第85話 第713回赤坂京保護会議……?
ーー京と芹が付き合い始めて一週間が経った。二人は京の部屋で同棲生活をスタートし、香織は現在、一人で生活していた
「……行きますか!」
香織は最低限の荷物だけを持って、家を出た
香織の向かっている場所は市内の公民館。今日は週に一度のアレの日だ
「ーーでは、これより第713回。赤坂京保護会議を執り行いたいと思います」
白瀬が司会として取り仕切り、会議は始まった
香織は白瀬の隣に座った
「えー。皆様ご存知かもしれませんが、私達の保護対象である、赤坂京はとある女性とお付き合いを始めました」
騒つくこともなく、静寂が走る会場。結構な重大ニュースではあるはずだが、皆はもうその事は知っていたようだ
「……あんなぽっと出の女に……」
と、静寂の中、誰かがポツリと呟いた。その言葉を皮切りに、会場内は騒めき始めた
「そうよ‼︎私達は十五年近くもあの人を守ってきた!あんな数ヶ月程度の女に取られるわけにはいかないのよ‼︎」
「ただ若いってだけの女に赤坂さんは勿体ない‼︎」
ーーなどなど、文句の声が多々上がった
「……やっぱり荒れちゃったかぁ」
予想していたこととはいえ、白瀬は頭を抱えた
「別れさせてやりましょう‼︎」
「それいいわね‼︎」
という言葉が白瀬と香織の耳に入った
「……そんなのーー」
「ーーそれだけは許さない‼︎」
マイク越しに大声を出した白瀬。あまりの音量にキーンという音が会場内に広がった
「……いいですか?あの二人の邪魔をしようものなら……私が許しませんよ?」
トーンの低い声で脅すように語りかける白瀬
「……私が容赦ないこと……みんな知ってますよね?」
白瀬の言葉にまたも会場に静寂が走った
「ーーはーい。ちゅうもーく」
静寂の中、マイク越しに一人軽いノリで話し始めた
「瑠奈さん⁉︎」
「はーい。局長の瑠奈でーす」
出席率の悪い瑠奈の登場に会場は少しどよめいた
「今日はですね、スペシャルなゲストを呼ばせて頂きました。では、どうぞー」
と、瑠奈の背後から現れたのは……京だった
「赤坂京‼︎」
「赤坂様‼︎」
「神様‼︎」
会場内はアイドルのライブが始まったのかと勘違いするほどの歓喜の声が上がった
「はーい落ち着いて!今から赤坂さんが大事で大切で貴重な言葉を下さるから」
その言葉で会場は一気にシーンとなった
「はい赤坂さん。マイクです」
「あ……はい……」
切り替えの速さに京は戸惑いつつも、瑠奈からマイクを受け取った京
「え、えーっと……赤坂京です。皆様本日も私如きの為に集まっていただいてありがとうございます」
少し喋り方がぎこちない京
「私も……えーっ最近この自治体があることを知りまして……こんな何の取り柄もない私を守る為の会だとか何とかで……未だにちょっと信じられない部分もあるんですが……」
喋り方がぎこちないのは、京の女性恐怖症が完全に治った訳ではないからだ
芹、白瀬、香織、菜由、そして瑠奈。この五人以外の女性と話すことに未だ抵抗のある京。それも大勢の女性がいる中でのスピーチとなると、やはり緊張と恐怖心上回った
「ですが、白瀬から皆様のことは聞かせてもらっておりました。まずは……」
京はマイクを強く握った
「テレビ局の人が押し寄せた際は、本当にありがとうございました‼︎」
京は深々と頭を下げた
「皆様の取った措置のおかげで、私と芹は、今も何も変わらない平和な日々を過ごさせて頂いております。本当に感謝してもしきれないぐらいです!」
京の言葉に涙を浮かべる女性が次々と現れた
「改めて……皆様!本当に……本当にありがとうございました‼︎」
もう一度深々と頭を下げた京
会場の女性は皆、目元に涙を浮かべていた。自分達のしてきたことは、京に届いていた……それがなによりも嬉しいようだ
「私達の方こそありがとうー!」
「赤坂さんの役に立てて嬉しかったよー!」
「赤坂さん!幸せになってね‼︎」
京に対しての温かい言葉が相次いだ
「……京ちゃん」
温かい言葉が飛び交う中、京の耳に香織の声が届いた
「……良かったわね」
「……ああ。本当に」
やまない声……ただその一つ一つの言葉は全て京の幸せを願うものだった
「……今日の議題は、赤坂京の幸せを応援するかどうか……という内容の予定でしたが……皆様の答えは聞くまでもありませんね」
自治体のメンバーの答えはもう決まっていたーー
ーー後日
「あのねぇ……うるさすぎるんだわ」
「ご……ごめんなさい……」
市長にとある理由で呼び出された白瀬。赤坂京保護会議での歓声と声援があまりにうるさすぎたようで、市内の男性達から苦情の嵐だったようで、白瀬に注意喚起をしているようだ
「……君達の行動力は素晴らしいと思う。……内容はともかくとしてな。だが、うるさすぎるとこちらとしても貸し出すことをやめろって声が上がってしまうから」
「……はい。気をつけます……」
「……分かればいいんだ。これからは気をつけてくれ」
「はい……失礼します……」
市長のいた部屋から出た白瀬
「はぁ……瑠奈さんめぇ……面倒ごとばっかり押し付けてぇ……」
本来ならば局長である瑠奈の仕事なのだが、基本的に面倒くさがりの瑠奈は白瀬に責任を押し付けたのだ
「……まあでも、京さんを連れてきたのは正解だったなぁ」
瑠奈の突拍子な行動のおかげで、自治体内で荒れることもなく、京と芹を応援するという結論に至らせることが出来た
「そういうところは……敵わないなぁーー」
ーー時間は自治体会議後にまで遡る
「今日は来てもらってありがとうね」
瑠奈は京にお礼を言った
「いえ、いずれは伝えようと思っていたことで、その機会をもらえてこっちとしても助かったよ。でも良かったのか?こんな事にお願いの一つを使って……」
京と瑠奈の間には瑠奈のお願いを三つ聞く。という約束があった。一つは既に、香織の弱点を教えるというもので消費したのだが、あと二つのうちの一回を使ったようだ
「いいんですよ。これは必要な浪費でしたから」
「……じゃああと一つだな」
「実はそれももう決まってるんですよ」
瑠奈は京に小指を突き出した
「芹ちゃんと一緒に、幸せになってくださいね」
瑠奈の最後の願いは、二人の幸せだった
「……お願いにしなくてもそのつもりだよ」
京も小指を突き出し、小指同士を絡ませた。いわゆる指切りだ
「……にしても、指切りとか子供っぽい事するなぁ」
「むっ!子供っぽいって言うな‼︎」




