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第四話 調整と剛力

       ▽第四話 調整と剛力

 さっそく『無双の怪力』を発動した。

 これはアクティブスキルなため、使用にはスタミナを用いる。また、このスキルを使っている間は、もの凄い勢いでスタミナが減少していく。


「……スタミナ再生、取ってみようかな」


 余らせていたスキルポイントで「スタミナ再生・低」を取得した。と、減少していく速度と再生する速度が拮抗した。

 これで鏡夜は常時、『無双の怪力』を使用できるようになったのだ。


 盗賊スキル『隠密』を発動。

 闇に気配を混ぜながら、彼は獲物を探して迷宮内を彷徨い歩いた。その姿はさながら魂を求め歩く死者のようであった。


 はたして獲物は居た。


 ゾンビ狼だった。

 戦ったこともなければ、その戦闘能力やレベルに至るまで、鏡夜は何もかもを知らなかった。しかも、敵は群れで活動しているらしく、五体もの数がいた。


(いける……か?)


 鏡夜が思考していると、ゾンビ狼たちが周囲を見回し始めた。

 今、鏡夜は『隠密』によって気配を隠している。だが、このスキルはまだ脆弱な上、狼はゾンビになっても鼻が利く。


 見つかるのは時間の問題だ。

 であれば、と新人吸血鬼は好戦的に牙を見せた。


(ここで殺そう……スキル『闇に潜む者』発動)


 盗賊スキル『闇に潜む者』は、敵対者を視界に入れている状況で、なおかつ敵に見つかっていなければ、攻撃力が上昇するスキルだ。

 まだスキルレベルが低いため、最大補正値である五倍に到達するには、一時間は見つからない必要がある。


 が、二倍であれば、二十秒もあれば十分だ。

 二十秒の待機後。鏡夜は投擲スキルを用い、拾った石ころを遠くに投げた。狼たちが石に意識を奪われた、瞬間――吸血鬼が加速した。


 ゾンビ狼は呻き声をあげながら、石ころに威嚇していた。

 鏡夜はそれを背後から見下ろし、そして、


(……申し訳ないけれど、おまえたちは魔物だ)


 まず一匹、首をへし折って殺害。二匹目を盗賊スキル『暗殺術』で流れるように殺し、振り返った三匹目の顔面を全力で蹴り潰す。

 三匹目の死体を投げつけ、残り二体を怯ませる。


 スキル『伸爪』を発動して爪を槍のように伸ばす。

 一体の心臓を貫く。爪を元の長さに戻しつつも、鏡夜は『サモン・イビルバッド』を詠唱して蝙蝠を出現させた。

 その蝙蝠がゾンビ狼に突撃、束の間の隙を作成してくれる。


 もう一度、全力で地面を踏みしめる。異常に発達した筋力値と敏捷性とにより、吸血鬼の速度は鏡夜自身にも制御不能なほどだった。

 結果、鏡夜は体当たりをしてしまう。


 その体当たりは蝙蝠ごと、ゾンビ狼の肉をぶちまけさせた。

 トラックで轢き殺したような惨状が生み出されていた。鏡夜だけが再生によって無傷だった。


「うわぁ、最悪だ……」


 鏡夜の全身がゾンビ狼の肉塊に染め上げられてしまった。結果は圧勝であったが、結末は悲惨の一言だった。


「調整していかないと使えないな。しかし、弱ったな……これじゃあ調整にも使えない。討伐目安はレベル10くらいなのかな」


       ▽

 ヴィクティムは蝙蝠に変身しながら、ひっそり、鏡夜のことを見守っていた。

 吸血鬼は強い。

 弱い吸血鬼は居ない、と言えるくらい、その身体能力や異能力は、他の魔物どもとは次元が異なるのだ。


 しかし、鏡夜のソレは吸血鬼の常識でも考えられないほど、異常な強さだった。


「アンデッド・ハウンドの討伐適正レベルは40。しかも群れている状況であれば50から60にも匹敵する厄介さを有している。だが、眷属くんは玩具と戯れるくらいの気概で以て、それを圧倒した」


