第86話 いつから母親になったんだ……?
ーーあれからさらに三ヶ月後……
「ーーあっれぇ……?部屋間違えた?」
芹と京は今、香織の住む部屋に訪れた……はずなのだが、香織ではなく、見知らぬ若い男性が二人をお出迎えした
「あの……どちら様でしょうか?」
いや、それはこっちのセリフなんだが……と、二人は思ったが、ここは堪えて……
「えっと……どちら様でしょうか?」
と、何故か聞き返してしまった
「えーっと……自分はこの部屋に住んでいる栁内 香織さんの彼氏です」
「「え、えぇぇぇぇ‼︎」」
二人は驚愕の声を上げたーー
「ーーなるほど……香織さんの娘さんでしたか」
香織の彼氏を名乗る者が、二人にお茶を提供し、机を挟んで話を始めた
「娘さんがいらっしゃることは聞いておりました。あ、私は 相田 諒太といいます」
二人は諒太に礼儀正しく、身だしなみもしっかり整った好青年という印象を抱いた
「あの……年齢は?」
「私ですか?今年で24歳になりました」
「24⁉︎」
あまりの若さに驚きを隠せない二人
「すごい年の差だな……」
「京さん……私達の方が年の差があるんです……」
「あ、そうだった……」
香織と諒太の年の差は16歳差。対して京と芹の年の差は22歳だ
「えっと……もしかして赤坂京さんですか?」
「そうですが……何故名前を?」
自身が赤坂京だと明かした瞬間、諒太は京の手を握り……
「ぜひお会いしたいと思っていました‼︎」
と、尊敬の目を向けられた
「えーっと……俺が何かした?」
「香織さんから聞いてますよ!かなりの金額の借金を肩代わりして頂いたとか‼︎」
「あー……まあそうだな」
「あ!ちょっと待って下さいね……」
諒太はそういうと、寝室へと入っていき、そしてすぐに戻ってきた
「肩代わりして頂いた分のお金が入ってます!いずれこれを持って赤坂さんの所にお伺いしようと思ってたんですよ」
机の上にドーンと大きなトランクケースを置いた
「う、受け取れないってこんなの⁉︎」
「何言ってるんですか!元々は赤坂さんのお金です!ちゃんと受け取って頂かないと困ります!」
トランクの押し付け合いが始まった
「い、いやいやいや!未来ある若者からこんな大金は受け取れないって!俺に返すぐらいならこのお金で香織と裕福な家庭を作りなって!」
「……なら香織さんが言ってた言葉をそのままお伝えします」
「借りたお金はちゃんと返して、そのお金を使って芹と幸せな家庭を築いてほしい」
京のトランクを押し返す力が弱まった
「「京ちゃんはお金を受け取ることを拒否するから、芹の為に使ってといえば必ず受け取るはず」って言ってましたよ」
……香織も京の扱いをわかってきたようだ。大抵の好意を受け取ることを拒否する傾向にある京。だが、芹の為であるといえば、京はその好意に甘えるのだ
京の弱点は芹なのだ
「……はぁ。分かったよ」
諒太からトランクを受け取った京
「芹。今日は美味しいご飯でも食べに行くか」
「……うん!」
返ってきたお金の最初の使い道が決定した
「にしても24歳でこんな大金……本当にもらってもいいのか?」
「大丈夫です!……あんまり自慢みたいになるので言いたくないのですが、私会社を経営してて、結構儲かってるんです」
24歳にして会社を経営する諒太。今ではそれほど珍しいことではないのかもしれないが、やはり若くして会社を経営するのは凄いことだ
「本当は香織さんも自分で稼いで返す!ってずっと言い張ってたんですが、何とか言いくるめて私が払うからってなんとか説得したんです」
頬をポリポリと掻きながら話す諒太
「あの、お母さんとはどうやって知り合ったんです?」
芹が、二人の馴れ初めを聞いた
「香織さんの働くお弁当屋さんにお弁当を買いに行った時に私が一目惚れいたしまして……」
照れ臭そうに話す諒太
「こんなに美しい女性は見たことない!心にグサっと何かが刺さるような衝撃でした……」
懐かしむように話す諒太
「そしてつい……好きです!付き合って下さいって勝手に口から出ちゃってて……」
「え?出会ってすぐにですか?」
「はい……5秒とかかりませんでしたね」
諒太は話を続けた
「最初は断られてました。あなたのような若い方とこんなおばさんが付き合うわけにはいかないって。でもそんなことは関係ない!ってゴリ押ししまして……やっと香織さんが折れてくれまして……二週間前からお付き合いさせて頂いてます!」
芹は再婚でもしようかなと、言っていた香織が誘ったのかと思っていたのだが、どうやら逆なようだ
「あ、えっと!芹さん!」
「あ、え、はい?」
突然大声で名前を呼ばれ、変な返答になった芹
「香織さんは自分が幸せにしてみせます!なので……結婚を許してください!」
まるで自分が香織の母親のような扱いをされた芹。戸惑いながらも芹が出した答えは……
「こ、こちらこそ!私の母をよろしくお願いします!」
と、咄嗟に返事をしてしまった……
「……っありがとうございます!」
喜ぶ諒太と戸惑う二人
「芹はいつから香織の母親になったんだ?」
「……今?」




