第84話 今も昔も……?
「ーー良かった……本当に良かった……」
香織がいる栁内家に顔を出した二人。芹と京が一緒にいることに安堵し、涙を流した
「も、もう……お母さんってば……」
「香織……心配かけさせて悪かったな」
二人で香織を宥めた。そして落ち着かせた後、椅子に座って続きを話した
「ーーそう。辰馬が……」
芹は辰馬が現れたこと。そして自身が京の娘ではなく、間違いなく香織と辰馬の子供であること。そして、もう辰馬は現れないだろうということを香織に伝えた
「ごめんなさい……私にもう少し知識さえあれば……」
「謝る必要なんかない。あいつも自分がシスAB型ってことを隠してたんだし、気づかないのも無理ないさ」
シスAB型は希少な血液型。そもそもシスAB型という血液型があることを知らない人も多い
「……もし芹が本当に京ちゃんの娘だったとしても芹の恋を応援するつもりだったけど、やっぱり障害は多くなる……だから本当に良かった……」
「……お母さん」
芹は香織の手をギュッと握った
「お母さんが励ましてくれてなかったらもうダメだった……本当にありがとう!」
「……っ!も、もうっ!これ以上泣かさせないでよっ!」
芹の言葉に涙ぐむ香織は涙をぬぐい、京に問いかけた
「京ちゃんはさ……どうして芹を受け入れてくれたの?」
京は一つ息を吐いた……
「……芹が俺との事を諦めないーーそう言った時、俺は芹を拒否してしまった……もう女としては見れない……娘としてしか見ることが出来ない……と」
少しの沈黙の後、京は話を続けた
「芹が走り去ってから考えたんだ。なぜ俺は芹を拒んだのか?拒む理由は?娘だから?……たったそれだけの理由で?」
京は芹の方を向いた
「今考えれば、十分大層な理由だけど、それでもあの時はちっぽけな事に感じたんだ。……それぐらい、俺は芹が好きなんだなって思ったんだ」
芹は少し照れくさそうにしていた
「……そっか。それだけ好きなら大丈夫だね」
香織は席を立ち、タンスを漁った
「……それは?」
「私の結婚指輪。あんなやつでも一応私に結婚指輪渡してたの」
その結婚指輪を、香織はゴミ箱へ容赦なく捨てた
「二人を見てたら私も新しい恋したくなっちゃった」
「えっ‼︎お母さん再婚するの⁉︎」
「そうね〜。芹はこれから京ちゃんと暮らすことになるだろうしー、私も一人になるのは寂しいし……」
なぜかもう既に京と芹は一緒に暮らすことになっていた
「ま、まだ同棲とか何も決まってーー」
「同棲?何言ってるの?もう結婚するでしょ?」
二人はポカンとしていた
「はいこれ」
白瀬は指輪が入っていた場所を再度漁り、紙を二人の前に出した
「もうあとは出すだけよ?」
その紙は、婚姻届だった
「ちょっ!なんでこんな物を⁉︎」
「なんだって言われても……さっき白瀬ちゃんから宅配便で送られてきてたから……」
「はぁ⁉︎」
二人の名前にハンコまでちゃんと押された婚姻届が芹達が来る一時間程前に送られてきたらしい
「ーー白瀬め……あいつはどれだけ先を見据えてるんだ……」
一時間前に送られてきたと言っていたが、白瀬に付き合い始めたと報告したのは30分程前。つまり、白瀬は報告に行く前から既にこうなる事を見越していたということになる
「……もう人間じゃないでしょあの人は……」
「……だな」
二人は大きな溜息をついた
「……で、出すの?出さないの?」
香織は改めて二人に問いかけた
「……そんなの決まってるだろ?」
「……私ももう決まってます」
京は婚姻届を持ち……ビリビリに引き裂いた
「「今から白瀬(香奈宮先輩)に説教してくる(きます)」」
破いた紙をゴミ箱に捨てた
「お互い好き同士でも、まずは同棲から始めないと!一緒に暮らして、改めて良いところと悪いところを見つけてからじゃないと結婚なんて出来ないです!」
「俺も芹と同意見だ。やはりもっとお互いを知ってからだ。知り合ってからまだ一年も経ってないからな。あと、婚姻届は自分達で書いて出す方が良いに決まってるしな!」
二人は靴を履き、玄関の扉を開けた
「あ、お母さん。再婚はいいけど、ちゃんといい人選んでね?」
「えっ?ああうん……」
「香織ならいい人すぐに見つかるさ。……今まで苦労した分、これから幸せが来るだろうからな」
「……だといいけどね」
京と芹は微笑み、そして白瀬の所へとダッシュで向かった
「……幸せか」
香織はタンスの中を漁り、写真アルバムを取り出した
「……私は十分幸せだよ。今も……昔も」
京と付き合っていた頃のツーショット写真と芹とツーショットの写真を見ながら、しみじみとする香織だった……