 天性のセンスがある。

 正直なところ、鏡夜の吸血鬼としての能力は――決して高くはない。


 その再生能力こそは驚異的に思えたが、本来の吸血鬼――それも始祖吸血鬼の第三位、直々の眷属だ――はもっともっとデタラメな身体能力を持っている。


 それもそのはず。

 吸血鬼というのは、人間たちがパーティー単位で挑む相手なのだから。

 つまり、レベル50の人間とレベル50の吸血鬼がいた場合、人間は最低でも5人でチームを組まなければ吸血鬼と対峙することは敵わない。


 もちろん、吸血鬼にはこれまた異常な数の弱点があるので、専門家であれば単独でも討伐できるだろうが、基本は複数人で立ち向かうような怪物なのだ。


 だから、鏡夜の能力は決して高くない。

 だというのに、数ある吸血鬼の中でも第三位に君臨するヴィクティムが、彼に天性を見出したのには理由がある。


(彼の適応速度は凄まじい)


 すでに吸血鬼の力を自分の力として、扱えつつあるのだ。


「この始祖吸血鬼・第三位のヴィクティム・シファーでさえも、思わず尊敬してしまうほどだよ」


 いきなり吸血鬼に堕とされたというのに、戸惑いよりも先に理解を優先させた。

 状況判断も適切で迅速。思考を欠かさないながらも、いざという時の行動力は絶大だ。


 移木鏡夜。

 その男は職業こそ「ただの盗賊」と振るわなかったが、彼の精神性、能力自体は間違いなく、才能の塊だと言えた。

 ――戦闘の、いや殺すことに特化した、才能だ。


「さあ、どこまで魅せてくれるのかな、ボクの可愛い可愛い眷属くんは」


 蝙蝠の姿のまま、ヴィクティムは小さく嗤った。

 その小さな羽に、大きな悪意を乗せながら……


       ▽

 またもやレベルが上昇した。いっきに五体もひとりで倒したからだろう。


「勇者に捨てられた今、レベルなんてあげても無意味だが」


 それでもレベルが上昇することは楽しい。独特の達成感が身を満たす。また、新しいスキル選びも、その楽しさを充実に変えてくれた。


 とはいえ、ここは異世界。現実の世界。


 ゲームのようにスキルポイントの振り直しはできないし、攻略情報も存在しない。

 限りあるスキルポイントをてきとーに振ってしまい、挙げ句、弱くなってしまいました、ではお話にならない。

 スキルは慎重に選ぶべきだ。選ぶべきなのだ。


 ……べきなのだ、が……


(この『霧化』ってスキル、気になるなぁ。気になって夜も眠れないよ)


 吸血鬼だからね、と鏡夜はつまらないと理解したジョークを心に思った。口に出さなかっただけ、彼を称賛するべきなのかもしれない。


 好奇心が猫を殺したように、鏡夜は理性を殺して変化能力のスキルツリーから『霧化』スキルを取得した。

 試しにスキルを行使してみる。


 途端。全身がボンヤリとした感覚に包み込まれ、身体が霧に変わっていた。

 目が何処にあるのか、口はあるのか、耳はあるのか、手足はどれか、何もかもがまったく理解できない。まるで霧ではなく、違和感に変身してしまった気分。


 三秒ほどしたのち、全身が元に戻った。


「えっ、これだけ? ……たぶん、回避スキルなんだろうけれど」


 吸血鬼には再生スキルがある。それも四肢の消失にすら、瞬時に対応できるようなレベルの再生能力が存在している。

 ならば、吸血鬼に回避なんて不要なのではなかろうか。


 外れスキルを取ってしまった、と鏡夜が後悔した矢先、それらは現れた。


 黒いローブを身に纏った、漆黒の集団だった。彼らは一様に長杖を持ち、俯き加減でふらつきながら歩いている。

 フードの隙間から頭蓋骨が見えた。


 それがリッチーであることは、さすがの鏡夜でも知っていた。


(リッチーの適正レベルは50……集団ならばもっと上だ)


