕は二本しかねえんだよ!」
前衛のはずの合田は、石動の背後でスケルトン二体に囲まれていた。ステータスな能力は拳闘士である合田のほうが二回りは強いはずだ。
しかし、合田は二対一に押され、敵に有効打を与えられずにいた。
苛々する。
下級職の移木でもスケルトンを五体相手にして、三体を単独で撃破、残りの二体も石動たちの戦闘が終わるまで引きつけられていたではないか。
「川園、何してやがる! はやく魔法をうて! 俺ごと!」
「で、でも……」
「いいから早くしろ!」
川園は川園のほうでゾンビ狼に襲われている。それをヒーラーの黒木とともに牽制しているようだが、攻撃しない魔法使いはただの案山子だ。
川園は諦めたように、石動に向けて炎を放った。
幸い、石動は炎に強い適性がある。それはすなわち強力な耐性も所有している、ということに他ならない。
そして、アンデッドたるゾンビ狼は炎に弱い。
ゾンビ狼が燃え盛り、僅かに怯んだ隙に聖剣の柄で眼球を潰す。
床に転がったゾンビ狼にトドメを刺そうとして――今度は合田と交戦していたスケルトンが背後から斬りかかってきた。
慌てて回避する。
「……ちっ」
あり得ない。
陣形が整わない。本来ならば、合田が最前線に出て敵を引きつけ、川園が殲滅、石動は後衛を守りながら合田をサポートしてトドメを担当、回復や補助を黒木に任せる。
という形になっていたはずだ。
だが、何もかもがバラバラだった。
(さっきまでは上手く行ってたのに! 何が違う……っ)
石動は愚かではあるが、決して馬鹿というわけではない。
だから、『さっき』までとの違いについて、一瞬で気づいた。
――気づいてしまった。
さっきまでの戦い、陣形の指示を出していたのは石動ではない。
『灯火のオーブ起動。みんな、いったん落ち着いて』
『ヒーラー、回復!』
『石動くん、もう撤退しよう。これはもう無理だ』
……移木鏡夜は盗賊として敵を引きつけ、味方の戦闘の補助をしつつも、陣形の指示や作戦、連携、最適の判断を常に下していた。
雑魚を引きつけるだけの足手まとい、のはずなのに。
(俺のミスだってのか!? そんなわけねえ! あんな雑魚が役に立っていたわけがねえ!)
腹を押さえる。ゾンビ狼に噛まれた箇所はまだ回復してもらっていない。
もう無理だ。
勝ち目はない。……泣きそうになった石動は、聖剣を落とし、そして――
「――石動さまっ! 助太刀に参りました」
王国の騎士によって助けられたのだった。
これにて第一部の一章は終了となります。
引き続き、第一部の二章が開始となります。吸血鬼の力を得た状態で、勇者たちが拠点としている王城に潜入して……
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