 逃走するべきだ。

 と、思ったときにはもう遅かった。リッチーは高レベルのモンスターだ。高レベルのモンスターはそれだけ能力も高い。


 鏡夜の低級『隠密』は、カーテンでも開けるくらいの感覚で打破されていた。


 リッチーの集団が杖を振り上げる。咆吼。

 杖の先端に炎が収束していく。ごうごうと唸る火弾は、闇の中、神秘的な輝きで以て、その暴力性を訴えかけてくる。


「サモン・イビルバッド!」


 イビルバッドを生み出し、即席の盾にしようとした。当然、小さな蝙蝠一羽では盾になどならないが、一発だけでも防げれば御の字だ。


 全力でうしろへ飛ぶ。

 直後、炎の雨が降り注いできた。

 距離を取ったことにより、命中するような炎弾は減少した。鏡夜は無数の攻撃パッシブが乗った腕で薙ぎ払い、炎を腕で叩き落とした。


「ちっ」


 腕に炎が纏い付く。

 腕は焼ける度に再生していくが、どうやら吸血鬼は炎に弱かったらしい。再生速度は弱々しく、このままでは火に命まで燃やし尽くされてしまう。


 鏡夜は目を閉じ、痛みに呻きながらも、スキル『霧化』を使った。

 身体が三秒間、霧状と化す。


 霧というのは、ようするに水である。水は炎には滅法強い、という印象があったが、炎の方が強ければ水は蒸発させられてしまう。

 三秒後、霧から人型に戻った鏡夜には、身体の三分の一がなかった。


「でも、炎は消えた


 再生。

 鏡夜が取った行動はひとつ。

 リッチーどもに背を向け、全力でその場から逃走したのだ。


(ぼくはまだ30レベルにもなっていない。リッチーと戦うのは早過ぎる)


 近接戦闘にまで持って行ければ勝機は十分にある。リッチーは魔法に特化した魔物であり、その肉体的な強度は他の魔物よりも劣るはず。

 一方の吸血鬼は身体能力に秀でた怪物だ。


 でも、数体のリッチーに正面から突っ込むほど、鏡夜は無謀ではない。

 吸血鬼に成って以来、初の敗北と言えた。だが、冷静に撤退を選択できたのは、冒険者としては勝利と言っても過言ではなかった。


       ▽

「耐性系、弱点系にも目を向けないといけない、か。それとも眷属系を伸ばして盾を増やすか、特異能力で単純に自分を強化して速攻を掛けるか、あるいは魔法で遠距離戦もあり、かな」


 選択肢はあまりにも膨大だ。

 あまり使えないと思われた『霧化』にしても、早速、使い道が見つかってしまった。一応、『霧化』のスキルツリーも見ておく。


 まず、『霧化』の持続時間が延びる分岐がある。

 今はたったの三秒なので緊急回避にしか使えないが、スキルレベルよっては霧になって身を潜め続ける、なんてこともできるかもしれない。

 他には、規模の拡大、縮小、状態異常の付与なども存在していた。

 濃さも変えるスキルがあるようだ。他にも霧状態で移動できる、というのもある。


「まあ急ぐ必要はなさそうだ」


 そうは言いつつも、鏡夜は霧状態で移動できるようになるスキル『霧歩き』のスキルを取得した。緊急回避しても、すぐにその場に戻ってしまうのでは、意味がないからだ。


 次に耐性系のスキルツリーを覗く。

 そこには物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性、状態異常耐性、特殊スキル耐性、という大まかな分類がしてあった。


 物理攻撃は最悪、避けてしまえば良い。

 だが、魔法攻撃は先のように回避も難しければ、炎のように吸血鬼の有効打になり得る攻撃が充実している。

 ということで、まず、鏡夜は魔法攻撃耐性を取得した。


『魔法攻撃耐性・低』から分岐するのは、各属性の耐性スキルだ。その中でも炎の耐性が欲しい。でも、吸血鬼にとっての炎耐性は入手が難しいらしく、比較的多くのスキルポイントを要求してきた。

 仕方がない。

 これは必要経費だ、と割り切って炎魔法耐性・低を解放する。できれば高になるまで取ってしまいたいが、少しだけスキルポイントが不足しているのと、火にだけ強くなっても意味がない、という思いがある。


 諦め、鏡夜は魔法に目をつけた。

お疲れ様でした。


予約投稿なる技術を会得するに至ったため、今夜は一時間ごとに0時まで連続投稿させていただきます。10話まで、ですね。

たくさんだ!

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